大阪教育大学男子ラクロス部が「キッズラクロス」開催へ ラクロス通して「新しい価値観」を提供

 大阪教育大学男子ラクロス部が、子どもにラクロスを教える「キッズラクロス」の開催に向け準備を進めている。小学生らを対象にラクロスを教えるイベントは甲南大学ラクロス部や日本ラクロス協会が以前から実施しており、大阪教育大学も部の新たな挑戦として同様の活動に取り組むことになった。主将の中辻大海さん(4年)に活動の内容や目的、今後の展望を聞いた。

ラクロスを「キャリア教育」の一環に

 大阪教育大学男子ラクロス部が開催を予定しているキッズラクロスはどんな内容なのか。中辻さんは「まだまだ構想段階です」としつつ、次のように話してくれた。

 「ラクロスを通して子どもの成長を支えられるような内容にしたいと考えています。ラクロスは人生で触れることがあるかないかというくらいのマイナースポーツ。触れたことのない文化に触れることで『できた!』という経験をしたり、新しい価値観が生まれたりする。それをきっかけに『ラクロスをやってみよう』『この大学に行きたい』といった思いが芽生えて、子どもたちの未来をつくることにつながれば、キャリア教育という面でも意味があるのではないかと思います」

活動の中心を担う主将の中辻さん

 ラクロスを本格的に教えるというよりは、「ラクロスに触れてもらう」ことがメイン。成功体験と新しい価値観を子どもに提供することが主な目的だ。参加者は現段階では、部OBが教員として勤務する小学校や大学のある大阪府柏原市内の小学校に声をかけて募る予定で、キャリア教育の観点から中高生まで対象を広げることも検討している。今年中に1~2回開催し、来年以降も年2回程の開催を目指す。

選手自身の成長と成功体験が活動の源

 中辻さん自身にも、ラクロスを通して成長した経験がある。中辻さんがラクロスを始めたのは大学1年生の頃。幼少期にラクロスを題材にした漫画を読んだことがあり、競技については知っていたが、「頭の片隅にあるくらい」で高校までは自らがプレーする機会には恵まれなかった。

 小学校高学年から高校までサッカーに打ち込むも、高校2年の夏にケガをして選手からスタッフに立場を変えた。サッカーは不完全燃焼で終え、「何か新しいことに挑戦しよう」と意気込んで進学した大学でラクロスに出会った。男子ラクロス部の練習を初めて見学したその日に魅力を感じ、入部を即決した。

中辻さん自身にもラクロスを通した成功体験がある

 「元々サッカーをしていたので、手や上半身、道具を使うスポーツが目新しく、『できるかな』と不安でした」。ラクロスは「地上最速の格闘球技」と呼ばれるスピード感のある競技で、アルミニウム製のスティックを使ってボールを奪い合う。サッカーとは性質が大きく異なるため、始めた当初はパスを出すことさえままならなかった。

 それでも、自主練習を重ねると1年生のうちにパスを出せるようになり、2年時からはリーグ戦の出場機会をつかんだ。また日本のラクロス界には自らの意思で他校の練習に参加する「武者修行」という文化が浸透しており、中辻さんも「武者修行」に励んで技術を磨きつつ、様々なチームや選手の考えに触れることで人間的な成長も続けた。まだラクロスと出会っていない子どもたちにも、同じような経験をしてほしいと願っている。

知名度アップと魅力発信も目的の一つ

 キッズラクロスの狙いは他にもある。そのうちの一つが競技普及への貢献だ。ラクロスは2028年ロサンゼルス夏季五輪で120年ぶりに五輪競技となることが決まっている。ただ、日本ではマイナースポーツと認識されているのが現状。中辻さんは「キッズラクロスの活動をすることでラクロスの知名度がアップして、ラクロス文化が日本に根付くことに少しでも貢献できるのではないか」と思い描いている。

ラクロスはスティックを使ってボールを運ぶスピード感のある競技

 ラクロスはいわゆる「カレッジスポーツ」で、大学から競技を始める選手がほとんど。大阪教育大学男子ラクロス部にもサッカー、野球、水泳、テニス…とあらゆる競技の経験者が集まってきており、中にはスポーツ未経験者もいる。このラクロスならではの特性も中辻さんの言う「新しい価値観」の一つに数えられる。

 「大学に入る前まで全く別の経験をしてきて、全く別の人生を歩んできた人たちと同じことをして、一つの目標に向かって突き進むのがカレッジスポーツ。それぞれの取り組んできたことからそれぞれの強みが生まれて、新しい価値観に触れることができる」。日本でラクロスが普及すれば、子どものみならずより多くの人がその醍醐味を味わえるようになる。

年内に「ノウハウ」確立し未来へつなぐ

 活動を進めるにあたって、課題も残されている。キッズラクロス用の用具の準備などにかかる費用面の課題はもちろん、最大の懸念は「ノウハウがない」ことだ。すでにキッズラクロスを実施している甲南大学から加入したアシスタントコーチら、指導者の意見も取り入れながら運営方法を固めていく。

 大阪教育大学男子ラクロス部は昨年、関西学生ラクロス2部リーグで1勝もできず、3部に降格する屈辱を味わった。現在は月曜、木曜を除く週5日は全体練習を行っており、「ReBorn」というチームスローガンを掲げて2部昇格を目指し鍛錬を積んでいる。中辻さんは主将の立場でチームをけん引する傍ら、キッズラクロスの計画、運営にも精を出す。両立は決して楽ではないが、「それでもキッズラクロスにはやる価値がある」と断言する。

競技面では2部リーグ昇格を目指し練習に励んでいる

 教育大学で教員志望の部員が多いこともあり、キッズラクロスに対するチームメイトの士気も高いといい、仲間と手を取り合いながら着実に進めていくつもりだ。「今年中に必ず1回は実施してノウハウをつくって、来年以降も続けて男子ラクロス部の伝統、文化にしたい。活動を新入生にアピールして部員を獲得し、さらに新しい部員がその活動に取り組むという、一つのサイクルができたらいいと思います」。明るい未来に向け突き進む主将を中心に、大阪教育大学男子ラクロス部が新たな挑戦に臨む。

(取材・文 川浪康太郎/写真 大阪教育大学男子ラクロス部提供)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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