元ヤクルト・近藤一樹、香川で築き上げるウィンウィンの関係

近藤一樹の香川2年目シーズンが佳境を迎えている。

クローザーとして後期優勝争いするチームで大きな信頼を得ている。投手コーチとしてはNPBでのプレー目指す若手投手を指導する立場を任される。

一昨年、ヤクルトを戦力外となった際にはNPB復帰を目指す旨を語っていた。多少の時間が経ったことで、自身の立ち位置にも変化が生まれつつあるようだ。

近藤は四国アイランドリーグplus(以下四国リーグ)・香川オリーブガイナーズ(以下ガイナーズ)に在籍する。投手兼任コーチの肩書きを背負い、クローザーと投手コーチの『二刀流』でプレーを続けている。

「投げているボールの感触はかなり良い。今の感覚が当時もあればNPBでも大丈夫だったと思うほど。でも今はチームのために投げるという気持ちが強いです」

~年齢は残酷で便利な言葉

20年オフにヤクルトを退団、12球団合同トライアウトを受けたが獲得球団はなかった。野球人生で積み重ねてきた実績、経験、知名度などを買われる形で香川からオファーを受けた。NPB復帰の可能性を信じ、独立リーグでもレベルが高い四国リーグ所属チームへの入団を決意した。

「戦力外時は、『俺ですか?』と思った。正直、僕より良くないと感じる若い投手もいましたから。でも客観的に12球団を見渡すと年齢を重ねた選手がどんどん少なくなっている。もちろん実力があれば、年齢というのは関係ないですけど」

「年齢というのは選手に残酷な言葉。球団側からすると便利な言葉だと思うこともあります。見返したい、もう一度チャンスを掴みたいと思って香川にきました。結果論ですが、あの後からケガもないしパフォーマンスも落ちていないですから」

NPBを戦力外になって以降もパフォーマンスが落ちることはない。

~NPB復帰がなくなった後のモチベーション

「少しでも可能性があるならNPBを目指す」「チームのためになりたい」「自分の身体をサンプルにしたい」

香川入団1年目に口にしていたのは3つだった。しかし現時点で最も大きな比重を占めるようになったのは、「チームのために投げる」ということだ。

「香川1年目が終わった時にNPBから声が掛からなかった。今年もソフトバンク三軍戦などでも投球が通じ期待をしていたのですが、NPBへの移籍期限が過ぎた。チームは後期優勝争いをしている。今年のチームは投手力で勝負しており僕自身も貢献しています。チームの勝利がモチベーションになりました」

「選手の中には、オリックス時代の投球を京セラドームで見ていた選手がいるんです。そういう話を聞くと、『当時とギャップがあると悪い』と思ってやっています。偉そうな言い方かもしれないですが、投手・近藤を失望させないようにしたい。それがパフォーマンスにもつながっているのかもしれません」

投手・近藤を失望させないことを大事にしている。

~身体を張って体得してきたことを還元する

「自分で言うのもですが、比較的苦労が多かった選手だと思います。ケガもあったし技術的には下手くそだった。それでもプロで投げられる、ということを教えてあげたいと痛感しています」

投手として最善のパフォーマンスを発揮するのと同時に、若手投手育成も任される立場。近鉄、オリックス、ヤクルトの3球団に在籍、NPB通算19年間で374試合に登板して培ったもの全てを伝承する気持ちがある。

「ここ(独立)にいる選手は細かいことまで指導されている選手が少ない。本や動画を参考に自己流で野球をやってきた選手が目につく。悪いことではないですが、ベースとなる形や方法が悪くて損をしている。僕がこれまで身体を張って体得してきたことを還元できるチャンスだと思います」

「現在は選手とコーチを兼任しています。指導する際には、全てにおいて説得力が必要になります。1つ1つの行動、動作、言葉など、全てに責任を持ってやるようにしています。グラウンド内外の両方で、近藤に失望して欲しくない。失望させた時点で香川にいる意味もない」

「例えば、うちの選手が上に行った際に何も知らなかったら苦労する。練習方法、コンディショニング、試合、グラウンド外での振る舞いなど、全てです。選手として上(=NPB)を知っていて、そういったことを教えてあげられる立場だと思います。選手として上を見据え頼ってもらえたら嬉しい」

チームのために投げることが最大のモチベーションになっている。

~近藤一樹を越えないとNPBには行けない

「自分の身体をサンプルにしたい」という意味にも変化が生じている。以前は「自らプレーを続けることで、指導者としての引き出しを増やしたい」という趣旨の発言もあった。それが「NPB挑戦へは超えるべき最低ラインの選手」と語るようになった。

「この年齢で球速も140キロ後半が出ます。球威もスタミナもあり他投手より多く投げています。でもNPBでは必要とされないからここにいます。今の近藤一樹を越えないと上(NPB)にはいけない。そのためには僕も力を抜くことなく、全力でプレーして競争します。もちろん試合に出たいですから」

技術部分に関して自ら口を出すことは少ないものの、以下の2つに関しては直接、伝えている。

「プロは見られていることを意識する」「年齢や限界は捉え方次第で変化する」。

プロ選手の心得として、チーム絶対に必要だと感じているからだ。

「見られていることは上達要因の1つになります。常に注目されるのはプレッシャーやストレスになります。でも、しっかり向き合うことでプロ選手として成長する。NPBでは何万人という大観客の中で実力を発揮することが求められますから、普段から慣れておくことです」

「僕は選手にヤクルト・石川雅規さんの話をします。42歳になってもバリバリに投げている。石川さんは『年齢は数字でしかない』というキングカズさん(サッカー・三浦知良)の言葉を出しますが、その通りだと思います。『君たちがすぐに老化することはないからバンバン追い込もう。僕も現状維持では退化と同じなので前進して君達と戦う』とも言いました」

NPBを目指す選手にとって、まずは近藤の存在が基準となる。

~NPB側は魅力を感じていなくてもガイナーズは必要としてくれる

今後に関しては冷静かつ客観的に捉えている。NPBへの復帰可能性は限りなくゼロに近いことは認識している。しかしイチ野球選手としては更なる上を目指して日々、自らを追い込み続ける。苦しい状況下でも前を向きチームが勝利することしか見ていない。

「近藤一樹に対し、NPB側は獲得するだけの魅力を感じていない。でもガイナーズは勝つための選手として、魅力を感じてくれている。応援してくれるファンもいます。うちには勝つ喜びを経験したことない選手が多い。僕が少しでも戦力になって、勝つことの面白さを伝えることもできるはず。それも投手コーチとしての仕事の1つ。やるからには勝ちたいです」

「NPB関係者へアピールの場所を増やそう、とも伝えています。例えば、甲子園大会で勝ち進めばアピールの場所が増えます。同様に独立リーグのチャンピオンシップ進出すれば、プロへ売り込む機会が増えます。大舞台での勝負強さ、勝ち運も見せられます。最後に結果を残せる馬力ある選手への評価は高くなりますから」

NPB復帰への思いを持ちつつ、香川のために投げ続ける。

紆余曲折の野球人生だった。近鉄時代には球団合併騒動のど真ん中にいた。ヤクルト時代の2018年にはリーグ最多74試合に登板、35ホールドを記録するなど大活躍をするも、2年後には戦力外通告を受けた。たどり着いた香川の地で、現実に向き合いながらも自らの存在価値を見つけ出そうとしている。

「選手たちの実力が間違いなく伸びています。だから僕がやっていることが間違っていないと実感できる。投手、コーチの両方でチームに対してプラスになれているんじゃないかな。近藤一樹とガイナーズはウィンウィンの関係というのは言い過ぎですかね(笑)」

「NPB復帰を諦めたことは一度もないですよ」と最後に付け加えてくれた。

プロ野球選手としての矜持を感じさせてくれる言葉。近藤一樹はまだまだ投げ続けるはずであり、香川に必要な存在であることを再認識できた。

(取材/文・山岡則夫、取材/写真協力・香川オリーブガイナーズ)

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