• HOME
  • コラム
  • 野球
  • 「Bクラスも覚悟していた」仙台大が2年連続の全国切符獲得 序盤苦しんだ4年生が見せた意地

「Bクラスも覚悟していた」仙台大が2年連続の全国切符獲得 序盤苦しんだ4年生が見せた意地

 仙台六大学野球春季リーグ戦は仙台大の全勝優勝で幕を閉じた。最終節で昨秋王者の東北福祉大に連勝し王座奪還。22季連続で優勝を分け合うこととなった東北福祉大が最大のライバルであることには変わりないが、森本吉謙監督は頂上決戦を終えた直後、「正直、Bクラス(4位以下)も覚悟していたシーズンだった。各大学に良いピッチャーが1人以上いる。少しでも歯車が狂ったら、ズルズルといってしまってもおかしくなかった」と率直な思いを明かした。

指揮官の不安が的中した開幕戦

 各チームに好投手がそろっているのは事実で、実際に今春は東北学院大・堀川大成投手(3年=東日本国際大昌平)、東北工業大・後藤佑輔投手(4年=仙台育英)がいずれも規定投球回を投げて防御率1点台をマークするなど、「2強」以外の投手の活躍も際立った。ただ、森本監督にはそれ以上に懸念していることがあった。

優勝を決め笑顔の森本監督(手前)と仙台大ナイン

 「新チームになってから、僕の嗅覚として『そんなことで大丈夫か』と思うことがずっとあった」

 前主将の辻本倫太郎内野手(現・中日)ら経験値の高い選手が抜け、新チームは戦力も雰囲気も一変した。リーグ開幕前のオープン戦ではチームがうまく機能せず、そのまま迎えた東北大との開幕戦は白星発進こそ切ったものの2対1と辛勝。特に攻撃面では1番に抜擢された今野悠貴外野手(1年=東陵)が2安打1打点と奮闘した一方、4年生で固めた中軸は振るわず、指揮官は「見ての通り、上級生がだらしない」と漏らした。開幕2戦目以降も、経験豊富なはずの4年生が実力を発揮できない試合が続いた。

「空回り」した気持ち立て直した好打者

 中でも苦しんでいたのが、昨秋の首位打者で現役最多安打を誇る平野裕亮外野手(4年=山村学園)。1年秋からレギュラーの座をつかんでおり、経験値はチーム随一。「『結果を出さないと』『自分がやらないと』という思いが強すぎて、空回りしてしまった」。最上級生になって責任が重くのしかかった上、1年時からの目標である「通算100安打」も意識しすぎるあまり、第4節までの6試合を終えた時点で打率.211(19打数4安打)と序盤は打撃が低迷した。

通算安打数を82まで伸ばした平野

 「ここまでの4年間で一番プレッシャーがかかったシーズンだった。いつもはオープン戦で調子が悪くてもリーグ戦が始まると復調していたんですけど、今回はなかなかうまくいかなくて…」。不調が続く間はストレスで食事がのどを通らない時期もあり、体重は数キロ落ちた。

 それでも、「最後は気持ち。自分が苦しいときに下級生がたくさん助けてくれた。その分も自分たちがやらないといけない」と終盤戦に向け自らを奮い立たせた。第6節と最終節は安打を重ね、最終的には打率を.314(35打数11安打)まで上げた。東北福祉大2回戦では、1点を追う九回一死三塁の場面で二ゴロを打って走者を生還させるチームバッティングも披露。平野は「納得のいく結果ではないけど、チームのために最低限の仕事はできた。後輩たちに背中で見せられたと思う」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。

ケガに見舞われた主将が全うした役割

 終盤戦は平野以外の4年生野手も調子を上げた。第6節の東北工業大戦と最終節の東北福祉大戦はいずれも接戦となったが、4年生が要所で得点を生み出した。伊藤颯内野手(4年=鶴岡東)は東北工業大戦2試合でいずれも決勝打をマーク。東北福祉大戦は1回戦で田口大智内野手(4年=田村)が先制打とダメ押し打を放ち、2回戦では4番に座った小田倉啓介内野手(4年=霞ヶ浦)が先制打でチームを勢いづけた。

勝負強い打撃が光った伊藤

 主将の小田倉は開幕2戦目のプレー中に肩を痛めた。欠場や指名打者、代打での出場が続き悔しさやもどかしさを感じながらも、「チームメイトを信頼していたので、自分はやれることを全力でやりました」と話すようにモチベーションは一切下がらなかった。

 主将には「嫌われる覚悟」を持って就任。練習中から、少しでも油断していると感じた選手には躊躇(ちゅうちょ)なく注意した。一方、経験の浅い選手には「野球は成功するか失敗するか、勝つか負けるかの二択。成功する方、勝つ方の50%が自分たちに来るのを信じて思い切りやろう」と前向きな言葉をかけ続けた。

東北福祉大2回戦で先制の適時打を放ち拳を突き上げる小田倉

 「『全員で勝ちきる』という言葉が一番合うチームになったかなと思います」。3年生以下では、2本塁打12打点と快音を響かせた平川蓮内野手(3年=札幌国際情報)、扇の要を担った井尻琉斗捕手(2年=北海)、遊撃の定位置をつかんだ新保玖和内野手(1年=霞ヶ浦)ら各学年のキーマンがシーズンを通して活躍。自身がケガの影響で守れない三塁の穴は藤江優斗内野手(2年=米子松蔭)や阿部蒼太郎内野手(4年=柴田)が埋めてくれた。頼もしい仲間がいるからこそ、精神的支柱であり続け、バットで貢献することができた。

ピンチを救った4年生救援陣の奮闘

 投げては渡邉一生投手(3年=日本航空/BBCスカイホークス)と大城海翔投手(1年=滋賀学園)が全節で先発。渡邉は4勝、防御率0.27で最優秀選手賞、最優秀投手賞、ベストナインに輝き、大城もルーキーながら3勝、防御率1.38と堂々たる成績を残した。若き両左腕が優勝の立役者になったことは間違いないが、投手陣も4年生の支えが不可欠だった。

今春大飛躍を遂げた渡邉

 「一生や大城が頑張って長いイニングを投げているので、厳しい場面になったら自分が助けよう」と腕を振ったのがサイドスロー右腕の小野寺唯人投手(4年=東北)だ。今春は5試合に救援登板。東北工業大1回戦では3回3分の1を完璧に抑える好救援を披露し、東北福祉大戦の2試合はいずれも満塁の場面でマウンドに上がり相手に傾きかけた流れを断ち切った。

東北福祉大1回戦で最終回のピンチを抑え、労われる小野寺(左)

 東北福祉大2回戦、1点でも失えばサヨナラ負けが決まる九回二死満塁のピンチで登板し打者一人を抑えた篠塚太稀投手(4年=千葉黎明)も最上級生。小野寺、向坂優太郎投手(4年=仙台育英)から受け継いだマウンドとあって「開幕したばかりの頃は4年生のベンチ入りが少なかった。4年生でつないで勝てたのが嬉しい」と感慨深げだった。「後輩が頑張っているので、先輩が打たれたら顔向けできない」。大一番でプレッシャーを力に変えた。

「勝って反省」繰り返し頂点目指す

 開幕戦では上級生に苦言を呈した森本監督だが、リーグ終盤は「4年生が頼りになる。経験のある人間がしっかり試合をコントロールできている」と全幅の信頼を寄せていた。

 ただ、チーム全体に対しては最終戦の後の取材で「よくここまで成長した」とたたえつつ、「まだまだ弱いし、力はない。勝って反省の繰り返しで、少しずつ強くなっている部分もあるし、足りない部分もある」と手放しに褒めることはしなかった。2年連続4回目の出場となる全日本大学野球選手権の初戦は6月10日。余韻に浸る時間はない。

 上級生の不調を補える下級生と、ここぞというときに頼りになる上級生がいる強みを生かし、全国の舞台でも「全員で勝ちきる」野球をやってのける。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

関連記事