全日本プロレス「大型選手を中心としたリング内の多様性が人気を生む」
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「今、全日本プロレス(以下AJPW)が面白い」という声が聞こえる。プロレス界全体の一時の勢いが収まりつつある中、AJPWの客足は目に見える形で増えている。理由に挙げられるのが、「大型レスラー増加によるわかりやすさ」だ。
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~相撲とプロレスが融合したハイブリッドレスラーを目指す(斉藤ジュン)
「日本の国技である相撲界出身なので期待を感じる。自分らしく相撲の良さを前面に出していきたい」と胸を張るのは、現・三冠王者(AJPW最高峰のチャンピオン)の斉藤ジュン。
宮城県角田市出身で米国人の父と日本人の母を持つ斉藤は、双子の弟・レイと共に高校から米国で過ごす。大学在学中に格闘家を目指して帰国、紆余曲折の末に2人揃って相撲部屋に入門。幕内入りはできなかったものの、8年に渡り土俵の上で汗を流した。
「相撲界には他競技のようなウエイトによる階級分けがありません。常に超ヘビー級の力士との稽古をしました。大きい人と毎日体をぶつけていたので、プロレス界に入った時も先輩レスラーの圧力に対する怖さはありませんでした」
2021年のプロレスデビューから快進撃を続ける。弟・レイとのタッグ「斉藤ブラザース」では世界タッグ王座を戴冠、2023年プロレス大賞新人賞を獲得した。2人の勢いはその後も衰えることなく、今や団体の顔となっている。
「弟・斉藤レイも同感だと思いますが、相撲をバックボーンにするレスラーは世界的に見ても少ないので、そのルーツを大事にしたい。力士特有の強さや素晴らしさにプロレスの良さを加えた、ハイブレッドレスラーを目指します」
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~プロレスにおいて身体が大きいことはプラスしかない(綾部蓮)
「大きい選手がぶつかる面白さは、初めて見る人にも確実に伝わると思います」と冷静に語るのは、団体の未来を期待される身長2mの綾部蓮。
プロレス観戦に訪れた会場で元WWEでも活躍したTAKAみちのくにスカウトされ、2020年にJAST TAP OUTへ入門。その後は他団体へも積極的に出場する中、2023年限りで同団体を退団、翌24年4月1日付でAJPW入団を果たした。
「(身長の高さは)学生時代にやっていたバスケットボールでは武器でしたが、同時にコンプレックスもあった。『小さくなりたい』と思ったこともありました。でも、レスラーになってからは『プラスしかない』と思えるようになりました」
「何の予備知識がなくても『強そうだな』と思ってくれるはずです。でかい方が強い印象を与えられると思うので、難しく考えずシンプルに戦うことを考えています」
AJPWの大型選手といえば、恩大・ジャイアント馬場(故人)をどうしても連想してしまう。
「ノスタルジックに浸ってもらうのは構いません。でも、ランニングネックブリーカードロップなどの同じ技は使っていますが、『現代の馬場さんを目指す』という思いはない。参考にできる部分は大事にしつつ、綾部蓮らしさを作っていきたいです」
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~大型と小型選手のバランスが取れているのはドジャースと同じ(和田京平氏)
1972年にジャイアント馬場が立ち上げた AJPWは、選手の離脱や親会社の変更などを経て50年以上の歴史を刻み続ける。団体立ち上げから関わり、70歳の現在も名誉レフェリーを務める和田京平氏は現状をわかりやすく説明してくれる。
「プロレスで大きい選手が映えるのは間違いない。セミやメインで外国人選手や大型選手が出てくると、『何かが起こりそう』と会場内の空気感も締まる。馬場さん健在の頃は大型選手しか採用せず、身長185cmでもダメだった選手もいます」
「大型選手は他競技も欲しがるので、時代と共にプロレス界に小型選手も増えていきました。そういった身体が大きくない選手が本当に頑張ってくれています。その中で再び大型選手も増え始め、両方が良い具合に交わりバランスの良いパッケージができています」
「ドジャースも大谷翔平のような大型選手だけでなく、ムーキー・ベッツのような小型選手がいるから面白い」と野球・メジャーリーグも例に出してくれた。
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「大きい選手、小さい選手、のどちらか極端に偏らないようなバランスが大事。馬場さんが昔から言っていた『明るく・楽しく・激しく』もそういう部分です。リング内に多様性が見られるから、AJPWは人気が出ていると思います」
「大きい選手が頑張って、小さい選手も負けないようにやるから盛り上がる。小さい選手は『俺も大きくなりたかった』と絶対に思っているはずだけど、それが闘争心にも繋がる。切磋琢磨と口にするのは簡単ですが、そういうものが自然に出始めています」
「選手には、『自分たちの姿は全てお客さんに伝わる』と常に言っています。嫌な気分や緊張しながら試合をやっていたら会場全体に伝染する。リング内の良い調和、選手たちの楽しそうな姿を感じてもらっているのだと思います」
「選手がイキイキしていればお客さんも楽しめる、というのが僕の長年やってきた結論です」と締めてくれた。
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~レジェンド選手との対戦経験は大きなアドバンテージ(諏訪魔)
現在は昇り調子のAJPWだが、会社存続すら危ぶまれた時期もあった。当時、エースとして身体を張り続けたのが諏訪魔だ。
「どの世界も同じですが良い時期も悪い時期もある。耐えていれば何とかなる、と思ってやってきた。選手としてだけでなくスカウティングを任され、中央大の後輩でもある安齊勇馬を獲得することもできた。そういう選手たちが少しずつ育ち始めてくれているのは嬉しいです」
アマレス界の強豪として知られ、2004年に27歳でプロレス転向。AJPW入団時から大きな期待をされ、他団体を含む上世代の強豪レスラーとも数多くの対戦を重ねてきた。
「(人気回復は)若くて良い素材の選手が増えたのが大きい。見映えの良い大型選手の存在もあるが、若手の誰もが前向きに切磋琢磨している。壁にぶつかることもあると思うけど、1つずつ乗り越えれば経験を積んでどんどん良いレスラーになるはず」
「若手同士でガンガンやり合えるには羨ましいです。でも、僕はレジェンド級の選手たちと数多く試合をしてきた。少し前は選手層が今ほど厚くなかったですが、その分だけ経験が積めた。そこでのアドバンテージを出していきたい」
48歳とベテランの域に入っているが、まだ道を譲る気持ちはない。失礼を承知で「自分が今、若手世代だったら何をやりたいか?」を尋ねた。
「めちゃくちゃやって大暴れします(笑)。でもこれからもやりますよ。花をまだまだ咲かせます」と即答してくれた。
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~会場内の熱気が超世代軍時代と似ている
「超世代軍の時の雰囲気に似ている、と感じる時があります」と和田氏は付け加えてくれた。
超世代軍とは団体内の世代交代を図るため、1990年代に三沢光晴氏(故人)や小橋健太氏、川田利明氏、田上明氏らが中心となったユニット。昭和時代からAJPWを支えてきた主力選手たちとの熱闘は好勝負が連発。ビッグマッチ会場だった日本武道館は、常にフルハウスに埋まるほどだった。
「プロレスの質は異なる。でも選手が必死に戦う姿勢が伝わり、会場内が熱く燃え上がるのは同じ。時に女性ファンからの黄色い声援がたくさん聞こえるのも同じ。あの時代に戻るにはまだ遠いけど、空気感が似ている。期待してしまう」
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プロレス業界の低迷が始まって時間が経つ。「プ女子」と呼ばれる女性ファンを中心に一時的に集客が増えた時期もあったが、最近はどの団体も苦戦をしていると聞く。その中でAJPWは異彩を放っている。
和田氏の言うように以前の姿には程遠いかもしれないが、「もしかしたら…」を感じさせる。日本武道館、そしてその先の大箱を札止めにして熱狂に導く可能性をAJPWは持っている気がする。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・全日本プロレス)