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クラブチーム在籍選手が感じる、都市対抗とクラブ選手権の存在価値

社会人野球・クラブチーム(クラブ)の選手たちは難しい立ち位置にいる。プロ関係者の目に留まる機会が限られているからだ。

NPB各球団が隠れた素材発掘に工夫を凝らすようになったが、都市対抗野球(以下都市対抗)が最大チャンスなのは不変。スカウトが集結する東京ドームでの本大会出場を果たせなければ、可能性は限られたものとなる。予選敗退チームはモチベーションを保つことの難しさに直面する。

ハナマウイは創部2年で都市対抗出場を果たしたアマチュア球界で話題のチーム。

今夏のハナマウイ・ベースボールクラブは、都市対抗南関東大会(予選)で敗退した。2020年に創部2年目で本大会出場を果たして以来の悲願達成を目指していた。オフには戦力補強を重ね、地道な強化活動を積み重ねてきたが2度目の悲願達成はならなかった。

「打力重視の編成をしましたが、調子が下がり始めたところで予選に入った。守備面では形に表れないものを含め多くのミスが出た」

本西厚博監督は「負けるのは当然」と予選を振り返る。

現役時代のオリックスではイチロー(元マリナーズ)、田口壮(オリックス外野守備コーチ)と鉄壁の外野陣を作り上げ日本一にもなった。プロ入り以来、多くの名将のもとで勝つ野球を学んできたため、足りないものを痛感したという。

「課題が明確になった。全日本クラブ野球選手権大会(クラブ選手権)で優勝すれば、社会人野球日本選手権大会(日本選手権)への出場権を得られる。次を見据えて勝ちに行きます」

~プロ入りを目指すなら都市対抗までの活躍が必要

社会人野球には都市対抗と日本選手権(大阪・京セラドーム)という2つのビッグイベントが存在する。クラブは企業チーム同様に都市対抗予選から参加できる。またクラブ選手権で勝ち進み日本一になれば、日本選手権で全国の舞台を踏むこともできる。

「プロを目指す選手にとって大会の意義、重要度が違う。日程にもよるが日本選手権からドラフト会議までは時間がない。ドラフト候補にリストアップされるには、都市対抗までの活躍から判断されることが多い。予選の結果は、クラブ選手とっては非常に大きいことです」

「予選が終わった時点で、今季の目標がひと段落したと考える選手もいます。今後の契約内容等を含め、進路相談をしてくる選手もいます。独立リーグや他クラブへの移籍を願い出る者。現役引退する者。それぞれの人生があるので、我々は選手の気持ちを尊重します」

「ハナマウイはクラブですが、社員選手とクラブ生の2種類が在籍します。社員選手は給料を出して雇用する形態なので人数枠もあります。戦力として考えられなければ社員契約はしません。クラブ生は無給でプレーの場所が与えられる立場で本人のやる気があれば続けられます」

プロ入りの可能性が残される都市対抗への道が断たれてしまう。絶望感を感じても不思議ではない状況だが、次の公式戦・クラブ選手権はすぐにやってくる。勝つことが最大ミッションであることは理解していても、複雑な思いを抱いている選手も多い。それでもプレーに没頭せねばならず、結果も求められる。

勝利に対しての徹底したこだわりがチーム力の底上げにつながる。

~全国の舞台に立ち続けなければプロなんて口に出せない(林弘佑希)

選手によってクラブ選手権へ向かう気持ちの持ち方も様々だ。

林弘佑希は悔しさを隠さず口に出す。前回、南関東第3代表での本大会出場を決めた試合では1本塁打4打点。本大会でも1安打を放つなど、抜群の存在でプロからも注目される存在となった。そういう自身の経験があるからこそ、予選敗退の重みを痛感している。

「都市対抗に出るのがプロへの近道。東京ドームにはプロのスカウトが集結します。予選やオープン戦に来てくれる時もありますが、人数が違います。前回、都市対抗に出場したことで林という存在を知ってもらえた。プロテスト受験をさせてもらえるようにもなった。全国の舞台に立ち続けなければ話になりません。選手の見本市であり、結果を出せばドラフト指名の可能性も出てきます」

林は結果を出すことの重要性を強く認識している。

~予選で結果を出せない選手がプロなんておこがましい(風岡賢汰)

風岡賢汰は、スピードと状況判断力に長けており、攻守での牽引役を期待される。父親は現オリックス三塁ベースコーチを務める尚幸氏。「荒削りだけど、センスは親父より上」と現役時代に父のチームメートだった本西監督からの評価も高い。結果を出すことがチームの勝利に直結することを本人も理解している。

「予選敗退という結果が悔しかった。このチームでのプレーを選んだのは都市対抗に出られる可能性があるから。東京ドームという全国の舞台でのプレーを夢見てやってきたので、南関東で負けたことが悔しくてしょうがなかった。プロにはもちろん行きたいですが、予選で結果を出せないのにプロなんておこがましい。レベルアップして、どんな場面でも結果を残せるようにする。まずはクラブ選手権で勝つことです」

風岡は攻守において牽引役を任されており、チームの勝敗を左右するキーマンだ。

~選手として実績を重ねることで指導者への道も開ける(島澤良拓)

島澤良拓は、2年目と思えない落ち着きがある。内外野を守れ、長打力と確実性を併せ持つコンプリートに近い選手。積極果敢なプレースタイルが持ち味だが、常に先を見据えるスマートさもある。野球選手としてだけでなく人生のプランニングも行っており、野球で結果を残し続けるのが実現への近道だと知っている。

「実力のなさを痛感しました。中軸を任される自分が打てば結果も違ったはずです。プロになりたい気持ちはあります。同時に現役引退後は指導者になりたいという夢も持っています。選手として実績を重ねれば指導者への道も開けます。それがプロというキャリアなら文句なしですですが、どのカテゴリーでも結果を出すことが重要。それができればドラフトにかかる可能性もあると思っています」

島澤は持ち前の強打を活かしてチームの顔と言えるまでになった。

~都市対抗出場することで人生を変えるチャンスが得られる

「プロに入ってしまえば横一線からの勝負なので指名順位は関係ない。私は補強選手も含め3度、都市対抗出場しました。そこでスカウトの目についたし日本代表にもなれた。仮に1度も出場していなければどうなったか、を考える時もあります。本大会に出ることで人生の可能性を広げられます」

本西監督は社会人・三菱重工長崎時代の1981年に自チーム、85、86年はNTT九州の補強選手として都市対抗出場を果たした。その間、85年のアジア野球選手権大会とインターコンチネンタルカップでは日本代表にも選ばれた。86年にドラフト4位で阪急入団、チームを移りながら15年に渡るプロ生活を送った。自身の経験から全国大会出場の重要性を語る。

「現在は育成ドラフトもあるので、プロに入れば支配下登録されるチャンスはあります。実際にクラブ出身から一軍のレギュラークラスにまでなった選手もいる。だからプロのスカウトに見てもらえる機会を増やす必要があります。全国の舞台に出ることは本当に重要です」

都市対抗出場経験があるハナマウイの評価は年々高まっており、プレーする選手にとってもチャンスは広がっている。昨年は予選敗退したものの投手・平野暖周がJFE東日本、外野手・大友潤が日本製鐵かずさマジックの補強選手に指名されている。

「社会人までプレーを続けられる選手は多くない。そこまで来たなら、次のカテゴリーであるプロを目指して欲しい。ハナマウイでもやれることはある。まずは結果にこだわって欲しい。全国大会出場、補強選手として招聘、企業チームへの移籍…。アピールする機会はたくさんあります」

百戦錬磨は現役時代と変わらない。本西監督が率いるハナマウイは何かをやってくれるチームだ。

選手たちは葛藤を抱えながらも、日々自らのスキルアップを図り続ける。目先のプレーに集中して試合での勝利を目指す。そういった地道な積み重ねが全国の舞台でのプレーを実現させ、その先の夢を近づけてくれる。

ハナマウイは7月末に行われた2次予選関東大会を突破、8月末からの第46回全国クラブ野球選手権への出場権を勝ち取った。

「もちろん全力で勝ちに行く。クラブの日本一を獲って日本選手権出場しか考えてない」(本西監督)

目指す場所は明確。クラブ野球の頂点、そしてその先に見えてくる企業とのガチな勝負だ。

(取材/文・山岡則夫、取材/写真協力・ハナマウイ・ベースボールクラブ)

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