B-net/yamagataと横浜ベイブルースが山形でオープン戦 きらやか銀行OB監督、古巣の休部ニュースを目にして「力になりたい」
10月14日、山形市の硬式野球クラブチーム「B-net/yamagata」が、きらやか銀行総合グラウンド(山形県中山町)でオープン戦を行った。対戦相手は横浜市の硬式野球クラブチーム「横浜ベイブルース」。ある縁がつながって実現した一戦だった。
「いつか試合できたらいいね」が現実に
B-net/yamagataは、昨年9月に無期限休部を発表したきらやか銀行硬式野球部(山形市)のメンバーが中心となって今年1月に発足したクラブチーム。多くのスポンサーやファンクラブ会員に支えられ、6月の都市対抗野球第二次予選東北大会で3勝を挙げるなど早くも存在感を示している。
一方、遠征の際の交通費が選手の自己負担であることや、各々の仕事や家庭の都合で人数が集まりにくいことなどが原因で、オープン戦は満足に実施できていないのも現状。夏場には隣県の大学との試合を予定していたが天候などの影響で中止となったため、今回のオープン戦は5月下旬以来だった。
舟田友哉監督(39)に今回のオープン戦を設けた経緯を尋ねると、「夏頃、杉山監督が山形に来た時に食事をして、『いつか試合ができたらいいね』と話していたんです」と教えてくれた。「杉山監督」とは、横浜ベイブルースを2011年から率いる杉山雄基監督(39)のこと。杉山はきらやか銀行OBで、舟田の後輩に当たる。きらやか銀行の先輩・後輩対決が山形で実現したのだ。
41歳左腕が圧巻の完封劇「楽しかった」
試合はB-net/yamagataが4対0で快勝した。2回に1点を先制すると、8回には長谷川徹内野手(35)のソロ本塁打などで3点を追加。投げては、資金調達や日程調整などの業務を担うマネージャーを兼任する左腕・石川剛投手(41)が9回3安打2四死球無失点と快投し、20代の野手がずらりと並ぶ横浜ベイブルース打線をシャットアウトした。
石川は試合後、疲れを感じさせずに「楽しかったです」と笑顔。この日は試合ができるぎりぎりの人数で、石川の仕事は投手だけではなかった。試合中は打者が使用したバットを片付けるバットボーイを務め、5回終了時のグラウンド整備では「整備入ります!」と大きな声を出し、トンボを使って誰よりも早く作業に取りかかっていた。
杉山にとっては石川もきらやか銀行時代の先輩。杉山は「若い時は熱投派で、思い切り投げるイメージだった。今はテンポよく投げ、力を入れるところは入れて、力を入れなくていいところは抜くスタイル。ピッチャーのお手本のような投球を見せていただき、勉強になりました」と脱帽した。
そんな杉山も7回に登板した。選手兼任だが、所属選手が増えてきたことから現在は自らの登板機会を制限しており、この日が約1年ぶりのマウンド。「ストライクを入れるので精一杯だった」と苦笑いを浮かべながらも、「9番・指名打者」でスタメン出場した舟田を三ゴロに仕留めるなど、1回を無失点に抑えた。同じ左腕である石川の快投を目の当たりにし、「石川さんに負けないようにトレーニングしなければ」との思いを強くしていた。
念願叶った一戦、次は全国の舞台で
「ヒット打ちたかったんですけど…悔しいです」。試合後、舟田は投手・杉山との対戦をそう振り返りつつ、「この歳になってグラウンドで対戦できるとは」と感慨深げ。石川も後輩の指揮、投球を見て「都市対抗野球を目指して一緒に戦ったメンバーがそれぞれの場所で頑張っているのはうれしいし、刺激になる」と改めて感じていた。
「きらやか銀行が休部するというニュースで舟田さんと石川さんの名前を見て、同じクラブチームとして力になりたいという思いがあった」と話す杉山にとっても、念願の対決だった。
杉山は2007年に入行し、同年途中に硬式野球部が一時クラブ化したことを受けチームを去り、その後神奈川に拠点を移してきらやか銀行時代の先輩が在籍していた横浜ベイブルースに加入した。チームを存続させることの難しさは、身をもって痛感している。
「きらやか銀行が愛されていたからこそ、スポンサーさんがこれだけたくさんついているのだと思う。その火を絶やさずに、地元の方に応援されるチームになってほしい。そして、クラブ選手権(全日本クラブ野球選手権大会)でぶつかれるよう頑張りたい」。かつての仲間にエールを送るとともに気を引き締めていた。
「Baseball-network」を広げるために
B-net/yamagataは8月の東北クラブカップで準優勝し、北海道開催の北海道・東北地区クラブ交流大会への参加資格を得た。しかし、当日遠征できる人数がそろわず参加を辞退。資金面、運営面の課題はまだまだ山積みだ。石川も「中には心のトーンダウンをしている選手もいる」と漏らす。
そんな状況だからこそ、石川は「練習や試合に来た時に『楽しいんだ』『しっかりやっているんだ』『やっぱり違うな』と選手たちに思ってもらいたい。仲間と野球をするのが楽しいと思える環境をつくりたい」とも話す。参加頻度の多寡に関わらず、所属選手の居場所は決してなくさない。
横浜ベイブルース戦で「7、8年ぶり」だという本塁打を放った長谷川は、きらやか銀行が都市対抗初出場を果たした年の主将。2019年からはコーチを務めていたが、再び選手としてプレーしている。本塁打は「たまたまです」と謙遜したものの、表情は充実感に満ちあふれていた。「また野球ができる環境をいただけたのはありがたい」。練習に参加する機会が多くない中でも、野球の楽しさは日々再確認している。
今回のオープン戦では、試合後に表彰セレモニーが実施された。遠方から足を運んでくれた対戦チームに喜んでもらうため、舟田と石川が中心となって企画したイベント。石川の司会で進行され、優秀選手に山形県産米「つや姫」が贈られるなどし盛り上がった。
舟田は以前、「負けても『またグラウンドに足を運んで応援するよ』と言ってもらえるチームにしたい」と話していた。その思いはファンに対してだけでなく、自チームの選手や対戦チームに対しても同じだ。関わる一人ひとりに「またグラウンドに足を運びたい」と思わせてこそ、「Baseball-network」は広がっていく。
(取材・文・写真 川浪康太郎/一部写真提供 B-net/yamagata)