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福岡県立修猷館高校野球部「野球、勉強…全てに本気で向き合うことが甲子園出場につながる」

今年創部130年を迎えた福岡県立修猷館高校野球部(以下修猷館)が目指すのは甲子園初出場だ。強豪校ひしめく同県を勝ち抜くのは簡単ではないが、「本気で甲子園出場を狙います」と波多江憲治監督が胸の内を聞かせてくれた。

昨秋の福岡県大会でベスト4入りするなど実力も上がっており、甲子園出場も決して不可能ではない。

「甲子園に出て館歌(修猷館の校歌)を歌うのが夢です」と波多江監督は明言してくれた。

修猷館は1895年(明治28年)創部と長い歴史を誇るが、甲子園出場経験はない。しかし、昨年の秋季高校野球福岡大会でベスト4に入るなど、今後に期待を抱かせる戦いを見せている。

「強豪校とのレベル差は、そこまで大きくないと感じました。選手自身も手応えは掴んでいると思います」

波多江監督は高校3年だった1989年夏に投手で県大会ベスト4進出経験がある。しかし、「当時は強豪校と大きな差を感じていた」と振り返る。

昨秋は日本ハム・新庄剛志監督の母校でもある西日本短大付高に「1-2」と惜敗、春の甲子園へ繋がる九州大会出場はならなかった。しかし、「結果以上に大きな経験を積め、自信を持つこともできた」と前向きだ。

~低反発バットとなり、方法次第では勝機が見出せる

「低反発バットが導入されたことで各チームの打力が下がりました。『攻撃、守備、走塁の全てにおいて、1つひとつのプレーを確実に行なっていけば勝機も出てくる』と確信しました。昨年夏までのチームも同様でしたが、低反発バットに即した野球を継続、磨いていくことが重要です」

「本当に飛ばないです」(波多江監督)という低反発バットは、2022年から2年間の移行期間を経て2024年から正式導入された。同年夏の大会へ向け、修猷館は「同バットになり、いかに戦うべきか?」を模索してきた。

「高校野球から大学野球へ変わった時の感覚に似ていると感じました。大学野球は木製バットなので(低反発バット同様)飛びません。だから、1球ごとに集中して、1人ずつ確実に打ち取ることで勝率も高くなるはずです」

「(金属バットの)高校野球に比べて打つことが難しかったので、1球ごと全てに出力高く投げることで抑える確率が上がりました。同様に低反発バット下では、投手を中心に守備面をしっかり高めることが大事だと思います」

「プレーの1つずつを確実にやる意識を持つことで道も開けるはずです」と自信を感じさせる。

波多江憲治監督は、1989年夏に投手として県大会ベスト4進出に貢献した。

~修猷館には勉強と部活の両方に取り組める環境がある

修猷館高校は1784年(天明4年)に藩校として開校、名門大学に多くの学生を送り出す県内屈指の進学校だ。部活動も盛んで、今年創部100年を迎えるラグビー部は全国大会(花園)へ8度出場を誇る強豪としても知られる。

「学校が大切にしているのは『生徒が自分のやりたいことを思う存分やる』という考え方。野球部はもちろん、ラグビー部など他の部活動もそれぞれが熱心に活動していて、お互いに切磋琢磨、刺激を受けている部分が多いです」

練習場はNPB・ソフトバンクの本拠地・みずほPayPayドームからもほど近い、福岡市早良区の学校敷地内にある。ラグビー部、サッカー部と共有ながら「十二分な設備です」(波多江監督)と感謝を口にするほどだ。

「グラウンドはライト後方が多少、重なるくらいで練習には何の支障もありません。ラグビー、サッカー部と練習時間を調整しながら、お互いがしっかり使えるようにしています」

「数年前に人工芝が敷かれ、多少の悪天候でも使用できるのがありがたい。他の部活動も結果を残しているのに加え、同窓会が熱心に支援してくれた結果です。感謝しかないですし野球部も負けずに結果を出したいです」

野球部は今春15名の新入生を迎えて総勢44名となった。月曜日から金曜日までは7時限の授業後、グラウンド整備を含めて約2時間強の活動を行う。

「福岡地区にある学校なので、1学年で1クラス40人が11クラスあります。生徒数が比較的多いので、野球部の人数もそこまで減っていないと思います。校内で野球に興味を持ってくれている生徒も想像以上に多いです」

「『練習はもっとやりたい』というのが本音です。『練習しないと上達しないので、やはり時間は短いと思います。しかし、最低限の勉強もありますから効率化を図ってカバーしないといけません」

野球部を含め、生徒の多くは現役での大学進学を目指す。波多江監督自身も3年間の野球をやり遂げた後、九州大学へ進学した経歴を持つ。

「(部活と勉強の)両立できると思います。僕も普段は勉強はしなかったですが、試験中など部活が休みの期間は集中して徹底してやりました。『片方だけ必死にやって片方は中途半端』ではダメ。それが学校全体の良い雰囲気にもなっています」

コロナ禍だった2020年の創部125周年時には記念誌が作られた。

~周囲の大きな期待を受けてプレーできる経験は重要

「打てなくても勝てる野球。守備をしっかりすることに加え、夏は総合力も必要です」

波多江監督自らが経験した野球人生から導き出した、甲子園出場へ向けての必勝パターンだ。

「大学では木製バットを使った『打てない野球』の中で結果を求めました。社会人では細かい作戦を含めた野球の醍醐味を学ばせてもらった。その後の教員生活では高校野球の奥深さを教えてもらっています」

大学卒業後は社会人・新日鉄八幡でプレー、現役引退後に教職を取って福岡県の高校教員となった。糸島高で3年(1999年~)、武蔵台高で4年(2002年~)、筑前高で10年(2006年~)を過ごした。そして、2016年に修猷館に来てから今年で10年目となる。

「一発勝負のトーナメントは勢いも必要。昨秋は選手の飛躍的な成長にぶつかって試合ごとに強くなった感じもありました。ラッキボーイの登場も含め、流れや雰囲気も大事にしたいです」

野球部創部130年という記念の年、昨秋の躍進もあり周囲からの期待は日増しに高まっている。野球以外に気を使うことも出てくるのではないだろうか。

「周囲の声も聞こえますが、重圧には感じません。大きな期待を受けプレーできるのは、なかなか経験できないこと。自分のやりたいことに対し、周囲が期待を込めて支えてくれる。これからの人生にとっても絶対にプラスになると思います」

聖地・甲子園を目指して、部員1人ひとりが思い切り野球に打ち込む伝統が引き継がれている。

修猷館の長い歴史と伝統によって作り上げられた「文武両道」を、野球部員たちも体現して結果を出そうとしている。

「野球は失敗のスポーツなので切り替える力が重要。修猷館の生徒は普段から部活と勉強の切り替える力が必要な環境に置かれ磨かれています。そこは負けない部分だと思っています」

「切り替える力と集中力を常に持ち続けて欲しい。大事な場面で信じられない力を発揮する原動力にもなってくれるはず。そのためにも部活と勉強のそれぞれに全力で向き合うことが大事です」

「勝利至上主義」に傾倒する学校が競技成績を残すのは、ある意味で当然だ。しかし修猷館は、高校生活で本来あるべき姿を大事にしつつ結果も目指している。

「修猷館は切り替える力を養うのに最適な環境だと思います」と最後に付け加えてくれた。

「創部130年で悲願に手が届くのか?」も気になるが、実直に歩み続ける姿にこそ何かを感じさせてくれる。今夏の戦いはもちろん、今後の動向が気になって仕方がない学校だ。

(取材/文・山岡則夫、取材協力/写真・修猷館高校野球部、修猷館高校野球部OB会、鴛海秀幸)

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