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千葉百音が自己新205.82点でJGP鮮烈デビュー!地元・仙台で語った手応えと「表現」への挑戦

 仙台市を拠点に活躍するフィギュアスケーター・千葉百音選手(東北高)が、その名を世界に轟かせつつある。9月28日から10月1日にかけて開催されたジュニアグランプリシリーズ(JGP)第5戦・ポーランド大会で、自己ベスト205.82点をたたき出し2位に入ったのだ。

 今大会の成績を受け、10月12日に開幕する第7戦・イタリア大会の出場も決定。ポーランド大会からイタリア大会までのわずかな帰国期間、アイスリンク仙台で練習する千葉に現在の心境や今後の抱負を聞いた。

デビュー戦中止を経て大舞台で笑顔

 千葉のJGPデビュー戦は当初、第4戦・アルメニア大会となる予定だった。しかし、アルメニアとアゼルバイジャンによる紛争の影響などを考慮し、大会は中止に。中止を伝え聞いた千葉は「その日は一日落ち込んだ」と一瞬は下を向いたが、翌日には「もしかしたらポーランド大会に出場できるかもしれない」と考え気持ちを切り替えた。直後に読み通りポーランド大会への派遣が決定。中止発表から約2週間後、氷上で笑顔を輝かせることとなる。

10月6日、午前6時15分から行われた練習に参加した千葉。背中には「JAPAN」の文字

 ショートプログラム(SP)はコンビネーションジャンプの3回転ルッツでアテンション(軽度の踏切違反)がついたものの、ほぼ完璧な演技を披露し、70.16点の高得点で首位に立つ。フリースケーティングも3連続ジャンプで4分の1回転不足を取られた以外はジャンプを決めきり、135.66点をマークした。

 ジャンプはほぼノーミスで、スピンはオールレベル4。優勝こそ島田麻央選手(木下アカデミー)に譲ったが、国際スケート連盟公認大会初出場でSP、フリーともに自己ベストを更新する快挙をやってのけた。

希望を持って生きていく姿を表現―じっくり作り上げる「シンドラーのリスト」

 SPは今季から新しくしたプログラム。「シンドラーのリスト」を選曲し、大会では8月に新潟で開催されたMGC杯に続き2度目の披露となった。「シンドラーのリスト」は、ナチス・ドイツによる大量虐殺(ホロコースト)からユダヤ人を救った実業家を描くアメリカ映画。過去には宮原知子選手、ジェイソン・ブラウン選手、ユリア・リプニツカヤ選手ら名だたるスケーターが使用し、名プログラムを作り上げてきた。

 千葉は宮原ら歴代のスケーターが演じたプログラムの動画を視聴し、雰囲気の作り方やスケーティングによる表現方法を模索。「重いテーマの曲。絶望や悲しみの中でも、少しの希望を持って生きていく姿を表現したい」との思いで日々、表現力の向上や曲の解釈に励んでいる。

真剣な表情で練習に取り組む千葉

 ポーランド大会ではジャンプ、スピン、ステップで取りこぼしがなかっただけでなく、曲調に合わせた表情や所作の豊かさ、スケーティングの美しさも際立った。ジュニアらしからぬ完成度で数字の面でも結果を残したが、本人は「曲のもっと細かいところまで理解して、曲の緩急に合わせて柔らかさの種類を変えたり、力強さの違いをはっきり出したりしていきたい」と意欲を見せた。

4回転は回避も精度の高い3回転ジャンプを連発、コレオシークエンスも高評価

 フリーは昨季から継続の「Butterfly Lovers Concerto」。今季は8月の七夕杯、MGC杯で、「自分の武器を持つ」ため挑戦している4回転トーループをフリーの冒頭に組み込んだが、いずれも失敗に終わっていた。練習で徐々に手応えをつかんできたが依然成功の確率は低く、今大会は3回転ジャンプで出来栄え点(GOE)を稼ぐことに狙いを定めた。

 狙い通りに冒頭の3回転ルッツ+3回転トーループでGOE1.52をマークすると、サルコー、フリップ、ループと単独の3回転ジャンプでもいずれも高いGOEを獲得。後半は連続ジャンプを決め、4回転はなくとも質の高いジャンプで魅了した。

田中総司コーチ(奥)の指導のもと、ジャンプの練習に励む千葉

 フリーの見どころはジャンプだけではない。千葉がこだわっているのが、演技終盤のコレオシークエンスだ。北京五輪後のルール改正により、今季はジュニアフリーのステップシークエンスがコレオシークエンスに変更された。どちらも複数の動きを組み合わせながら氷面に図形を描く要素だが、コレオシークエンスの方が自由度が高い上、レベル判定はなくGOEのみで評価されるという違いがある。千葉は「ステップシークエンスはターンなどをしっかりこなせばレベルが取れるけど、コレオシークエンスはより個性が出るし、その分差は出やすい」と分析している。

 今大会も「クライマックスの壮大な部分なので、曲の雰囲気丸ごと表現できたら」と話すように、リンクを大きく使ったスピード感のあるスパイラルを披露するなどし曲の世界観を存分に表現した。

 フリー演技後のキスアンドクライ(選手とコーチが採点結果の発表を待つスペース)で点数が表示されると、何度もガッツポーズを作り喜びを爆発させた。この時の心境について聞くと、「(フリーで)120点を超えたことがなかったので、嬉しさのあまり素が出てしまいました」と照れ笑い。強さと繊細さを兼ね備えたスケーターだが、高校生らしさが垣間見えた瞬間だった。

手にした自信と見えてきた高み、次なる舞台はイタリアへ

 華々しいJGPデビューを飾り、「『ミスをしない』という最低限の目標は達成でき、一安心。自分のいいところを出せれば点数もそれなりに出ると実感できた」と胸をなで下ろす一方、まだまだ現状に満足はしていない。

リンクを背に笑顔を見せる千葉

 優勝した島田はフリーで4回転トーループとトリプルアクセルを決めた。高難度ジャンプの成功が得点に直結することはやはり明確だ。また、島田は練習で両方着氷させることができないまま試合に臨み、本番ではいずれも成功。「本番に合わせてくる強さは私も身につけたい」とその姿から刺激を受けた。

 合計点の205.82点は、2018~19年シーズンのルール改正以降の日本女子で歴代8位。7位までには坂本花織選手、紀平梨花選手らそうそうたるメンバーが名を連ねる。それでも千葉は、「オリンピックレベルの選手たちとは差を感じる。今回点数は出たけど、上げていくべき自分のスキルはまだまだある」と冷静だった。仙台から世界につながる物語はまだ始まったばかり。まずはイタリアの地で、次の一ページを刻む。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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