岡山でファジアーノ岡山×サンフレッチェ広島の「中国ダービー」初開催 “街の誇り”ぶつかり合う特別な1日に

岡山県にとっての「特別な1日」が近づいている。7月5日、J1のファジアーノ岡山とサンフレッチェ広島による「中国ダービー」が、JFE晴れの国スタジアム(岡山市)で開催される。中国ダービーはファジアーノ岡山のJ1初昇格によって実現し、4月12日にはサンフレッチェ広島のホームで初めて両者が相見えた。岡山での初開催に向け、ファジアーノ岡山の広報・小枝和弘さんは「クラブだけでなく岡山という地の存在感を全国に示したい」と意気込んでいる。
岡山県民が抱く隣県・広島への「憧れと悔しさ」
「岡山県民は、歴史ある日本を代表するプロスポーツチームを持っている広島に対して、憧れと悔しさを抱いています。都市の規模や経済、商圏、文化、娯楽といった面で考えても広島とは差があります。距離は近いけど遠い存在だった広島と対峙できるということで、サッカーを超えた街への誇りを感じていただきたいです」
サンフレッチェ広島や広島東洋カープがある広島には、街全体で応援する雰囲気が浸透している。一方、岡山は長らくプロスポーツを目の前で観る文化とは程遠かったこともあり、同じ中国地方で隣県ながら大きな違いがあるという。小枝さんは「街の一体感を作っていきたい」と話す。

実際、昨年末から潮目は変わり始めている。ホームでJ1昇格プレーオフ決勝を開催し、ベガルタ仙台に勝利。悲願のJ1初昇格を決めた。その際は岡山城や岡山県庁前をファジアーノ岡山ゆかりの色でライトアップし、岡山駅前で試合を告知するチラシを配布。地域密着で試合に向けて一体感を高めた。今年は開幕からホームの試合でのホームエリアのチケットは完売が続いており、岡山におけるファジアーノ岡山の存在感は日に日に増している。
好きが高じて市役所職員からクラブ広報に転職
小枝さん自身も岡山県津山市出身。小中高でサッカーをプレーしていたこともあり、車で約1時間半かけて応援に駆けつけるなど以前からファジアーノ岡山は身近な存在だった。大学時代からサッカー業界に興味を抱きながらも、地元の津山市役所に公務員として勤務。8年間従事したのち、今年4月からファジアーノ岡山の広報となった。
「今は業務で関わっていますが、サポーター目線で考えた時に、J1のクラブがホームに来るというだけでゾクゾクします」。広島での中国ダービーに帯同した際もJ1のチームが戦うスタジアムの雰囲気に圧倒され、勝利に涙するファジアーノ岡山のサポーターを目にして感動を覚えた。
ファジアーノ岡山を愛し、広島に対する「憧れと悔しさ」を抱く岡山県民の一人だからこそ、「岡山も捨てたもんじゃない、岡山もやれるんだな、と感じてほしい」と切に願う。
スタジアム内外で「街の一体感」出す企画続々
中国ダービーに向けては、スタジアム内外で「街の一体感」を演出すべく、さまざまなプロモーションやイベントを準備している。
スタジアム前広場には約400本ののぼりや大型看板を設置予定。また来場者1万4000人限定で「岡山」の文字が入ったハリセンをプレゼントする。ハリセンの配布は「広島相手に岡山を全面に打ち出して、来ていただいたみなさんに岡山を背負ってもらおう」と企画した。さらにチケットを購入できなかった人にスタジアムの雰囲気を味わってもらうため、スタジアム周辺でパブリックビューイングを実施する予定だ。

試合前には岡山、広島の両県知事やクラブマスコット、クラブゆかりの人物らによるリレー対決も行う。広島での中国ダービーでは両県知事によるドリブル対決が話題を呼んだが、岡山でも対決形式を踏襲し来場者を楽しませる。
そしてスタジアム外では、試合当日までの1週間を「ダービーウィーク」と称し、岡山駅や駅構内の商業施設「さんすて岡山」でのぼりやポスターを掲示し盛り上げている。すべては「特別な1日」をお膳立てするためだ。
「特別な1日」から「ファジアーノがある日常」へ
中国ダービーは地元経済に大きな効果をもたらすことも期待される。J1昇格によりすでにビジターの来場者は増えており、スタジアム内外での飲食や宿泊、土産物の購入などの消費行動が活発化している。小枝さんは「試合前後に訪れた観光地や美味しかった食べ物をSNSに投稿していただいているのをよく目にする。岡山の魅力を発信してくださるのはありがたいです」と感謝を口にする。
「中国ダービーは隣県の広島から多くのサポーターが来てくださることが予想されます。中国ダービーを機に近くても縁遠い岡山を楽しんでもらい、『岡山にハマった』と言っていただければ嬉しいです」。もちろんサッカーでは負けられないが、試合外では岡山を満喫し好きになってもらいたいと考えている。「岡山という地の存在感」を示す意味はそこにもある。

小枝さんは中国ダービーを「特別な1日」と表現し、特別感を作り上げるべく奔走してきた。しかし、ここは通過点にすぎない。
「J1昇格初年度なので、ファン・サポーターの皆様にとっても今は初めて尽くしで、非日常を毎試合味わっていただいていると思います。ですが長い目で見れば、ファジアーノがある日常を県民の皆様に感じていただきたい。中国ダービーが、その一つのきっかけでもあると思っています」。ファジアーノがある日常が特別ではなくなった時、本当の意味で街に浸透したことになる。その日まで、岡山の誇りを胸に走り続ける。
(取材・文 川浪康太郎/写真 ファジアーノ岡山提供)