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「羽生結弦や荒川静香に続く選手を」日本フィギュアスケート発祥の地・仙台で輝く“氷上のスター候補生”たち~第14回七夕杯~

 日本フィギュアスケート発祥の地とされる仙台市。ここでは毎年、「仙台七夕まつり」が開催される8月上旬に、「七夕杯フィギュアスケート競技会」が開催されている。会場は仙台市泉区にあるアイスリンク仙台。羽生結弦、荒川静香、本田武史、田村岳斗…。各時代を彩る名スケーターを輩出してきたスケートリンクだ。14回目の開催を迎えた今年も、宮城のスケーターたちによる、熱く、美しい戦いが繰り広げられた。

 大会が始まったのは、荒川静香がトリノ五輪で金メダルを獲得した翌年の2007年。当初は大会名に「荒川杯争奪」の冠がついており、県内では夏の大会がなかったことから、シーズンが本格化する前の実戦の場として設けられた。2011年は東日本大震災の影響で中止となり、コロナ禍以降は2020年は中止、昨年と今年は無観客開催となった。参加資格は宮城県スケート連盟に登録している選手(無級・アイスダンスを除く)。今年は小学1年生から82歳までの86人が出場し、日頃の練習の成果を披露した。

「東北のエース」千葉百音が挑む4回転トーループ 地元の大会で初お披露目

 5級以上の選手がそろうジュニアの女子では、千葉百音(もね)選手(東北高)が2年連続で頂点に立った。現在、宮城、東北のトップを突き進む高校2年生。ノービス時代から国際大会を経験し、昨季は全日本ジュニア選手権で3位、3度目の出場となった全日本選手権で11位と躍進した。さらなる成長が期待される今季。来月には初参戦となるジュニアグランプリシリーズ(アルメニア大会)出場も控える中、七夕杯ではある挑戦に立ち向かった。

 この日披露したプログラムは、昨季から継続のフリースケーティング「Butterfly Lovers Concerto」。演技冒頭、「試合では初めて」という4回転トーループに挑んだ。4回転ジャンプを試合で成功させた日本の女子選手は、4回転サルコーを決めた安藤美姫、紀平梨花、そして昨季複数の大会で4回転トーループを降りた13歳・島田麻央の3人しかいない。千葉は「フィギュアスケートはジャンプだけの競技ではないので、スケーティングスキルも磨いていかないといけない」とした上で、「トリプルジャンプだけでは世界では戦えない。自分の武器を持ちたい」と挑戦の理由を明かしてくれた。

スタートポジションにつく千葉

 4回転トーループはダウングレード(規定の回転数より2分の1以上の回転不足)を取られ、着氷はならず。「軸を作る前にずれた感じ」と唇を噛んだが、「しっかり挑戦できたのはよかった」と手応えも口にした。昨年から本格的に練習を始め、まだ着氷はできていないものの、軸を作る感覚は徐々につかめるようになってきたという。

 その後も前半はジャンプのミスが目立ったが、後半は連続ジャンプを2つ決めるなどし修正。「練習通りにできた」というスピンやコレオシークエンスは高い出来栄え点を獲得し、昨季から磨いてきた、バイオリン協奏曲に溶け込む優雅でしなやかなスケーティングも高く評価された。2位に34.04点差をつける100.38点で優勝。シーズン本番前の前哨戦で結果を残した。

「技術の限界に挑戦し続ける」大先輩・羽生結弦の背中

 4回転トーループに挑戦する千葉の目には、同じく挑戦を続ける地元の大先輩・羽生結弦の姿が映っている。今年7月、競技会への出場はせず、プロに転向することを表明した羽生。その「決意表明」の記者会見では、4回転アクセルへの挑戦を今後も続けることを明かしていた。

 会見を見た千葉は、「選手目線からすると少し寂しい」と感じた一方、羽生の偉大さに改めて気づかされた。「羽生選手のスケート人生はこれから始まっていくと思う。技術の限界に挑戦し続ける姿、懸命に努力する姿を見守りつつ、私も4回転トーループを頑張って飛びたい」。そう語る目は輝いていた。

表現力の向上も際立っている千葉

 6歳の頃にアイスリンク仙台で出会い、全日本選手権の舞台で再会した。「私の中ではオリンピック王者の雲の上の存在だけど、昔も今も変わらず、優しく接してくれる」。スケーターとしても、人としても尊敬する同郷のスターを追いかけ、まずは来月のジュニアグランプリシリーズで千葉百音の名を世界に知らしめたい。

男子も成長中 羽生に憧れる中学1年生は今季からジュニア本格参戦

 宮城には羽生に憧れスケートを始める選手が多くいるが、ジュニア男子に出場した小山蒼斗選手(仙台泉F.S.C.)もその一人だ。5歳の時に羽生のスケートを見て、自身も競技を始めた。「羽生君と同じリンクで滑っていると思うとすごくワクワクする」。スケートを楽しみながら、着実に力をつけてきた。昨季はジャンプの難度を上げ、初めて全日本ノービス選手権に出場。この春から羽生と同じ仙台市立七北田中に入学し、今季は本格的にジュニアに参戦する。

 大会前、新型コロナに感染し、この日は完治してから約1週間しか経過していなかった。ベストコンディションではない中、「悔しい部分もあったけど、成長もできた」と振り返る演技を見せた。体力面などを考慮し、後半に入れる予定だったトリプルサルコー+ダブルトーループを取りやめ、前半のトリプルサルコーを連続ジャンプに変更。後半のダブルアクセル+シングルオイラー+ダブルフリップも急遽、ダブルアクセル+ダブルトーループに変え、次のジャンプをダブルルッツ+シングルオイラー+ダブルサルコーにした。臨機応変な対応力と柔らかなスケーティングが光る中学1年生の未来が、今から楽しみだ。

中学生らしい笑顔も印象的な小山

 ジュニア男子で小山を抑え優勝したのは、この春から高校生になった尾形広由選手(東北高)。尾形も大会直前に左足のアキレス腱を故障するアクシデントに見舞われていた。思うように練習ができなかったことから、ジャンプではミスが続いたが、自身が強みと話すスピードのある大きなジャンプも要所要所で決まっていた。ダイナミックな滑りで「ラストサムライ」を演じ、84.86点。「高校に入ってからは結果を残さないといけない」と力を込める尾形は、この日は棄権した高校の同級生・本田大翔とともに宮城のジュニア男子を引っ張る。

仙台の地で見据えるは、世界に羽ばたくスケーター

 宮城県スケート連盟によると、連盟登録選手は現在約100人おり、増加傾向にあるという。2009年に仙台市青葉区にあった勝山スケーティングクラブが閉鎖され、県内の通年スケートリンクはアイスリンク仙台のみとなったが、偉大な先輩たちの存在も大きく、未だフィギュアスケート人気は衰えていない。

クールな表情で魅了した尾形

 一方、競技面で日本のトップを走る層には関東や関西、中京に練習拠点を置く選手が多いのも事実。羽生が第一線を退いた今、次なるスターの誕生も待ち望まれている。会場で選手たちの演技を見つめた宮城県スケート連盟の赤間弘記会長は、「結弦や静香に続く、世界で活躍する選手がここから育ってほしい」と大きな期待を口にした。仙台から世界へ。フィギュアスケートの聖地では、その期待に応え得るスケーターたちが日々、氷上で己を磨いている。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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