• HOME
  • コラム
  • 野球
  • モットーは「全力疾走」観る者を魅了する仙台大・辻本倫太郎の野球観~大学日本代表に選ばれた仙台六大学の逸材(前編)

モットーは「全力疾走」観る者を魅了する仙台大・辻本倫太郎の野球観~大学日本代表に選ばれた仙台六大学の逸材(前編)

 新型コロナの影響で予定より1週遅い9月3日、仙台六大学野球秋季リーグ戦が開幕する。今春優勝の東北福祉大、昨秋優勝の仙台大を中心に、今季もハイレベルな戦いが展開されそうだ。

 開幕直前の今回は、仙台六大学から大学日本代表に選出され、7月のハーレムベースボールウィークに参加した辻本倫太郎内野手(仙台大3年・北海)、杉澤龍外野手(東北福祉大4年・東北)を取材。前編では、身長167センチと小柄ながら打撃のパンチ力と高い守備力が光る仙台大・辻本に、日本代表で得た学びや追い求めるプレースタイルを聞いた。

全国の舞台で痛感した強打者との差…体重増やし今春急成長

 昨年の11月21日、仙台大は初出場となった明治神宮野球大会で国学院大との初戦を迎えていた。辻本はこの試合に2年生ながら「3番・遊撃」でスタメン出場。第1打席で安打を放ったものの得点にはつなげられず、チームは3-5で惜敗した。

 当時の国学院大打線には、福永奨捕手(現・オリックスバファローズ)や山本ダンテ武蔵外野手(現・パナソニック)ら強打者がズラリ。遊撃の守備位置から、彼らの打球の強さを肌で感じていた。打球の強さの違いは体の大きさの差から生まれるものだと考え、今春に向けてはフィジカル面の強化に努めた。白米を1日4~5回食べるようにしたり、練習前や練習中に補食を取り入れたりしたほか、ウエイトトレーニングにも励み、2年次は67キロだった体重をマックス75キロまで増やした。

春季リーグ戦で打席に立つ辻本。体が大きくなり打撃面も強化された

 体重、筋肉量が増加したことで打球の強さや肩の強さに変化が出てきたことを実感した一方、元々の武器である瞬発力、素早さもキープ。自信を持って臨んだ春季リーグ戦は1番や3番で全試合にスタメン出場し、初めて遊撃手のベストナインに選出された。打率こそ2割4分4厘と伸び悩んだが、大一番の東北福祉大戦で計3打点を挙げるなど自己最多10打点をマーク。勝負強い打撃と安定した守備で何度も投手陣を助けた。

「人間としての日本代表になれ」―間近で吸収した一流選手の所作

 6月には神奈川県平塚市で実施された大学日本代表選考合宿に参加した。周囲からは合宿メンバーに選ばれた時点で祝福を受けたが、自身は「代表入りは中学生の頃から狙っていた。『やっときたな』という感じで準備はできていたし、このチャンスをつかむしかない」と気を引き締め、合宿で猛アピール。攻守で評価され、念願の日本代表入りを果たした。

 代表メンバーは東京六大学野球、東都大学野球など首都圏の大学に所属する選手が多数。北海道出身で代表経験や甲子園出場経験のない辻本にとっては、面識のない選手がほとんどだった。そんな中、「せっかく日本中からすごい選手が集まっているのだから、吸収するしかない」と考え、練習に誘うなど積極的にコミュニケーションを図った。同じ遊撃手の宗山塁内野手(明治大2年・広陵)とは毎日キャッチボールを行い、スローイングの仕方を観察。プロ注目のスラッガー・萩尾匡也外野手(慶應義塾大4年・文徳)にはスイング軌道に関する話を聞いた。

明るい性格と笑顔が印象的な辻本

 日本代表に参加する際、仙台大の森本吉謙監督に「人間としての日本代表になれ」と伝えられた。その言葉の意味を考えながら、代表メンバーと接する中では技術面だけではなく、各々の人間性の部分にも着目した。「例えばリーグでホームラン王や首位打者を穫っているような選手が、打てないときに『俺って何が悪いんだろう』『練習行こうぜ』と声をかけてくれる。正直何かを変える必要はないだろうと思いながらも、初心に戻って考える姿勢は見習わなければいけないと感じた」。大学野球のトップを突き進む選手たちが他者や自分自身と真剣に向き合う姿を見て、刺激を受けた。

全力疾走で手にした「Most Popular Player」

 オランダで開催されたハーレムベースボールウィークでは、「野球人生で初めて」という三塁手として7試合中5試合にスタメン出場。2、6、7、8番と様々な打順を任されながら、打率3割8厘(13打数4安打)、3打点と結果を残した。慣れない守備も堅実にこなし、「サードは取ってからの時間があるので、他のチームメイトや打者の動きを見ながら送球することができた。ショートでもそういう余裕を持ってプレーしたい」と収穫を得た様子だった。

練習中から大きな声を出す辻本。全力疾走だけでなく、常に場を盛り上げるプレーを心がけている

 また、観客の人気投票によって選ばれる「Most Popular Player」を受賞。守備につくまでやエルボーガードなどを受け取る際に全力疾走する姿が現地の観客を魅了し、地元のスターであるウラディミール・バレンティン外野手(元・東京ヤクルトスワローズなど)らを抑えて受賞した。「全力疾走」は辻本が野球を始めた頃からのモットー。「仲間を鼓舞したり、元気にさせるため、全力で走ることは大事」と、今でも欠かさず続けている。

「お前は絶対にプロにならないといけない」奮い立たせてくれた兄の言葉

 現時点で「プロ一本」と断言する辻本には、あこがれの存在がいる。5歳上の兄・勇樹だ。野球を始めた小学3年の頃、勇樹は中学生で、北海道ナンバーワンの遊撃手だった。そんな兄に憧れて遊撃手に挑戦し、北海高、仙台大と兄と同じ進路を辿った。

 勇樹は高校時代に捕手に転向し、仙台大卒業後はNTT西日本でプレーしている。ドラフト候補として注目されていた昨秋は指名されず。直後にLINEでメッセージを送ると、「親を喜ばせる意味でも、お兄ちゃんを超える意味でも、お前は絶対にプロにならないといけないぞ」と返信が来た。普段は口数の少ない兄の、重い言葉。プロを志す思いが一段と強くなった。

コーチらの話に聞き入る辻本(中央)

 昨秋、福岡ソフトバンクホークスから育成ドラフト2位指名を受け入団した川村友斗外野手をはじめ、仙台大からプロ入りした選手は複数いる。しかし育成ではなく支配下で指名を受けた野手はまだ一人もいない。「(高校の先輩でもある)川村さんを超えないといけないと思うとしんどい部分もある」としながらも、「日本代表に選ばれたことで自信はついた」と、支配下でのプロ入りを目標に掲げる。理想は今宮健太内野手(ソフトバンク)。豪快さと堅実さを兼ね備えたプレースタイルを突き詰め、東北の地から夢をつかみたい。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

関連記事