J1昇格を射程に入れる横浜FC 四方田監督と長谷川キャプテンは今、何を思う

J2が佳境を迎えつつある。1試合の結果が、シーズン終了時の順位を大きく変える世界だ。思いと思いがぶつかり合う全ての試合は、サポーターにとっても手に汗握る戦いとなるだろう。

9月に入り、横浜FCはJ1昇格が現実的なポジションにいる。昨シーズン、悔しくもJ1からの降格を経験した横浜FCは、1年での復帰に向け、今シーズンのJ2で先頭争いを演じ続けている。
※J2の上位2チームはJ1へ自動昇格。3位~6位のチームはJ1昇格プレーオフで1枠分の昇格を争う

とはいえ、残り試合の結果によっては昇格を逃す可能性もあり、油断できる状況ではない。今、チーム内はどのような様子なのだろうか。四方田修平(よもだ・しゅうへい)監督とキャプテンの長谷川竜也(はせがわ・たつや)選手に、現在のチーム状況やサポーターへの思い、そして残り試合に向けての決意を伺った。

(写真提供:横浜FC)

四方田修平監督「目の前の試合が決勝戦」

記者会見に応じる四方田監督

四方田監督がコンサドーレ札幌から横浜FCの監督に就任したのは、2021年12月。20年以上も慣れ親しんだ札幌を離れ、新たな土地で、新たなチームを率いて戦うことは、多様な困難を伴うはずだ。しかし、9月に突入した時点で横浜FCは勝点66で首位に立ち、周囲の期待に応えている。

「選手のおかげで、この時期としては非常に良いポジションにいます。ただ、残り試合の結果によってはJ1昇格を逃す可能性も残されていて、油断はできない。気を引き締めて、目の前の1試合だけに集中します。シーズン当初から『J1昇格』だけを目標に定め、まっすぐに進んできました。この時期に来て、チームはさらに集中力を高めています」

昨シーズンの悔しい経験を糧に、チームは目標へと、一心不乱に向かっている。「選手のおかげ」と謙虚に現状への納得感を見せつつも、四方田監督は、自分たちがまだ何の結果も手にしていないことを強調する。

「大事なのは、『まだ何も決まっていない』という現実と向き合って、これまでと変わらず万全の準備をすることです。目の前にある1試合が決勝戦だと心に刻みながら、決死の覚悟で全試合に臨みます」

「J1昇格」という形でサポーターへ恩返しを

試合中に指揮を執る四方田監督

チームの士気や戦術の相性、怪我人の状況、勝利への執着心、そして運。さまざまな要素が作用し合って、サッカーの勝敗は決まる。ましてやシーズンを通した疲れも見えるリーグ終盤戦では、上位チームが下位チームに飲まれることも珍しくない。

「攻撃面も守備面も、戦術的な課題はたくさんあります。ただ、今の時点で確実に言えるのは、『簡単な試合はひとつもない』ということです。相手チームの順位なんて関係ないし、勝てる保証はありません。実際に、ギリギリの試合を手にしながらここまで来ました」

だからこそ、チームが熱を高めたまま終盤戦を走り切るには、サポーターの存在が欠かせない。四方田監督は、大きな力になっているサポーターの存在を噛みしめながら、「恩返し」を誓う。

「ホームのニッパツ三ツ沢球技場では毎試合良い雰囲気を作ってくださいますし、いつもアウェイ戦を応援に来てくれる人もいて、サポーターのみなさんには本当に感謝しています。シーズン終了後にみなさんと喜びを分かち合えるよう、『J1昇格』という形で、必ず恩返しします」

生まれてから7歳までを横浜市で過ごした四方田監督の中にあるのは、大きな挑戦心だ。

「横浜に住んでいたのは幼いころ。しかも札幌に20年以上もいたので、新たな土地で挑戦している感覚が強いのが本音です。だからこそ、より多くの方々を巻き込みながら、横浜FCの勢いを大きくしていきます。サポーター・選手・スタッフが思いをひとつに、チーム一丸となって残り試合を戦いたいです」

長谷川竜也選手「自分は仲間が思いを伝え合うためのサポート役」

試合中の長谷川選手

長谷川選手は、2021年12月に川崎フロンターレから完全移籍で加入し、四方田監督と同じく、今シーズンから横浜FCの一員として戦っている。移籍後1年目からキャプテンマークを託されている長谷川選手は、今のチーム内に「慢心はない」と語る。

「チーム内の雰囲気は締まっていて、現状に甘んじている様子はありません。一人ひとりが何を考えているのか、どんな思いを抱えているのか、選手間で積極的に言葉を交わしています」

開幕から先頭レースを走り続けてきた横浜FCだが、7月30日のいわてグルージャ盛岡戦(0-3)、8月6日の大宮アルディージャ戦(2-3)と連敗を喫した。しかし、チーム内に暗いムードが漂うことはなかったようだ。

「連敗したあとは、『何が原因なのか』『どうしたら改善できるか』を選手間で話し合いました。オフェンスとディフェンスでは抱く感情は違うし、そもそも同じチームの選手でもサッカー観は異なります。ただ、『今自分たちがなぜ勝てていないのか』。その認識にズレがあると、足並みがバラバラになり、チームとして勝利に近づけないと思ったんです」

長谷川選手が去年まで所属していた川崎フロンターレは、2021年シーズンのJ1優勝チームだ。追いかけられるプレッシャーには耐性がある。そして、長谷川選手には、キャプテンであることに必要以上の力みはない。

「追われるプレッシャーは少なからずあります。チームが負けてしまったときや、停滞しているときは、キャプテンとして責任も感じる。ただ、自分にできないことはたとえ後輩が相手でも、どんどん頼っています。頼れる仲間がたくさんいるので、キャプテンという立場をそこまで重く考えてはいません」

「一人ひとりが、今抱えている思いを伝え合えるように。自分はその仲介役として、仲間を取り持つことを意識しています。『キャプテンだから偉い』『キャプテンだからこれをすべき』のような考えはなくて、チーム全体を見渡しながら、良い方向に進めるような立ち振る舞いを探っています」

精かんな姿勢を崩さず進んだ先には

試合でゴールを決めた直後の長谷川選手

長谷川選手が横浜FCに加入して、約9か月が経過する。サポーターの存在は、日に日に大きな力となっているようだ。

「サポーターの存在は、僕たちの背中を力強く押してくれます。応援が相手のプレッシャーになり、まさに『12人目の選手』として一緒に戦ってくれている感覚になるんです」

「僕たちが不甲斐ない試合をすれば、厳しい言葉もかけたくなると思います。でも厳しい言葉の後には、『前を向こうぜ』とサポーターから選手へポジティブな言葉を届けたくなるような、そういうチームを目指す必要がある。なるべく近い距離感で、サポーターと横浜FCが同じ方向を向き続けたいですね」

残り試合を全勝で飾りたいのは、いずれのチームも同じだ。長谷川選手は、勝負の厳しさを噛みしめつつも、サポーターの力を背中に受け、貪欲に勝利へと向かう。

「勝負の世界は、思い通りにいかないことばかりです。どれだけ頑張っても、どれだけ勝ちたい意志を持っても、相手に飲み込まれて勝ちにつながらないことはあります。その中でも、僕たちは『全勝』にこだわり、目の前の試合に集中して全力でぶつかるので、背中を押してくれたらうれしいです。J1昇格のために、最後まで泥臭く戦います!」

四方田監督と長谷川選手が共に口にした、「目の前の試合に集中する」という言葉。追いかけられる立場にある焦りも、現状に安心して心に隙をつくるおごりも、今の横浜FCにはない。

精かんな姿勢で戦い続けた先にあるのは、歓喜の光景か。

フリーライター、文筆家。ライターとしては、あっと驚くような取り組みをしている人や、苦境を乗り越えて歩を進めている人など、形にとらわれないで生きる姿を取材している。

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