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欧州のサッカーチームでプレーする夢の実現に向けて―同朋高校サッカー部監督 森岡優介―

愛知県名古屋市にある同朋高校サッカー部は、ドイツリーグ1部のボルシア・メンヒェングラートバッハ(以下、グラードバッハと省略)とパートナーシップ契約を締結した。これにより、同朋高校からドイツリーグに挑戦する道筋が出来上がり、若い選手がヨーロッパのサッカー界を目指す1つのルートが確立されることになった。

今まで、ヨーロッパのチームと日本のクラブがパートナーシップ契約を結んだことはあった。しかし、日本の高校がヨーロッパのチームとパートナーシップ契約を締結したのは、この同朋高校サッカー部のケースが初めてとなる。

今回のグラードバッハとのパートナーシップ契約は、どのような目的のもとで行われたものだろうか。同朋高校サッカー部の森岡優介監督に話を聞いた。

今回の同朋高校サッカー部とグラードバッハのパートナーシップ契約の目的とは、どのようなものですか

森岡監督(以下、敬称略)「プロのサッカー選手になりたいと考えている子どもたちに、その夢が可能であること伝え、海外でサッカーをするというステージを作ることが、今回のパートナーシップ契約の大きな目的となります。

 私は育成年代の指導に携わっていますが、『プロのサッカー選手になりたい』と考えている選手の多くは、Jリーグの選手になりたいのか、あるいは海外も含め、プロのサッカー選手になりたいのか、実ははっきりとしていません。たいがいの場合は、Jリーグをイメージされています。

 日本国内だけ見ると、もともとJリーグのチーム数は60チーム程度で、毎年、220名程度しかプロサッカー選手にはなれません。内訳もおおよそは高校生が80名程度、大学生が140名程度でしょうか。日本国内でプロサッカー選手になるには、一定の条件下でプレーし、結果を出す必要があります。

 プロサッカー選手になること自体を目標に考えるなら、選択肢や体験、最終的な目標となる感覚を増やすために、日本以外の国、可能な限りレベルの高いチームでプレーすることは、アドバンテージになります。

 同朋高校では、卒業生が、これまでにヨーロッパ各国で10名以上が契約して、現地でプレーしています。

 本気でプロサッカー選手を目指しているのなら、若いうちに日本以外の国のサッカーを知る体験をした方がよいでしょう。

 今回のパートナーシップ契約が、そういった体験の獲得の機会として、活用して欲しいと考えています。

 自分の心が本当に楽しいと思う道を選べば、その夢は叶うんだ、ということを伝える手段になればよいと思っています。」

グラードバッハとは、どのようなクラブですか。

森岡「ブンデスリーグ(ドイツリーグ)の1部にいるチームで、1960年代から70年代にかけて、リーグ優勝した経験もあるクラブです。日本代表選手も同クラブのトップチームでプレーしているので、名前を知っている日本の方も多いかもしれません。

 ブンデスリーグというと、バイエルン・ミュンヘンのようなビッグクラブが日本でも有名ですが、グラードバッハは育成型クラブと定義できると思います。若駒(若い馬)と呼ばれるような若い選手を育てて、他のチームや他国のリーグへ輩出することが主な目的のクラブです。

 育成型のクラブで、世界中から可能性のある選手を探しているクラブなので、今回私共の方にパートナーシップ契約のオファーが来ました。

 いままで何度かグラードバッハをやり取りしている中で、若い選手の育成に関して非常に多くの経験を持っているクラブだということが伝わってきます。」

監督はすでに現地でグラードバッハのクラブを見に行かれたことはあるのでしょうか。

森岡「いいえ、実はまだ直接グラードバッハのクラブを見に行ったことはなくて、9月の初旬に現地に行く予定なので、とても楽しみにしています。」

例えば、スペインのサッカーファンに「日本人選手ってどう思う?」と質問すると、「上手で良い選手だけど、体が小さいよね。」と、言われてしまうことが多いんです。グラードバッハはドイツのチームなので、体の大きな選手が多いように思えます。そうしたフィジカルの違いについて、監督はどう思っていられますか。

 森岡「現在の日本代表の選手の平均身長が180㎝を超え、平均体重も75㎏前後になっています。 もちろん、ドイツではもっと大きな選手がいますが、日本人選手すべてが、世界のなかで特別にフィジカルにおいて不足しているという認識はないですね。

 また、海外でプレーする日本人選手のテクニックやアジリティ能力のレベルは高く、現地でも評価されていることが多いです。だから、海外に行っても、日本人選手は、自信をもってプレーすることは可能だと思います。」

海外でプレーする新たな道を開いた同朋高校サッカー部

育成哲学の共通点

同朋高校サッカー部の育成哲学はどのようなものですか。

森岡「端的に表現するのは非常に難しいのですが、『自身のことを運転すること』と『自身のことを良いものと認識すること』、『他者と良い関係性をつくること』でしょうか。これは、モチベーションの源泉といわれていることです。

 自分の特徴を生かすことを考え、適切な目標を設定することは、モチベーションを上げることにつながります。そのことは、自分のサッカー選手としての価値を高め、サッカーという競技を長く続ける原動力にもなったりするのではないでしょうか。

 選手たちには、どのような形であっても自分の生き方を見つけて、自分で自分の人生を運転していってほしいと、いつも思っています。

 また、ニュアンスは難しいですが、選手たちには『他人の話は話半分で聞いた方が良い。』とも言っています。他人が経験したことと全く同じことを自分が経験できるかというと、決してそうではありません。だから、他人の話は参考程度にしかならなくて、結局は自分がどう経験するかだよ、とも話しています。

 プロのサッカー選手になるのって、実はどこの国でもすごく特別なことなんですね。スペイン人でU-16の時に、スペイン代表としてワールドカップでも優勝したチャビ・ヘルナンデスと同期だった人のお話を伺ったことがあります。そのレベルでも、プロの選手になった人はチーム内で6名だった、と話されていました。こんなに世界中のひとが魅了される、難しくて、素敵な夢を目標として真剣に追い求める体験をサッカーを通じて、自分で自分の価値を認めて表現する力を身につけて、その後もそれを生かしてほしいと思っています」

ちなみに、監督が考えるそうした同朋高校サッカー部の育成哲学は、グラードバッハの育成哲学と共通点があるのでしょうか

森岡「あると思います。グラードバッハの育成哲学のひとつは『チャレンジすること』です。例えば、ゲーム中でも、前からボールを奪うことをとても重要視しています。積極的に挑戦してする姿勢があるか否かが、選手の評価の分かれ道になるようですね。

 グラードバッハの選手選考のレベルは非常に高く、グラードバッハが欲しいと思う選手は、他のクラブからもオファーの声がかかる可能性があります。そうしたクラブの重要な育成哲学『チャレンジ』は、サッカーの指導者として注目すべき事実だと思います。」

先ほど、海外でプレーしている教え子が、十数人いると話されていました。海外でサッカーのプロとしてプレーするために大切なこととは、どのようなことだと思いますか。

森岡「うまくいかないときに、どれだけ自分を認めてやり続けることができるか、ということが重要だと思います。人生も同じだと思いますが、高いモチベーションを持って続けることができるのは、さまざまな問題を前向きに乗り越えていくことができる人だけだと思います。そのため、さまざまなストレスに強いというのも必要かと思います。

 また、海外ではenjoy することの意味が、日本人が考えているより、非常に深いように感じます。今自身が楽しいと感じることをするのではなく、苦も楽もすべてのことを踏まえて、楽しむ姿勢でのぞむようなイメージ。海外でプレーしたいと考える選手は、環境や価値観の違いも受け入れて、enjoyができるようになったほうがよいでしょうね。」

ヨーロッパへの新しい道を活用して、自分らしく幸せに生きる子どもが増えることが、監督の一番の願い。

今回の同朋高校サッカー部とグラードバッハのパートナー契約は、海外でプレーする選手になりたいと考える子どもたちに、新たな道筋を作ることになった。その一方で、森岡監督は、プロの選手になることはどこの国でも特別なことであることを熟知している。またグラードバッハのパートナー契約を通じて、グラードバッハやドイツでの指導方法や価値観を経験してほしいとも、森岡監督は語っていた。

海外で自分らしく幸せに活躍できる子どもたちが一人でも多く現れること、それがグラードバッハのパートナー契約で、森岡監督が心から望んでいることなのであろう。

(写真提供 同朋高校サッカー部)
(インタビュー・文 對馬由佳理)

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