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「コーチと選手の関係性!」タイガースカップ準優勝・関メディのブレない信念

『関メディベースボール学院(以下関メディ)』は昨年末の『第17回タイガースカップ2021~中学生硬式野球・関西No.1決定戦~』(甲子園球場)で準優勝を果たした。

シニア、ボーイズ、ヤングの中学生年代で硬式球を使用する3リーグの代表が関西ナンバーワンを目指して戦う大会。決勝では2年連続優勝を成し遂げた兵庫夢前ヤングに敗れはしたものの、強豪揃いの中での結果は素晴らしいものだった。

関メディは一貫した指導方針を軸に選手個々の実力を伸ばすことを重視。高いパフォーマンスを常に発揮できる選手の育成が最大目標だ。GM・総監督を務める井戸伸年氏に関メディのビジョンやフィロソフィ(哲学)などを伺った。

~選抜チームに選ばれなくても才能ある選手はたくさんいる

「今回の準優勝メンバー中に小学生時代NPBトーナメントに出場した阪神ジュニア、オリックスジュニアのような選手は1人もいません。NPBジュニアに入れなくても良い選手はたくさん存在します。関メディの中学生チームは先着順で誰でも入れるから本気の選手が集まります」

「NPBジュニアチームに入れないから終わりではない。可能性を持った選手はたくさんいますので個性をどこまで伸ばせるかが重要です。タイガースカップ準優勝という結果は出ましたが重要視していません。試合前には『この大会に勝とう』と言いましたが選手全員を使いました。中学3年間は通過点でその先があります」

井戸GM・総監督の方針は目先の結果ではなく選手の個性を最大限に伸ばすこと。

~対話、会話の時間を重要視して熱意を伝える

関メディは兵庫県西宮市、阪神甲子園球場から高速道路を挟んだ目と鼻の先の場所にある。06年に日本野球連盟へクラブチーム登録され10年に会社登録、14年から現名称となった。現在は大学、社会人そしてプロを目指す野球選手科と高等学校通信科。そしてタイガースカップ準優勝の中等部、小学部の4つの学科からなる。

GM・総監督の井戸氏は06年からコーチを務め09から経営を引き継いだ。自身は育英高(兵庫)、徳山大(山口)、社会人・住友金属、住友金属鹿島(現・日本製鉄鹿島)を経て02年に米国・ホワイトソックス傘下のマイナー球団でプレー。同年ドラフト9位で近鉄入団、05年シーズン終了後にオリックスで現役引退した。

「00年に都市対抗野球でベスト4に入り優秀選手にもなりました。チーム事情から『プロには出せない』ということで退部、米国で入団トライアウトを受けました。翌年はキャンプからチームに参加、マイナーでプレーしました。全てが想定外の流れでしたが今考えると米国の野球を知ったことが生きていると思います」

「NPBでは結果が出せず3年で引退して関メディに呼んでいただいた。経営を任されてからは多くのテコ入れをしましたが、まず会話、対話の時間を増やしました。スタッフ間はもちろん選手に対してもそうです。『こうしてあげたい』という熱意を大事にしました。色々な人との出会い、気付きがあり良いものを取り入れさせてもらいました」

~コーチ、スタッフの必要条件は明るくて話していて楽しいこと

関メディの大きな特徴はNPB経験者などコーチングスタッフの充実度にある。侍ジャパンコーチ歴もある高代延博氏、投手育成のスペシャリスト佐藤義則氏などが名を連ねる。今オフも元巨人の青山誠氏、昨年まで中日2軍野手総合コーチだった立石充男氏、同1軍投手コーチだった赤堀元之氏のコーチ就任が話題になった。

「大事にしているのは明るくて話していて楽しいこと。同じようなタイプの人材が集まります。もちろん状況に応じて厳しくしないといけない時もある。でもチームの雰囲気が悪いのは上(監督、コーチ)の機嫌が悪い時がほとんどです。だからコーチ、スタッフには自分が一番楽しんでくれと言います。その上で組織としての方法を理解していただきます」

「コーチと選手の関係性を重視するのは米国経験も大きい。米国ではコーチの前に選手が列を作ってまでアドバイスを得ようとします。でも日本ではコーチから逃げようとする場合すらある。上手くなりたいのは同じなのに違いにショックを受けました。だからコーチ側が近寄りやすい雰囲気を作ることだと思いました。選手個々のコミニュケーション能力を高めることにもつながるはずです」

楽天などで投手コーチを務めた佐藤義則氏など経験豊富なコーチ陣が揃う。

~全ての情報共有をして指導方法にブレがないようにする

選手が混乱することなく効果的な指導ができることも重視する。関メディでプレーする全選手のリアルタイム情報を共有、指導内容やトレーニング方法がブレないようにする。コーチ間でも情報の擦り合わせを行い選手1人1人に対し一貫した指導を心掛ける。出来上がったのが『バイブル』と呼ばれるアカデミー内での指導方針だ。

「コーチ間のミーティングに時間をかけます。試合、練習が終わったら色々見える部分があります。各学年担当コーチと技術コーチで見つけた課題が僕のところに上がってきます。この作業の積み重ねで技術、体力、メンタルなど全ての情報共有ができます。こうやってできたのが関メディの大きな柱となる『バイブル』であり『セオリー』ともいえます」

「もちろん『バイブル』が全てではありません。選手に適切なものや状況に合った方法を選ぶことも必要です。それらを選手と話し合い、説明、理解してもらうこともコーチ陣の重要な仕事です。選手自身が理解、納得しなければ実戦では使えません。『バイブル』という指導の基本、柱が存在する上で選手個々へ臨機応変に対応します」

~相手に求められる選手を送り出すことで試合出場の可能性を上げる

「生徒から月謝をいただき野球を教えるスポーツ塾」と語るように野球技術の向上が最大目的。タイガースカップで勝っても浮かれず通過点と強調するのはそのため。カテゴリーが進んでも活躍して結果を残せる選手を育てることが最大ミッション。そのためには能力を最大限に生かせる進路選びにも細心の注意を払う。

「何を求められているのかを考えます。高校進学時、こっちが良いと思った選手でも相手が求めているタイプでなければダメ。選手にも学校にもそれぞれの色があります。必要とされるスタイルの選手を送り出すことが大事です。選手には『この学校へ行っても現段階では試合に出るのは厳しいが挑戦するか?』と明確に聞きます。名門高に行ってもスタンドにいては意味がない。試合に出られる確率を上げる必要があります」

「技術、プレースタイルとともに選手の性格、人間性、適応能力が大事です。例えば、2年前までに関メディから選手が行っているかどうか。そうすれば高校1年生で入学した時に3年生に先輩がいる状態になります。仮に先輩がいない学校の場合は人選も変わります。1人でも周囲への適応ができる選手なら大丈夫です。選手に合わせた学校のチョイスをしないといけません」

「野球が上達すれば楽しくなる」ことを信じ最適な指導方法を模索する。

~経験値が高いコーチが選手才能を刺激することで野球はうまくなる

高校生の野球留学には賛否両論あるが現実にシステムが存在する。しかしそれが何の目的ために行われているかによって意味合いも変わる。甲子園出場したいためのものか。実力を伸ばしてその先のカテゴリー(プロ入りなど)を見据えてのものなのか。関メディは野球塾として後者のスペシャリストを目指す。

「やはりジュニア層、底辺が一番大事です。経験値が高いコーチが入って少しだけ才能を刺激することで格段に上達して野球が楽しくなる。野球人口も増えるでしょうし、そうなれば指導者としてプロOBのセカンドキャリアにもつながります。野球界にとって良い循環を生み出すことができるはずです。まだまだの組織ですけど自分たちの方法が選手たちに良いと信じてやり続けます」

試合出場し結果を残せば選択肢が増え野球人生を好転させられる。そのために選手個々の才能、個性を伸ばすサポートをする。日々変化する野球界だが思いと考えはブレない。目の前にそびえる聖地を眺めながら選手に最適な方法を模索、技術向上を目指し続ける。

(取材/文・山岡則夫、取材協力/写真・関メディベースボール学院)

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