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観客を魅了した和製大砲二人の一発、仙台育英出身左腕の快投〜仙台六大学野球秋季新人戦総括(前編)

 11月3、5、6日に行われた仙台六大学野球秋季新人戦。地方リーグながらレベルは高く、将来のドラフト候補や来季の中心選手となりうる1、2年生をチェックすることができる。  

 東北福祉大、仙台大の「2強」が目立つリーグで、今大会も東北福祉大が優勝、仙台大が準優勝という結果で幕を閉じたが、他の4大学にも楽しみな選手が多数。準決勝のスコアはいずれも接戦(東北福祉大2-0東北工業大、仙台大4-2東北学院大)で、実力は拮抗していた印象だ。全日程を取材した今回は、来季に向けアピールした各大学の選手たちを前後編に分けて紹介する。

仙台育英出身左腕&1年生4番が成長中(東北工業大)

 今秋最下位に沈んだ東北工業大は、新人戦では1回戦で東北大相手に11-4と快勝すると、準決勝の東北福祉大戦も敗れたものの善戦した。中でも際立ったのが、左腕・後藤佑輔投手(2年=仙台育英)の奮闘。2試合とも先発し、東北大戦は3回1安打無失点、東北福祉大戦は8回8安打2失点といずれも好投した。

速球が光った後藤

 東北工業大の投手陣は今秋、チーム防御率8点台と苦しんだ。そんな中、後藤は東北大戦で10奪三振完封勝利を挙げるなど、4試合に登板し防御率1.80と高い安定感を誇った。不調で登録メンバーを外れた第1、2節の期間に「自分を見つめ直した」ことが、好成績につながったという。制球重視で一度リリースポイントをサイド気味の位置まで下げたが、球速が上がらなかったためスリークォーターに再変更。これが功を奏し、制球と球速がどちらも安定するようになった。新人戦では130キロ台中盤〜140キロの直球とカットボールが冴え、「強い福祉大相手にも本領を発揮することができた」と充実感を滲ませた。

 強豪の仙台育英出身だが、高校時代の最速は133キロで、「実力がなかった」と当時を振り返る。「正直言うと、勉強しながら野球もできればいいかなと思っていた」。野球に対するモチベーションは落ちかけていたが、高校野球引退後に取り組んだ筋トレの効果で筋肉量が増え、下半身が強化されたことで大学入学時までに球速が大きく伸びた。今は再び本気で野球と向き合っており、「145キロ超の球速を出したい」と高い志を持っている。来季は投手陣再建のキーマンとなるだろう。

 野手では、右の長距離砲・佐久間永翔内野手(1年=白石工)が東北大戦で左翼席へ運ぶ2点本塁打を放った。今秋は1年生ながら全試合で4番を任され、リーグ戦初本塁打を含む2本塁打をマーク。優秀新人賞のタイトルも獲得した。「4番は『自分が打たないと』と思わせてくれる打順」。重圧を力に変え、自慢の長打力に磨きをかけてきた。

新人戦では三塁を守り、攻守に活躍した佐久間

 白石工では2年秋から「4番・捕手」を務めた。当初は高校卒業後就職するつもりだったが、当時の監督に勧められ東北工業大へ。「飛ばせると楽しいし、打てたらチームも盛り上がる。バッティングが好き」と語るように打撃への思い入れが強く、大学では主に一塁を守っている。  

 打撃強化に割く時間が増え、その成果はすぐに現れたが、一方で課題も残った。今秋は仙台大、東北福祉大の上位2校との試合では計12打数無安打7三振と沈黙。新人戦も東北福祉大戦は4打数無安打2三振に終わった。「強いチームと対戦した時に打たないと上にはいけない。打てるように練習したい」。来季以降の進化に大きな期待がかかる。

身長196センチの大型一塁手が豪快弾、投手陣は左腕2人が存在感(東北学院大)

 右の長距離砲は東北学院大にもいる。身長196センチ、体重98キロの体格が特徴的な中田裕生内野手(1年=大館鳳鳴)だ。1回戦の宮城教育大戦では6回に代打で登場し、左翼席へ豪快な2点本塁打を放り込んだ。「練習から球に合わせることなく、全力で振って全力で飛ばすことを意識している」。自信たっぷりのフルスイングからは大物の雰囲気が漂う。

本塁打を放ち、巨体を揺らしながら生還する中田

 幼少期から高身長で、小学校卒業時に183センチ、中学校卒業時に193センチと伸び続けた。高身長ゆえ投手として起用されることもあったが、「バッティングの方が楽しい」と感じ高校3年次からは打者に専念。期待値は高く、大学1年目からリーグ戦でも代打で出場機会を得た。「ホームランは一振りで1点になる。三振することもあると思うがあまり気にせず、三振か四球かホームランという、1点を取りにいく打撃を極めたい」と、大砲らしい意気込みを語った。  

 東北学院大は左投手の好投も目立った。1回戦で先発した堀川大成投手(1年=東日本国際大昌平)は、5回まで打者15人、無安打無失点に抑える快投を見せ、7回3安打1失点。石川岳人投手(2年=石巻西)は1回戦、準決勝ともに中継ぎ登板し、140キロを超える速球を武器に計3回3分の2を投げ1失点ながら7奪三振を記録した。

与四死球0と制球力の高さも見せつけた堀川

 堀川にとっては、新人戦が練習試合も含め大学初先発のマウンドだった。身長168センチで、石川のような球速はなくストレートのアベレージは130キロ台前半だが、「器用さを武器に投げている」と話すようにカーブ、スライダーなどの変化球を織り交ぜた、緩急をつけた投球で打者を翻弄している。左腕は貴重な存在なだけに、石川、堀川の成長はチームにとって欠かせない。

新エース候補が見つけた収穫と課題(東北大)

 東北大は今春、今秋とリーグ戦はいずれも4位。春は東北福祉大から32年ぶりの白星を挙げるなど、躍進の年となった。その原動力は瀬戸崚生投手(4年=桐光学園)、小池侑生投手(4年=前橋)の「二枚看板」。主に先発としてフル回転した、タイプの異なる両右腕だ。今秋最終節の東北工業大戦では小池が9回無失点、瀬戸が7回2失点と揃って好投し、有終の美を飾っていた。  

 鈴木得央監督は最終節の試合後、瀬戸、小池が抜ける来季先発陣の柱になりうる投手として、道下大洋投手(2年=仙台二)と佐藤昴投手(1年=仙台一)の名前を挙げた。新人戦では、そのうちの一人である道下が東北工業大戦に先発。指揮官の期待を背負って投げたが、初回、四球や失策が絡みいきなり4点を失うと、3回も四球をきっかけに3失点を喫し、5回7失点で降板した。打線は植木祐樹外野手(1年=長野吉田)の2点適時三塁打などで5回に4点を奪うも、中継ぎ陣が打ち込まれコールド負け。道下にとっては悔いの残るマウンドとなった。

懸命に投げ込む道下

 「初回の入りが悪かった」と振り返るように、初回は46球を要する苦しい立ち上がり。5回で計6四死球と制球力の課題も露呈した。一方、2回には自己最速を2キロ更新する139キロを計測するなど持ち味を発揮し、「緩急を多めに使った」という4、5回はテンポ良く無失点に抑えた。「『去年よりピッチャー(のレベルが)落ちたな』と言われるのは悔しい。今年の冬にコントロールも球速も上げて、安心して先発を任せてもらえるようなピッチャーになりたい」。その目は早くも来季を見据えていた。

指導者目指す1年生右腕が公式戦初先発で粘投(宮城教育大)

 宮城教育大は1回戦の東北学院大戦に1-8で敗れたが、先発した野口武琉投手(1年=仙台一)が粘投した。相手打線には井上裕策内野手(2年=仙台南)、坂本章畝内野手(2年=一関学院)らリーグ戦でも主力級の活躍をしている選手が並んだが、臆することなく腕を振り、5回まで3安打2失点。6回に2点本塁打を浴び降板したが試合はつくり、リードを広げられた8回には再びマウンドに上がった。  

 1年生ながら今春は4試合に登板。しかし秋は制球難に苦しみ、1試合の登板に終わっていた。課題を克服するため、ダルビッシュ有投手(パドレス)の投球を参考に足の使い方を工夫するなどフォームを修正すると、徐々に安定した投球ができるようになってきた。特段球速が出るタイプではないが、動くストレートやカーブ、フォークを駆使して投球を組み立てている。

強力打線相手に力投する野口

 野口には、卒業後教師になり、指導者として野球に携わる夢がある。「プロや上(社会人野球や独立リーグ)を目指すような選手と戦うことは自分にとっての財産になる。指導者になった時、子どもたちにそういう選手の考え方、姿勢を伝えられるよう、4年間で吸収したい」。“勉強の4年間“は、まだ始まったばかりだ。

 後編では、仙台六大学野球の双璧をなす東北福祉大、仙台大の新人戦を振り返る。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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