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子どもたちが成長すること、野球が好きになることを目的とする少年野球チーム、倉敷ジュニアリバティーズの挑戦

岡山県倉敷市の倉敷ジュニアリバティーズは2021年に生まれた歴史の浅い小学校の野球チームだが、子どもたちの「未来」「成長」を第一に考えた指導で、子ども、親から強い支持を得ている。 創立者でGM兼監督の後藤尚毅氏に話を聞いた。

「昭和そのもの」の野球だった

「私自身は中学時代は剣道をしていて、野球経験はないんです。 でも小学校時代はアメリカンスクールや地元の子ども会などでソフトボールをしていました。うちの子どもが野球をしたいと言い出して、今の少年野球についていろいろ調べたんです。 全国には子どものことを第一に考えた少年野球チームがたくさんある。こんなに野球って進んでいるんだ、ぜひ、そういうチームに子どもを入れたい、と思ったのですが。 地元のクラブに入ったのですが、そこにあったのは『昭和そのもの』の野球でした」

後藤氏は、そのクラブに入って、内部からその体制を変えていこうと思ったのだが…

「長い歴史のあるクラブだったので、僕の一存では変えられなかったんです。 最初に出会ったチームは、まず、基本的にお父さん監督なんです。それに役員とかに強制的にならされて。例えば会議の時は、予定の時間より30分前に必ず行かないといけない。ルールなのか暗黙の了解なのかわかりませんが、会議自体も予定より早く始まるんです。

50年を超すチームだったのでOBの方が凄くたくさんおられて、何かを変えようと思うとそういう方を説得しなければならない。 私は当時、美術の教師でしたので、ホームページを見やすくすっきりしたものにしようと思いました。その頃のホームページは掲示板しかないようなものだったので。でも、変えたらそのことで叱られて昔のものに戻すことになった。 それからセカンドユニフォームも作ったのですが、ホームページのトップに画像を乗せたらこれも“元に戻せ”と言われた。アンダーシャツの色を変えたらまた叱られた。

それに選手の人数が少なかったので投手が球数を投げ過ぎることもありました。 これでは何もできないな、と思って別のチームに移ったのですが、そこは少しはましでしたが、似たようなものだったので、自分たちでチームを作ることにしました」

倉敷ジュニアリバティーズの後藤尚毅GM兼任監督

新しい野球チームを作る

一からの少年野球チーム作り、簡単なことではなかったと思うが。

「室内練習場を押さえて、うちの子どもなどでちょっと練習をしているうちに、前のチームの縁で何人かが少しずつ一緒に練習するようになって、そこから口コミで広がって行って9人くらいになったんです。 また社会貢献活動の一環として、少年野球を支援しているアルプス電気さんが用具を寄付してくださり、元ヤクルトの小森孝憲さんなどにサポートをいただくことができました。そこから徐々に体制ができていきました」

さあ、がんばるぞ!

これが2021年のこと。後藤氏は監督、そしてGMとしてチーム作りを進めた。 「趣旨に賛同してくださるお父さんも加わりました。グラウンドはみんなで手分けをして押さえました。また小学校のグラウンドも定期的に借りることができるようになって、少しずつチームとしての形が整うようになりました」

ナイスピッチ

もちろん、ユニフォームも自由に作ることができた。

「本当に、ユニフォームも含めて楽しそうに、面白そうに見えるって大事なことです。もちろん、伝統ってすごい大事なんですけど、うちの理念では、それよりも現役の保護者の利益を最優先にするというのを決めています。 チームを作ったときに仲間と、どの少年野球チームでもある問題点を色々出してみて“仕方がないよね”とみんなが諦めていたようなこととかも、見直しました。そして、マイナスはゼロにしようと思いました。 春日学園少年野球クラブさんとか、堺ビッグボーイズさんとかの指導の考え方も参考にして、怒声罵声の指導とかしないとか、合理的な指導をやりましょうとか、無駄な長時間練習はやりませんとか言うのを、最初から言葉にして、明文化しようと考えたんです」

運営方針、チームスローガンを明確化

こうして運営方針が明文化された。

1)指導者は、常に科学的・合理的な指導方法を研究し、罵声・怒声の指導は固く禁ずる。 2)選手のケガにつながる長時間の練習は行わない。

3)役員・当番の強制はしない。

4)試合機会を適切に定め、運営上、保護者の負担につながる組織・団体への所属は検討しない。

5)現役選手・保護者の利益を最優先とし、慣例・慣習で行われてきたことでも合理的でないものは改善していく。

この方針の特徴は「禁ずる」「行わない」など、やらないこと、やってはいけないことをはっきりと定めていることだ。これによって、チームの行動規範がはっきりと示された。

保護者にとっては、この<運営方針>によって、どんなチームなのかがはっきりわかるようになった。

またチームスローガン「LOVE BASEBALL」も掲げた。

少年野球界は現在も、多くの課題を抱えております。非科学的な指導、長時間練習、頻発するスポーツ障害、保護者の負担・・・、当クラブはそれらの問題をクリアし、野球というスポーツの楽しさ、素晴らしさに一人でも多くの子供達が触れる機会を提供します。そして、一人でも多くの子どもたちが野球を愛する人として、育っていってくれることを願っています。

ジャストミート

「対外試合は、全国学童軟式野球協会のポップアスリートカップにエントリーしたのが最初でした。そのあとは、僕の以前のチームの関係や、知り合いのチームなどと試合をしました。1年目はオープン大会に出たり、練習試合をしたりする程度でした。

でも理念を打ち出したことの反響はかなり大きかったですね。練習は半日、4時間でいいですよ。お父さんお母さんは、子どもたちを送って、あとは帰っていただいていいですよ。練習を見たかったら見てください、もし一緒に練習してくださるならお願いしますと言った。それが今の家庭のサイクルにすごく合っていたんじゃないかと思います。謝礼は月額3000円、指導者への謝礼はありません。トレーナーの費用や、検診の費用に使って、間接的に親御さんに還元していく形です」

親子の勉強会

さらにリーグを創設

そして2年目の2022年、後藤氏は、山陽フロンティアリーグと言うリーグ戦を創設した。

1.1年間を通じて3回戦×4チームの計12試合を行う。

2.試合は自主対戦方式で行う。

3.年間の優勝チーム、準優勝チームを表彰する。

4.個人タイトルの表彰を行う。

として初年度は5チームでスタートした。

2022年山陽フロンティアリーグ

「うちは、倉敷市の軟式野球連盟に加盟していません。もともとトーナメントではなくてリーグ戦を中心に活動したいという気持ちがありました。リーグ戦はいろんな選手を使えるのがいいですね。それに“絶対勝たないとだめ”ではなく、野球を通じて楽しく交流を深めることができます。子どもたちはのびのびできますし」

中学生もフォロー

さらに今年から中学生チームを作りポニーリーグ(中学硬式野球リーグ)にも参加した。

「練習は4時間しかリソースがないので、選手の個の能力を伸ばすことを優先させると、子どもたちが学ぶべき野球の技術で、まだ出来ないことも当然出てくるんですね。走塁のことだったり、打球判断だったり。ケースバッティングなどもやらせていない。そういう子たちをそのままポンと中学に送り出していいのか。いきなりハードな中学野球チームに進んで、ちょっと悲しい思いをする子が増えるのではないか?そこをどうにか解消するために、中学卒業までは面倒を見ることができないか。小学校、中学校の9年間で指導すればある程度網羅できるのではないか、と思ったんですね」

ポニーリーグは「球数制限」「低反発バット」「子どもたちの出場試合数の確保」「パワハラ、暴力の排除」など、ユニークな指導方針を打ち出し、今、参加選手数が急増している。後藤氏の考える理念とも共通する部分が多い。

「今、岡山には1チームしかないんですが、来年にもう1チーム出来る予定です。そういう形で、次のステップを目指します」

いろいろな軋轢はあるが、新しいチーム、新しい野球を創出していこうとしているのだ。

「先日、一人選手が辞めました。子どもは続けたかったのですが、色んな方と話していると親御さんが『野球は怒鳴られ、怒られてするもんだ』って。そういう方もいるんです。でも、僕たちは自分の考え方で、これからも大好きな野球を続けていきます」

小さな選手も夢中になる

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