• HOME
  • コラム
  • その他
  • 埼玉県草加市から始まった車いすボクシング普及、スポーツマンシップが人生を豊かにする!!

埼玉県草加市から始まった車いすボクシング普及、スポーツマンシップが人生を豊かにする!!

一般社団法人日本車いすボクシング連盟が発足、競技普及を行なっている。

障害を背負っていてもスポーツ(=ボクシング)を楽しめる選択肢がある社会環境の実現が目的。競技としては24年パラリンピック・パリ大会での正式種目採用(=パラ競技化)を目指している。

~車いすボクシングは『競技』であって『見せ物』ではない。

10月17日、『WBC Cares in SOKA』(埼玉県・草加市文化会館ホール)が開催され車いすボクシングが紹介された。一般社団法人『日本ソーシャルスポーツアカデミー』(木村忠義代表理事)が主催した同イベントには、元世界王者の亀田興毅氏、元東洋太平洋王者の坂本博之氏らも駆けつけた。

「障害を持っている人でもスポーツを楽しめる選択肢を増やしたい。車いすテニスやバスケットボールはすでに存在する。個人スポーツを好きな人には車いすやブラインドという障害者ボクシングがある環境を作りたい。ボクシングは楽しい、難しいというのを実際に感じてもらいたい。そのための日本車いすボクシング連盟です」(木村氏)

現在、車いすボクシングに関する正式団体は存在しない。英国で小規模団体が普及活動を始めているが実質ゼロからの挑戦となる。日本ソーシャルスポーツアカデミーが中心となり車いすボクシング普及への1歩を歩み始めた。

「英国団体とともに盛り上げていきたい。目標であるパラ競技化には世界40カ国程度の普及がなければダメ。日本パラスポーツ協会との関係も作りながら普及に努めている。日本で結果を出して海外戦略はアジアからやっていきたいですね」(木村氏)

車いすボクシング普及には多くのハードルが存在する。統括団体がないことに加え地下格闘技として劣悪な扱いをされてきた過去もある。競技、スポーツとしてではなく『見せ物』として扱われてきた。また総合格闘技団体UFCで活躍するコナー・マクレガーが「車いすボクシングをやる」と発言したことも『見せ物』化への勢いをつけかねない。慎重かつスピーディーに車いすボクシング普及を進める必要がある。

「安全性がなければスポーツではない。車いすが荷物のようにリングに放り上げられ、殴り合えば倒れるような『見せ物』だった時代がある。マクレガー発言からは『見せ物』になりそうな危険性も感じる。殴り合いだけでは競技性から外れるしパラ競技になるはずがない」(木村氏)

多くのボクシング関係者協力のもと『WBC Cares in SOKA』が開催された。

~WBC(世界ボクシング評議会)とともに草加市から車いすボクシングを発信。

草加市はモンゴルと友好関係を結んでおり子供相撲や大草原写真展を開催、井戸を作るなどの支援活動もしている。ボクシング強豪国でもありボクシングコミッションを立ち上げプロ化への道を作ることにした。また草加市の車いすボクシングへの理解が深く拠点を置くことにした。

「車いすボクシングをパラ競技にしたいという思いはあるが、その先には草加市が住みやすい街になると信じている。ボクシングジムは街の学校と言われ道を外した人を更正させる力もある。ボクシングの街で町おこしにつながる可能性も大きい」(木村氏)

WBC(世界ボクシング評議会)と協力関係を結んでいる。WBCは06年に社会貢献活動を主とした非営利団体『WBC Cares』を設立、『Big Champions For Little Champions』の理念でボランティア活動などを行っている。日本の活動拠点となる『WBC Cares Japan』は20年から活動を始め、今回のイベントを含め日本車いすボクシング連盟をサポートしている。

「WBCはボクシングを通じた社会貢献の必要性に気付いている。我々の理念と一致しているので協力関係を結んでいる。世界的団体でネットワークもあるので活用させてもらい普及活動を進めたい。競技スポーツの最高峰、終着点を目指して『見せ物=プロ化』をしないことを考えている。興行面を出さず競技に特化するからこそパラリンピックが目標であり住みやすい街づくりがその先にある。まずはボクシングを楽しんで欲しい」(木村氏)

WBA世界ライトフライ級、WBC世界フライ級、WBA世界バンタム級の世界3階級制覇をした亀田興毅氏。
全日本新人王、日本ライト級、東洋太平洋ライト級王座を獲得した坂本博之氏。

~障害者への理解、指導者の育成、用具の改善。

競技の安全性担保のために指導者の育成や道具の問題などクリアすべきことは多い。パラ競技実績がある他競技団体を参考にしながら車いすボクシングの最適なルール、ガイドラインを作り上げている真っ最中だ。元JBC(日本ボクシングコミッション)事務局長だった安河内剛氏も活動サポートをしている1人だ。

「ボクシングと社会の接点を模索する中、車いすボクシング普及が重要と思ったので手伝わせてもらっている。まずは障害者への理解が必要なので指導者の育成が急務。参考になるのがパラテコンドー、パラサッカー協会。例えば、世界テコンドー協会は障害者に対する指導をやっていて指導カリキュラムがある。サッカー協会も同様で体系化できている。そういうのを学ばせてもらいWBC Caresと連携してやっていきたい。そして用具も安全性に関して重要なファクター。現在、車いすはボクシング用のものがなくてバスケット用を使っている状態。今後の過程で道具にも臨機応変かつ早急に対応したい」(安河内氏)

リングやグローブなど車いすボクシング専用の用具開発も進められている。

~スポーツマンシップによって人生が楽しくなり住みやすい街が増える。

東京五輪はコロナ禍での1年延期、無観客開催などの影響もあり従来とは異なる形で行われた。だからこそスポーツの価値や存在意義を改めて痛感させられた大会でもあった。日本車いすボクシング連盟発足がこのタイミングであったのも決して偶然ではない。

「一番大事なのはスポーツマンシップ。スポーツマンシップを発信することができないと『競技』として意味を持たずに『遊び』で終わる。ボクシングが社会との接点を持って何ができるか? 車いすボクシングが広がっていけば人生を楽しむ選択肢が増え、住みやすい街も多くなるはず」(木村氏)

世界中で多くのボクシング興行が開催され日本人選手の活躍にも期待が集まる。注目度こそ違うが日本車いすボクシング連盟による草の根活動も日に日に広まっている。車いすボクシングが日常で楽しめる日が来た頃には、パラボクシング競技での日本人メダリストも誕生しているはずだ。そして住みやすい街が全国に増えているだろう。

(取材/文・山岡則夫、取材/写真協力・一般社団法人日本車いすボクシング連盟)

関連記事