RAJが若手サッカー審判を海外へ派遣 日本代表として笛を吹く
「一般社団法人日本サッカー審判協会(RAJ)」(以下RAJ)が世界最大の審判ネットワークである「Referee Abroad」と連携して、今年も若手審判を海外に派遣する。
2023年には第1回として若手審判を公募、6名がParis World Games(フランス)、Gothia Cup(スウェーデン)というヨーロッパの国際ユース大会に参加した。
2回目となる今年は原則18~30歳の5名程度を公募し、7/7-13の予定でフランスのユース大会Paris World Gamesへと派遣する。現地での宿泊費、食費、移動費はReferee Abroadが負担し、現役1級審判員がアドバイザーとして現地帯同する。
若手としては願ってもない国際審判経験となるが、具体的にはどのような内容となり、どんな成果が上がっているのか。
一般社団法人日本サッカー審判協会(RAJ)とは
サッカー審判は日本サッカー協会(以下JFA)のライセンスを得て、4級から1級までがそれぞれの活動を行う。教育や育成はJFAが管理し行っているが、いわば縦の繋がりであり、地域/都道府県ごとである。
RAJはそれを補い、横にも円にも繋がろうとする審判の団体だ。カテゴリや地域を超えて審判の情報交換や交流をし、相談窓口にもなる。
国際審判員であり現役トップレフェリーの飯田淳平さんが現在RAJ会長を務めている。飯田会長にRAJが行う海外派遣プログラムについて話を聞いた。
「日本代表」として笛を吹き、旗を振る
サッカーは国際的なスポーツで、選手は早くから海外を経験することも多くなった。だが審判は、国際審判員以外で海外の試合を経験することはまずないという。
「我々レフェリーは海外に自分たちから出ることがない。海外も含めて移籍がない世界ですから。でも若いうちから海外へ挑戦する場を提供できたらと、昨年初めてこういった企画をさせて頂いたところ、若い意欲のある希望者が多くありまして、正直驚きました」
例えば国内の国際大会で、審判を経験するということは行われてきた。ただし、それはあくまでも日本の中であり、まるごと海外の環境、海外のサッカーの中に飛び込むということとは全く違う経験なのだという。
自身も26歳のとき初めて海外でのレフェリングを経験した飯田さんは、海外派遣の一番の狙いをこう言う。
「一番は、実際に、今まで経験していなかったサッカーを経験できるということです。私も国際審判になる前や2級審判時代に海外へ出させてもらったことがありました。どちらがいいか悪いかではなく、日本でのサッカーや審判とは違いがある。それを肌で経験できるというのは非常に大きな機会だと思うんですよね」
日本人以外の審判員とのセットにより、審判相互のコミュニケーションや選手への対応について考えたり体得したり、言葉以外の部分でも学べる大きな機会になる。
「日本に帰ってきたときに、いい意味で楽になると思うんです。もちろんうまくいかないことも多々あるでしょうが、またそれが一つのモチベーションになって、次への糧になるんじゃないかなと思います」
例えば昨年派遣を行ったフランスのParis World Gamesは35ヶ国から400チームが参加し、25ヶ国90名の審判が集まった。
スウェーデンのGothia Cupは、69ヶ国から1878チームが参加、全4771試合が行われるという途方もない規模のユース大会だった。
世界各国から選手、スタッフ、審判が集まる一大イベントに、審判資格一つで飛び込める。
派遣審判は各国の参加者とともに、国も男女も年齢も多様な試合に割り振られ、試合以外の時間では交流や観光など、様々な体験ができる環境だった。審判としてだけではなく、人生経験としても大きなものになる。
「参加者の帰国後の声では、地元でのレフェリングで自信を持ってやれるようになったとか、一人で試合を任された経験から、リーダーシップを発揮してレフェリングができるようになったということも聞いています」
参加者のリアルな実感
2023年度の派遣が行われた後、RAJでは参加者6名中4名による報告会がオンラインで行われた。それぞれが詳しくレポートをまとめ、得たものを協会や身近な人たちに還元していく。
また、RAJで発行している機関誌「ホイッスル」でも、体験を載せて貴重な経験を分かち合った。
前回の参加者は全員が学生だった。基本的に2級以上の審判としていたが、3級も相談に応じて受け入れた。今年は「3級以上」と門戸を広げた。
参加者の報告やスライド写真には、世界に触れた驚き、感性が刺激されたこと、新たに考えたことなどが挙げられていた。
「フェスティバル」である国際ユース大会。数十ヶ国から集まった参加者が、選手もスタッフも審判も入り乱れて川を船で回る「開会式」や、エッフェル塔を見上げる決勝グラウンドは印象的だ。
7月のヨーロッパは日が長く、日没が23時頃にもなる。試合後に街へ出て時間を過ごすことも可能だった。宿舎や食事は場所によっても違いがあり、他国の参加者と相部屋だったこと、遠距離へ移動しての審判、1日5試合を担当したこと、アリーナで寝ることになったことなど、苦労したことやイレギュラーな出来事も語られた。
自分の知らなかったサッカーであったり、海外レフェリーと日本人レフェリーの違いであったりという点については、参加者それぞれが直面し、そこで感じたことが述べられた。海外を知り、日本の良さに気付いたという参加者もいた。
参加条件には「日常会話以上の英語能力」とあるが、語学力は特に求めていないという。ジェスチャーもボディランゲージも会話のうちだ。挑戦することが大切で、審判であるならプログラムを利用して国際試合に参加することができる。
そして、前回参加者で初めて海外でレフェリングをしたうちの2名は、今度は自分たちでReferee Abroadと連絡を取り、3月に再び海外へ挑戦してきたという。自分たちにも出来る、海外へ行けるという一歩目をこのプログラムが作ったのだ。
海外で必要なこと、大事なこととは
それでは、参加者はどのような心構えで行くべきなのか、海外で経験を得るため、活かすために大切なのはどんなことだろうか。自身の経験も踏まえて飯田さんは言う。
「二つあって、一つはオープンマインドであって欲しいなと思います。色んな人と組むことになるし、あとはフェスティバルなので、みっちりやる大会ではないと思うんですよ。自由時間もあって観光したり交流を図ったりできる。サッカーだけじゃなくて色々な実践経験になるんで、積極的にオープンマインドでいて欲しい。
もう一つは、逆にね、確固たる自分を持っていて欲しい。それを再確認する機会にもなると思います。外国だけではなく、国内でもそうです。オープンマインドと確固たる信念を。レフェリーとしても、人生を生きていく上でも持っていて欲しいですね」
お父さんお母さんレフェリーも「若手」
審判の横の繋がりを作るために発足したRAJ。次世代にチャンスを作り、海外を経験してもらうため、昨年からこの海外派遣プログラムも始まった。審判のサッカー環境をより良くし、審判を楽しんでもらいたい。RAJが思い描くその対象は、単に年齢が若い人たちに限らない。
「このプログラムは、我々の組織として継続的にやっていきたいと思います。もちろんJFAと連携をとりながらですね。あと同時に、今は若手だけですが、例えばレフェリーを始めたのが遅い人も、ある意味審判としての若手なんです。
例えば、お子さんがサッカー始めたから審判の資格を取ったお父さんお母さんレフェリーの方々も当然いらっしゃいますし、そういう方々も年齢は上だけど経験が少ないから、ある意味若手です。そうした方も含めて、挑戦の場が提供できるようにしていきたい。
そもそもこの組織には『審判の価値を高める』という理念があります。色々な世代が審判の資格があるということを使って、海外に行く機会があればと思います。サッカーが好きで審判が好きで世界に行きたいなら、行ってくればいいじゃないか、っていうぐらい広いプログラムにしていきたいですね」
意欲のある若手が参加し、周囲に影響を与える。それが繋がっていき、審判全体のレベルアップになったり、さらに海外へ出て自分を高めていく審判が増えたりすればいい。その中から将来のトップレフェリーが出てくる未来も、RAJは思い描いている。
(取材・文/井上尚子、画像協力/RAJ)