【連載企画】四国アイランドリーグPlusの今〜香川オリーブガイナーズ編〜
監督・球団関係者協力の元、連載企画でお送りする「四国アイランドリーグPlusの今」
6月20日、四国アイランドリーグPlusはついに開幕を迎えた。まだ観客を入れて開催はできないが、グラウンドでは球音とベンチからの声が響き渡り、熱い試合が繰り広げられた。
第3回目は香川オリーブガイナーズ。
2018年はリーグ優勝を果たすも、昨年は前期3位・後期は2位(勝利数は最多)の成績でシーズンを終えた。
2019年9月にはNPBで平成唯一の三冠王である松中信彦氏をGM兼総監督として招聘し、2年ぶりのリーグ優勝・10年ぶりの独立リーグ日本一へ向けスタートを切った。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大もありさまざまな対応を強いられていた。
今回、近藤智勝(ともすぐ)監督と三野環(みの たまき)球団社長に登場いただき、お話を伺った。※取材日は4月30日
4月29日、全ての練習場が使用不可に
当時の練習環境などについて近藤監督に話を伺った。
緊急事態宣言の対象が全国に拡大した影響で、4月29日から県内全ての施設が使用不可となった。グラウンドが使えないため、選手個々で自宅や外でトレーニングを継続した。
28日までは、高松市の中心部から離れたグラウンドを使用。少人数に分けて個人練習という形で活動をしていた。
「いわゆる3密を極力避けるということで、9時から14時の間で3つのグループに分けて個人練習をしていました。グラウンドに入る前に体温のチェック、こまめにアルコール消毒をしてできる事を最低限していました」
選手の平均年齢は22.8歳。みなアルバイトをしながら生計を立てている。シーズン開幕の見通しが立たない今、アルバイトも生活のために必要な時間である。練習の時間もそれに合わせてグループ分けしていたという。
「中には午前から働かないといけない選手、練習が終わってから夜働く選手もいるため、各自で班分けをしてました。ただ、これも自粛の範囲なので強制ではなく、あくまで自主的にですね」
選手たちもこの状況の中でやれることを探しながら取り組んでいた。
「不要不急の外出はしないと言えども、選手たちはトレーニングや野球の練習も仕事です。自宅アパートの前で素振りをしたり人が少ない時間帯にランニングをしたり、家の中でできるトレーニングなどをやっています」
1人1人と向き合う時間が増える
練習環境が変化する中で、ポジティブに捉えられた面もあった。
近藤監督、そして天野浩一投手コーチは毎日欠かさずグラウンドに来ていた。
全体練習では33人のチームを1度に見ていたが、少人数で見ることで新たな発見があったという。
「特に独立リーグの選手たちは個人の能力を上げることが1番の目標でもあると思うので、そういう意味では1人に対して指導出来る時間というのが逆に増えています。全体練習の時には思い浮かばないことができていたので、練習システムとしては新鮮でいいなと感じました」
不要不急の外出をしないという状況で、自宅にいる時間も増えた。この時間も決して無駄にはしない。
「考える時間がたくさんあるので、一人ひとり今の現状をしっかり見つめられる時間がたくさんあります。『この選手にはこんな練習してみよう』などと考えたことを天野コーチと連携をとりながらプラスに捉えてやっています」
5月14日に緊急事態宣言は解除され、グラウンドでの練習が再開された。開幕に向けて、再度本格的な調整を開始した。
3月下旬、監督に就任
3月25日、野手コーチ兼任で監督に就任した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、松中信彦GM兼総監督とチームの安全を考慮した決断であった。要請が来た時の心境を語った。
「心の準備はしていましたので、そんな動揺したという感覚は無いですね。05年にリーグが発足してから16年目になりますけれども、選手からコーチを経て独立リーグの長い歴史と共に歩んでますし、チームのことも把握していますので。責任と覚悟という点ではしっかり持っていかなければならないと思っています」
近藤監督はベンチからではなく3塁コーチャーズボックスに立ち采配を振るう予定だ。
「ベンチから選手に指示が出せないので、途中交代のやりくりについてはやってみなければわからない部分もあります。代打や代走などは常に3歩先くらいの状況を読んで選手に準備させないといけないです」
そして6月20日、監督としての初陣を迎えた。ホームで行われた徳島インディゴソックス戦を3-0で勝利。翌21日は1-1の引き分けとし、首位タイのスタートを切った。
運営面では営業活動が中断
選手たちは、自宅や周辺でできる練習を続けている。では運営面はどうか。こちらは三野球団社長に話を伺った。
4月末、球団スタッフは三野球団社長以外は自宅勤務に切り替え。それまで1社ずつ回っていた営業活動も同時期から中断してしまっていた。
球団の収入源は入場料収入、グッズ等の物販収入、そしてスポンサー収入である。特にスポンサー収入が全体の大半を占めており、営業活動が止まることはつまり球団の収入が確保できないということでもある。
「毎年1年契約なので、2020シーズン分は1からの契約になります1社1社昨年の業績等のご報告させて頂き、球団としての今後のビジョンをお伝えしながらその上で協賛をいただいています。コロナウイルスの影響が出始めてからは営業にも伺えなくなりましたし、開幕日の見通しが立っておりませんので営業活動もストップしてしまいました。社数で言うと半分ぐらいでストップしてしまっています」
選手の生活への影響
球団の収益が減るということは、選手にも影響が及ぶ。給与の支払いなどについてこう語った。
「四国アイランドリーグでは4球団統一の契約書はあるのですが、給与面は各球団の裁量に任されています。香川の場合は、開幕をしてからではなく4月からシーズン終了までの月額契約なんですね。なので、球団への収入がなければ選手への給与の支払いができなくなってしまいます」
給与の支払いを滞らせないために、球団としても模索している状況にある。ただ選手契約の見直しをするだけでなく、アルバイトの就業サポートもしている。3密になりやすい接客系以外の業種を斡旋している。
「今は財源を確保できる形を探りながら、選手の契約自体も見直しています。球団の現状を選手にも伝えて理解いただくよう話はしています。製造業などで働かせていただけるようスポンサー様へもお願いをしているところです」
松中信彦GM兼総監督の想い
2019年9月30日、チームのGM兼総監督に松中信彦氏が就任することが発表された。NPBで数々の打撃タイトルを獲得し、2004年には平成唯一となる三冠王にも輝いた大打者である。
2月のキャンプからチームに帯同し、開幕に向けオープン戦もベンチで指揮を執るなど精力的に活動していた。しかし、前述の通り新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、香川県への来訪を見合わせていた。
「選手たちも2月の早いタイミングから個々に松中総監督にバッティングフォームを見てもらっていました。飛距離が伸びたりと良く変わった選手が多いので、松中総監督も1日でも早く指導したいと思うんですけども、今はちょっと控えましょうという話しています」(三野球団社長)
自粛期間中もチームの状況を気にかけ、現場・球団ともコミュニケーションを欠かさず取っていた。
「総監督からも『この選手はどう?あの選手はどう?』などと連絡をもらったりしています。我々もチームや香川県の状況、練習環境についても共有しながらやっています」(近藤監督)
公式戦が始まった現在はチームに帯同し、グラウンドで共に戦っている。
今後に向けて
4月29日から県内全ての練習場が閉鎖されて以降、地元の学校のグラウンドもすべて自粛。プロとアマチュア間の規定もあり借りることはできない。今後どのように過ごしていくか内部で検討を重ねていた。取材当時、三野球団社長はこう語っていた。
「今できる事は何かなと言うことで、球団として選手を把握する必要があると思うんですね。どこか空き地を使って練習するにしても球団が把握していないと不要不急の外出に当てはまると見られてしまいます。
ただ、私たちは野球が仕事なので、選手たちには必ず毎日いつどこで練習をするか、アルバイトに行く時も何時から何時まで働くのかまで報告するよう指示をしています」
緊急事態宣言の期間中はSNSなどの発信は自粛していたが、6月1日には球団公式Instagramを開設し、情報発信を本格的に再開した。
ファンへのメッセージ
この未曾有の事態の中で現場・運営が共に工夫を重ね、2020年シーズンをスタートすることができた。開幕日の見通しが立っていなかった取材当時(4月30日)、いつも応援してくれるファンに向けてメッセージをいただいた。
近藤監督
「本来であれば3月28日からリーグが開幕でしたが、こういう状況でありますのでとにかくみなさんには体調と感染には気を付けていただきたいです。3密がありますが、自分たちの身を守るために何とか(我慢に)努めてもらって、これは皆さんの協力なくしてはできないと思います。我々は最善の準備をしていつでも開幕を迎えられるよう努めていますので、開幕ができる日が来ましたら一緒に球場を盛り上げて頂ければ嬉しく思います」
三野球団社長
「2020シーズンの開幕の見通しが立たず、まだファンの皆さんとお会いできないのは残念ではありますが、チームは各々目標に向かって練習を続けています。開幕した折には皆さんに楽しんでいただけるプレーをお約束します。その時まで皆さんにお会いできるのを楽しみにしています」
(取材/文 白石怜平)