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「個の強化」で山梨から世界へ!オーランフットボール山梨甲府校が目指す新しい育成モデルとは?

2021年に地元山梨に山梨スポーツエージェンシーを立ち上げた雨宮聡氏。まずは中学時の同級生とともにハンドボールのクラブとスクールをスタートし、さらにはいじめ撲滅のセミナーを開くなど、スポーツ振興を掲げてスポーツを通じた人材育成の確立を目指している。
これらと合わせて今後のメインの事業となるのがサッカーの指導だ。アルゼンチン流の指導を行うオーランフットボールアカデミーのフランチャイズとして、山梨甲府校を運営している。日本のサッカーにも通じる部分が多いアルゼンチンのサッカーを倣い、世界で活躍できる選手の輩出が目標だ。
前編では山梨にはびこる課題をスポーツ振興で解決を目指す雨宮氏に触れたが、後編では世界で活躍できるサッカー選手を輩出するべく奮闘する姿を追う。

山梨甲府校はオーランフットボール初のフランチャイズとして開校

オーランフットボールアカデミーは日本アルゼンチンスポーツエージェンシーが運営し三鷹、北浦和、新三郷、東川口の直営の4校と、初のフランチャイズとして山梨甲府校の計5校が開校している。アカデミーで学んだ卒業生は複数のJユースや強豪のクラブチームに進んでおり、実績は十分だ。

2022年4月に開校した山梨甲府校は日本アルゼンチンスポーツエージェンシー代表理事で、日本ではS級ライセンスに相当するFIFA.ATFA公認指導員である長澤弘明氏監修の下、雨宮氏が指導を担当している。当初、雨宮氏は指導者を探し、指導以外の運営をサポートすることが主な業務の予定だったが、指導者探しが難航。そこで「私がやるしかない」と雨宮氏が指導に当たることになった。ちなみに雨宮氏は学生時代からサッカーに励んでいたものの指導経験はゼロ。本格的な指導は初めてだ。

そのため指導の難しさや理想とのギャップは感じているものの、長澤氏の監修もあり何とかこなしているようだ。引き続き指導者は探しており、「これまで培ってきた人脈の中で、“本物”を山梨に連れて来ていい影響を与えたい」と雨宮氏は今後の展望を語る。

俊敏性を養うトレーニングを行う選手たち

アルゼンチン流の個の強化を目指し 様々なアプローチ

指導方針としてオーランフットボールアカデミー全校に通じるのが個の強化で、アルゼンチンのサッカーを基盤としている。

サッカーでは国ごとに特徴が異なっており、例えば現代の主流となっているスペインサッカーはパスを軸にした攻撃が得意で、雨宮氏いわく「理屈っぽいパスのつなぎ方をします。頭を使うサッカーです」と点を取るまでの過程を大事にするスタイル。またサッカー大国と言われるブラジルはリズミカルなドリブルを多用し、個人技の高さを生かした攻撃的なサッカーだ。

アルゼンチンのサッカーと言えばディエゴ・マラドーナ氏やリオネル・メッシ選手(パリ・サンジェルマン)に代表されるように、ブラジルと同様にドリブルが得意の選手が目立つが、こうした個人技に長けた選手は何十年かに1人出るか出ないか。基本的には高水準の複数の選手がボールをシェアしながら、細かなボールタッチで攻め込んでいく。

ブラジルがスピードとフィジカルを生かして“派手に”突破をしていく選手が多く、一方でアルゼンチンはフェイントや緩急など卓越したスキルで“華麗に”得点を奪っていく。そして攻撃だけではなく守備への意識も高く、雨宮氏の言葉を借りれば「うまくてダーティー」な選手が頭を使ってプレーを展開していくのも特徴だ。

こうしたアルゼンチンのサッカースタイルを取り入れているが、技術が高いから良いというわけではなく、雨宮氏は「個の強化といってもいろんな要素があります。ドリブルだけでディフェンス全員を抜いていくことは重要な要素ですが、それだけではありません。フィジカル的な強さや俊敏性、スタミナ、メンタル的な強さも大事な個の強さです。練習の中でもとにかく勝ちにこだわり、意識付けをしていきます」と様々なアプローチをしている。

特に点を取るために、逆にディフェンスの重要性を説くこともあり、「ディフェンスは点を取られず、ボールを奪うためにやるんだよという意識をしています。ボールを奪わないと勝つことはできないので」と雨宮氏。

それでもサッカーは組織的なスポーツ。アルゼンチンのサッカーは個人技が優れている上に、守備の意識が高く戦術が細かい。個の力が高いことを前提に組織が作られており、スター選手の存在は大きいが、全選手のレベルがほぼ均一でチーム全体のレベルが高いのも特徴だ。

オーランフットボールではアルゼンチンサッカーを日本人に置き換えて指導をしており、「日本人も組織だった戦術は得意なので、そこに個の力が乗っかればより高いレベルで戦えると思います」と雨宮氏は話す。

全体の底上げで高い環境を整備し 世界で戦える人材を育成する

こうした方針の下、オーランフットボール山梨甲府校には、クラブチームに所属し+αで技術を身に付けたい子どもが通っている。ただし方針としてはあくまで個の強化、子どもたちのレベルアップに重きを置いており、「Jリーグのクラブに選手を輩出したいという思いはそこまでありません」と、プロ選手になることをゴールとしていない。オーランフットボールアカデミーで学んだ子どもたちが心身ともに一流の選手となり、たとえJリーグ入りを果たしたとしても、その先を見据えることができる選手を育成したいという考えだ。

「実績を上げたければうまい子たちを集めて指導をすれば良いですが、このアカデミーで目指しているのはそういうことではありません。むしろ逆に今の指導ではなかなかうまくならない子に来てもらい、うちでうまくなってほしい」と雨宮氏は話す。

さらには飛び抜けた選手を1人育てるのではなく、全体の底上げを目指しており、それが山梨のサッカーのレベルアップにつながると考えている。サッカーの原理原則である“組織的”であるということは育成にも通じる部分は多い。だからこそ「通っている子がこのメソッドを所属チームに持ち帰り、還元してくれるのが理想」と雨宮氏。

先述したように雨宮氏はJリーグに入るために練習をするのではなく、個の強化の延長線上にJリーグに入ることを理想としているが、オーランフットボールアカデミーとして環境の整備も行っている。今年2月、スペインのエージェント会社・トップレプレゼンタシオンと業務提携したことで、海外に挑戦しやすくなったのだ。プログラムとして育成年代からの海外挑戦を掲げており、少しでも早く海を渡るための支援をしていく。

「海外への意識や技術があるのであれば、どんどん海外に出て行った方がいい」と雨宮氏は山梨から海外に直接挑戦する選手を育てることを一つのゴールをとらえている。海外に精通したエージェントとコンタクトが取れることは、世界のサッカーを見る意味で大きなプラスだ。

雨宮氏がこうした個の強化と底上げが重要だと感じるのは、生まれ育った山梨の現状を見たからこそ。いまだ山梨でも勝利至上主義が残り、強豪と呼ばれる学校やクラブに人が集まる傾向がある。甲府市内でもサッカー部がない中学校があり、そうなればその学校区に通う子どもはクラブチーム所属しなければサッカーに触れられない。「僕のように部活動で人生が変わることもある。そういう子どもたちの手助けをしたい」と全体の底上げを目指す理由もここにある。

まだスタートしたばかりの事業ではあるが、支援体制が整い見通しは明るい。世界に通用する人材を輩出するべく、雨宮氏は今後も様々なアプローチで山梨からスポーツの変革に寄与していく。

サッカーの基礎である1対1から個の強化を目指す

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