アイスホッケー・横浜GRITS「氷の空間で楽しむビールはスポーツ観戦の醍醐味であり文化」
アイスホッケー(以下IH)・横浜GRITSが注目しているのはビールだ。横浜という土地柄を活かしつつスポーツとビールの密な関係を深めていこうとしている。
横浜GRITSは新たな試みに積極的に取り組むことでチームの可能性を増やし続けている。チーム創設時から一般企業勤務とIH選手を兼任する「デュアル・キャリア制度」を導入。昨年は元プロ野球DeNA監督のアレックス・ラミレス氏を共同経営者に迎えるなど、多くの話題を提供している。今度は「IH観戦時のビールの楽しみ」を広めるために動き出した。
「GRITSの試合には外国人の観客も多い。米国製ビールを扱っていて横浜に本社があるアンテナアメリカさんとタッグを組むことから始めました」と同クラブ代表・臼井亮人氏は語ってくれた。
アンテナアメリカは、株式会社ナガノトレーディングが運営する米国製クラフトビールが楽しめるテイスティングルーム&ボトルショップ。今季から公式パートナー契約を交わしたGRITSの試合会場でクラフトビールを提供している。
「スポーツ観戦とビールの親和性は高い。例えば、2019年に日本で開催されたラグビーW杯ではハイネケンが公式スポンサーになって全面的に展開していました。ああいう感じのことをやりたいと考えていて、コロナ禍が落ち着き始めたのでスタートできました」
~スポーツとビールはコンビのような関係性
北海道札幌市出身の臼井氏は、北海道におけるスポーツとビールの関係性を幼少時から見てきた。
「Jリーグ・コンサドーレ札幌やNPB・北海道日本ハムファイターズの試合会場にはビールがあります。スタンドでは多くの人がビールを飲みながら楽しんでいるのが日常です。GRITSの試合でもそういう風景があるようにしたいと思いました」
小学生の頃から熱中したIHでの米国遠征、社会人になってからの米国駐在時にもスポーツにおけるビールの必要性を強く感じた。
「小学校5年時に札幌市のIH選抜メンバーに選ばれポートランドへ行きました。大人たちが大きなビールサーバーから注いで楽しそうに飲んでいました。英語はわからなくても『うまい』と言っているのは伝わってきた。ビールが文化の1つだと感じさせられました」
「社会人になりピッツバーグから車で30分ほどの場所に住みました。時間が許せば現地の仲間とNHLペンギンズの試合へ足を運んだものです。ビールを飲みながら世界最高峰の選手のプレーに興奮したのを覚えています。大スターになったシドニー・クロスビーが出始めた時期で本当に楽しかったです」
ビールグラスやジョッキを片手に、楽しく語らい合いながらIHを観たことが忘れられない。
「会場へ来たらビールを飲むのが当たり前という感じ。スタジアムやアリーナでのビールは水のように薄いラガービールが主なので悪酔いもしなかった。ビールとスポーツは当たり前のコンビのような関係に感じました」
~ビールは陽気になるお酒でスポーツ観戦との相性バッチリ
(社)日本ビアジャーナリスト協会代表・藤原ヒロユキ氏はMLBをはじめ各種スポーツへの造詣も深く、GRITSの取り組みに注目している1人だ。
「IH会場はかなり寒いのでビールはどうなのか、という声も聞こえる。しかしスポーツの醍醐味はみんなで高揚して贔屓チーム、選手を応援することです。ビールがそういった楽しみを一段と高めてくれる要素になるはず。IHにもビールは合います」
「お酒にはビールのように陽気になるものと、日本酒やウイスキーのようにしっとり飲むものがある。ビールはみんなで飲んで高揚して歌を歌ったりはしゃいだりするお酒です。スポーツの雰囲気やリズムに合うと思います」
アンテナアメリカのオーナーであるアンドリュー・バルマス氏とも親交が深く、11月4日のHLアニャン戦(新横浜)を一緒に観戦したという。
「アンドリューは昔からIHが大好きで、娘さんはガチでIHをプレーしている。ビジネス面での考えもあるだろうが、純粋に日本IH界とグリッツに盛り上がって欲しい気持ちも強い。ファン目線での商品展開など、今後も面白いことをやってくれるはず」
スポーツ観戦時に泥酔しているファンを見かけることもある。試合状況がわからくなるようなビールの飲み方には、藤原氏独特の表現でクギを刺すことも忘れない。
「スポーツ観戦へあまり来たことない人が泥酔してしまうのではないか。スポーツ観戦の場数を踏んでいる人はTPOをわきまえて酔っ払っている。お花見で泥酔している人は花の美しさを見ていない。これはもったいないことだし、いかがかなと(笑)」
~GRITSビールを提供するのが夢
同じく横浜を本拠地とするNPB・DeNAは球団オリジナルビールのベイスターズ・エール&ベイスターズ・ラガーを発表、球場名物になっている。将来的なGRITSビールを製造する構想も臼井氏の頭にはある。
「横浜スタジアムに行ったら必ず飲みたい、と思える素晴らしいビール。実際に飲んだこともありますが味も素晴らしい。ああいう試みをぜひやりたいです。開発、販売までには労力はかかると思いますが、決して不可能なことではないと考えています」
「GRITSビール実現へ向け一歩ずつ進んでいきたい。まずはアンテナアメリカさんと共に様々な展開を行う。試合会場での商品提供はもちろん、GRITS仕様のクラブ公式バーを作るのも良い。試合がない日でもファンの方々が集まれるなど、楽しみが膨らみます」
~GRITSビールはアルコール度数高めで刺激的なフレーバー
藤原氏はバスケット・B.LEAGUEの京都ハンナリーズを応援するクラフトビール『ASOBI』のアドバイザーでもある。仮にGRITSビールを製造するとしたらどういうテイストにするのだろうか?
「IHはアクティブで攻撃的な部分がある競技なので刺激が欲しい。ホップの香りと共に行き過ぎないくらいの苦味を出す。また会場内は寒いので少しだけアルコール度数を上げる。市販ビールでは6が限界だが6.5-7弱くらいにして、知らず知らずに身体が温まるようなビールです」
「歴史という時間軸は誰にも真似はできない。横浜には文化的な歴史を重ねてきた強みがあります。素晴らしい建造物が残っており独特な雰囲気を醸し出している。港町という外国っぽさもあるのでビールは絶対にハマると思います」
横浜という街の背景を踏まえた上でIHに適したビールをイメージしてくれた。こんな美味しそうなビールをGRITSの試合会場で楽しみたいものだ。
~ビール片手にタイトル獲得の喜びに浸りたい
人気低迷が続くIH界だが、会場に足を運んでくれたファンが心から楽しめればリピーターになってくれる。「地道な取り組みで満足度を少しずつ高めることが人気回復への近道です」と臼井氏も認識する。
「NPB・オリックスが大きいバット型カップを作ってビール販売しています。飲み終わったカップはお土産にもなるので素晴らしいアイデア。野球場の楽しみが何倍にも広がります。GRITSもそういった良い部分を参考にして独自の面白いことをやっていきたいです」
「アリーナへ入場したら好きな銘柄のクラフトビールを購入する。片手に缶やカップを持って試合前から盛り上がる。それがGRITS自前のアリーナでできたら言うことなしです。何年か後にそういったIH文化を横浜に作り上げたいです」
GRITSは2019年に創設され20-21年シーズンからアジアリーグへ参加した。常に大事にしてきたのはファンにとって心地良く楽しいアリーナ環境の創造であり、ビールも重要要素の1つに加わっているようだ。
いつの日かGRITSビールが誕生する日を楽しみに待ちたい。タイトル獲得の瞬間には、会場内の誰もがビール片手に笑顔になっているシーンが横浜に広がっているはずだ。
(取材/文・山岡則夫、取材協力/写真・横浜GRITS、(社)日本ビアジャーナリスト協会)