元Jリーガーが語る・セカンドキャリアで成功するための考え方

スポーツ経験を「活かす」-御厨貴文さんのセカンドキャリア観

世の中にはいろいろな職業があるが、未だに小学生男子の将来の夢では「サッカー選手」「野球選手」がトップ2で、ここ10年つねにトップ3以内となっている(日本FP協会調べ)。
そんな憧れのプロスポーツ選手のセカンドキャリアについて、どのようなものが思い浮かぶだろうか。監督・コーチ・コメンテーター・タレントなど、私たちが目にするような職業はごく一部であり、現役時代の競技とはまったく関係のない仕事につく選手も多い。現役時代からセカンドキャリアに悩む選手が多い現状もある。

今回の記事では、自身がJリーグで活躍し元プロサッカー選手であり、現在は株式会社山愛のキャリアサポート事業部でスポーツ選手のキャリア支援を行っている御厨貴文(みくりや たかふみ)さんに取材を行った。
御厨さんは現在、現役プロスポーツ選手のキャリアカウンセリングや、スポーツ選手を目指す学生への講演を行い、スポーツ選手のキャリアづくりに貢献している。また、サッカー1級審判員の資格も取得しており、近くJリーグの主審も担うことが決まっている。

取材では、御厨さんのセカンドキャリア形成の経験・実体験をベースに、スポーツ選手のセカンドキャリア形成において大事にすべき考え方や、どのように行動に移すかといった具体的方法を伺った。スポーツ選手はもちろん、ビジネスパーソンにも参考になるセカンドキャリア観に迫る。

 

プロサッカー選手としてヴァンフォーレ甲府等で活躍

ー今回はプロサッカー選手のセカンドキャリアについて聞きたいのですが、まずプロサッカー選手になったきっかけから伺わせてください。

サッカーをはじめたのは9歳からで、始めた頃から、漠然とプロになりたいという考えはありました。
ただ、それが具体的になったのは、大学時代にプロチームと試合をし、プロとの距離を実感したことですね。大学進学時にもプロになりたい気持ちはありましたけど、具体的になったのはその試合でした。もともと大学選びも「地元九州を出たい」というのが動機だったので(笑)、関東でも関西でも良かったんです。

ー卒業後は、どのようにチームを選ばれたのですか?

卒業時には、いくつかのチームからオファーがありました。もともと「J1のチームでプレイしたい」という考えがあったので、総合的に考えて、ヴァンフォーレ甲府に入団しました。
ただ、実際に入団してみると、やはりプロとの違いを実感しましたね。それぞれの能力で天才的に秀でた選手がいて、自分のポジションでも、5~6人いたうち6番目からのスタートだったんじゃないかなと思います(笑)。

引退してから、次の目標を見つけたときに考えたこと

ーその後チームを変えながらキャプテンを務めるなどして活躍され、2014年に引退されています。翌年には今の会社に就業していますが、次の目標・キャリアについては元々考えていたんですか?

いや、次の目標はすぐには見つからなかったですね。
もともと、9歳から30歳までずっと目標としてやってきたものが、ある日から無くなったので、そうそうすぐには次の目標に切り替えられませんでした。

ーそうだったのですね。そこからどのように考え、次の目標をみつけたのですか?

これまでの自分の考えを棚卸し、自分は何をしたいのかを考えました。「なぜサッカーを続けていたのか」「どういう選手になりたかったのか」「サッカーを通じて何をしたかったのか」などです。
その過程で、自分が大事にしていたのは、自分が活躍したい、自分にしかできないことをやりたい、そうなることで世の中に貢献したい、という考えでした。そのことに気づき、プロサッカー選手以外でその目標を達成するにはどうするか、という考えに至ったんです。何を目標にするかに気づくことができたことで、良い意味でサッカーを手段としてとらえられ、可能性が広がりました。

ーなるほど。そうした考えの変化があったうえで、プロフェッショナルレフェリーを目指すという考えに至ったんですね。

そうですね、自分は何をしたいのかに気づくことができたため、プロフェッショナルレフェリーの方にお会いし「Jリーグの選手からプロフェッショナルレフェリーになった人がいない。そして、プロサッカー選手出身のプロフェッショナルレフェリーは、今サッカー界から求められている」という話を聞いたときに、サッカー選手を辞めてでも目指すだけの価値があると考えました。その後、プロフェッショナルレフェリー員という自分の目標に理解のある今の職場にお世話になり、会社員をやりながらプロフェッショナルレフェリーを目指すという今の生活を選んでいます。

引退後、次の目標を見つけたときの2つのポイント

ー自分が何をしたいのかに気づき、次の目標を見つけられたことにおいて、ポイントとなったのはどのような点でしょうか?

私が思う大事なことは「自分を知ること」と「社会を知ること」の2つです。
「自分を知ること」というのは、自分がスポーツ選手として培ってきたスキルを「どう社会で活かせるか」を考えることです。たとえば、シュートの精度や足の速さなどサッカーのスキルがビジネスでそのまま活きることはありませんが、スキルを身につけた過程、マネる、考える、ノートに書く、ビデオをみる、など現状を客観視し目標に対してどのようにアプローチするのかといった行動は「活かす」ことは十分できます。私自身、まず自分の経験の棚卸しを行いました。

次に「社会を知ること」についてですが、たとえばプロサッカー選手であれば、コーチ・監督・チームの営業の方など、身の回りにはサッカー選手以外の多くのプロがいます。まずはそうした身近な仕事について、どういう業務内容なのか、組織の中での役割はなにか、どのような目標設定か、給与水準はどうか、などを聞いてみることが大事です。
また、サッカー以外でも、公務員、会社員はどういう仕事をしているのか、どういう評価制度なのか、など幅広く関心を持ち、聞いてみる。経済の仕組みや産業の成り立ちなど、そうして社会を知っておくことが、引退後のキャリアのイメージや次の目標設定につながると思います。

ーサッカー以外の方と接点を持つにあたって、意識されていたことなどはありますか?

私は「偶然を計画すること」を意識していました。なぜならば、過去を振り返った時に偶然の出会いや言葉が自分のキャリアのポイントになったからです。私がレフェリーを目指すきっかけになったのはプロフェッショナルレフェリーの方との出会いですが、決め手になったのは「誰もいない、求められている」という話を偶然聞けたことです。ただ、普段からいろいろな人に出会おうとして、そのような偶然を作り出す意識をしていました。食事会で誰と会うか、どんな話をするかは予測できませんが、食事会を計画することはできます。
偶然を計画することで、社会を知ることにもつながり、自分の可能性も広がりました。

プロスポーツ選手としての経験を『どう活かすか』が大事 

ー現在、御厨さんの職業はスポーツ選手のキャリア支援を行うことですが、どのようなお仕事ですか?

キャリアカウンセラーとして選手のセカンドキャリアの相談に応じたり、スポーツ選手を目指す学生向けに、キャリア形成のアドバイスや講演などを行っています。

ーご自身の経験を活かせる点もあると思うのですが、実際にやってみていかがでしたか?

アスリートのキャリア支援という仕事を始めた当初は、私自身の価値観で、こうするべきだ、こうしたほうが良いと思う、など伝えていました。ただ、経験を積んでいくなかで、人にはそれぞれこれまでの人生で培ってきた考え方や価値観があり、まずその価値観を知ることが大事、ということを学びました。
今は、最初に相手のこれまでの経験や考え方をじっくり伺い、その方の「人となり」を知ることで、支援を行うように務めています。こうした、その仕事ならではのスキル・考え方を学ぶ姿勢は、どの仕事においても大事だと感じています。

ーいろいろな選手をご覧になられて、スポーツ選手のセカンドキャリアでは選手時代のどのような点が活きると思われますか?

大前提として、「活きる」という考え方ではなくて「活かす」という考え方でないと、経験は活かせないと思っています。私自身もそうでしたが、自分の経験がきちんと整理できれば、社会でもその経験を活かすことはできます。ただその前提として、「どう活かすか」という考え方を持っておかないと、自然に活きてくるものではありません。自分の経験を「活かす」ためにも、これまでの自身の経験を棚卸しし、何を意識し何を行ってきたのか、を整理することが大事になります。

自分を知ることと、自分が置かれている社会を知ること、これにより、自分の経験を活かせる引退後のキャリアに近づけると思います。

ーありがとうございます。最後に、プロスポーツ選手やプロスポーツ選手を目指している方に向けてのメッセージがあればお願いします。

スポーツ選手としてのスキルを養った過程や、目標達成するためのメンタリティなど、引退後も活かせるものは多いですが、「活きる」ものではなく「活かす」ものです。そのためにも、現役時代から意識して自分の経験を棚卸ししておくことと、社会について少しずつでも知ろうとしていくこと、が必要だと思っています。

また、スポーツ選手にとっての引退は、ビジネスパーソンにとっての「定年」に近いものだと思っています。これから人生100年時代と言われる中、ビジネスパーソンの転職や定年後のキャリア形成においても、こうした考えが参考になれば幸いです。

ー本日はどうもありがとうございました。

競技人口の多いサッカーというスポーツにおいてJ1のチームでプレイしたプロサッカー選手時代、そしてレフェリーの世界でも、一握りしかなれない1級審判員、更にはJリーグの主審と、着実に目標を達成し続けている御厨さん。目標達成の方法について「目標達成するためのスキルの一つは、強烈な動機を持ち続けることです」とも話していました。
プロスポーツ選手としての1つのキャリアが終わっても目標を持ち続け、次の目標達成にむかうこと、これまでの経験を「活かす」という考え方はプロスポーツ選手のみならず、社会にとっても多くのプラスが生み出されていくはずです。多くのプロスポーツ選手の経験やスキルが、スポーツの世界を飛び越えて「活かされる」ことで、社会全体がもっと良くなることを祈って――。


御厨 貴文(みくりや たかふみ)
長崎県出身。大学卒業後、2007年にヴァンフォーレ甲府に入団。ディフェンダーとして複数のチームで活躍し、キャプテンも務めた後、2014年に引退。2015年、現在の職場である「株式会社山愛」に入社し、キャリアサポート事業部にてスポーツ選手のキャリア支援を行っている。また、審判員として1級審判員の資格を取得しており、Jリーグの主審として試合の割り当てが行われることも発表されている。

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