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首都リーグ優勝の日体大、寒空に響く「エッサッサ」 舞台は関東地区大学選手権へ

 11月7日、横浜市長杯争奪第18回関東地区大学野球選手権大会(以下、関東大会)が開幕する。今年も横浜スタジアムで、関東五連盟の秋季リーグ戦上位2校、計10校が、明治神宮大会出場をかけて戦う。 

 首都大学野球連盟からは勝ち点4・9勝3敗(勝率0.75)で優勝した日本体育大学、勝ち点4・8勝4敗(勝率0.67)で2位となった筑波大学が出場する。今回は、4季ぶり25回目の優勝、そして2年ぶり7回目の関東大会出場を決めた日体大について、リーグ戦を通して取材してきた内容をもとに、戦力、特徴を紐解く。 

最終戦で決めた4季ぶりの優勝 

 首都大学野球秋季リーグ最終戦。すでに2位以上が確定し、関東大会への出場は決まっていた。勝てば優勝、負ければ2位の桜美林大3回戦。目指すは優勝のみだ。 

 日体大の先発は、先日ドラフト会議で北海道日本ハムファイターズから1位指名された二刀流・矢澤宏太投手兼外野手(4年・藤嶺藤沢)。今季は調子が上がらない中でも、試行錯誤しながら結果を残してきた。この日は、スタメンマスクを被った田邊広大捕手(1年・常総学院)とのコンビネーションで、序盤から丁寧な投球でスコアボードにゼロを並べた。 

日体大のエース・矢澤宏太

 打線の方はというと、桜美林大の土生翔太投手(4年・横浜)から毎回ランナーを出すものの、得点にはつながらない。0-0のまま8回表を迎えた。桜美林大はすでに継投に入っており、この回からは四番手の西有喜投手(4年・東邦)がマウンドに上がった。先頭打者は、本間巧真外野手(3年・東海大相模)。2ボールから中前安打を放つと、次の南大輔外野手(2年・花咲徳栄)の打席で初球から二盗を決めた。無死二塁のチャンスで、今季リーグ2位の打率.400と絶好調の南が2球目を左中間に運び、日体大に待望の1点が入った。 

2年生ながらリーグ2位の打率.400を残した南

 矢澤もここまで危なげない投球を続けており、残すはあと1イニングだ。リーグ戦最後の試合、完封勝利で優勝を決めるとなれば、これからプロの道へ進む矢澤にとってもいい置き土産となる。ところが、先頭打者にレフトの頭を越える二塁打を打たれると、次の打者の中飛でランナーが三塁に進み、矢澤の暴投で同点に追いつかれてしまった。気持ちを切り替え、延長戦へ。ここからはタイブレークとなり、無死一、二塁から始まる。 

 先頭打者は、先制のチャンスメイクをした本間。初球を左前に飛ばし無死満塁とチャンスを広げた。試合後、古城隆利監督はこの場面を「送りバントの場面でしたが、大きく動くブルドッグ(※無死一、二塁から送りバントをされた場合に、三塁封殺を狙い一塁手と三塁手が前進してくるバントシフト)をかけられたときは、反応して打っていくというのを練習でやっているので、彼が瞬時に切り替えて打ってくれたのかなと思います」と振り返った。残念ながら後続が倒れ、このイニングは無得点。今度は、桜美林大にサヨナラのチャンスが訪れた。 

 ここまで124球を投げていた矢澤だったが、ここで負けるわけにはいかない。10回裏もマウンドに上がった。先頭に犠打を決められ1死二、三塁、絶体絶命のピンチとなってしまった。ここからの矢澤が圧巻だった。次の打者を空振り三振、そして最後は見逃し三振を奪いマウンドを降りた。 

 日体大に再び訪れたチャンス、主将の打田啓将内野手(4年・宇部鴻城)を中心に「矢澤のために点取ろうぜ」と声を掛け合った。相澤利俊内野手(3年・山梨学院)が初球で犠打を決めると、黒川怜遠内野手(1年・星稜)が代打に送られた。桜美林大は、黒川を申告敬遠し1死満塁にすることを選んだ。ここで打席に立ったのは三木彰智内野手(4年・履正社)だ。 

 リーグ戦序盤は出場機会が少なかった三木だが「中盤にリーグ戦の流れを変えるような活躍をしてくれた」と、古城監督はその後の起用を考えていた。「そんなときに、彼が教育実習で三週間ほど抜けてしまったんです。実習の合間にも練習していたと聞いたので、今回戻ってきてスタメンでいこうと思ったのですが、稲本(侑星内野手/4年・福岡大大濠)も調子が良かったので、稲本でいって展開によって途中から出すと考えていました」。三木と同じサードを守る稲本もリーグ戦中盤からスタメンに定着し、いい働きをしていた。この日も2安打していたが、7回から稲本に代わって三木が守備についた。 

 日体大は、その三木の内野安打で1点を勝ち越すと、小吹悠人内野手(2年・山梨学院)の内野ゴロの間にさらに1点、相手投手の暴投で3点目を加えた。3点のリードは大きい。あとは最後をビシッと締めるだけだ。 

 11回裏、矢澤に代わりここまで防御率0.00の箱山優投手(2年・日体大柏)がマウンドに上がり、捕手も高橋建心捕手(3年・桐光学園)に代わった。箱山は、今季が大学でのリーグ戦初登板にも関わらず、ずっと試合終盤のイニングを投げてきた。痺れる場面でも安定した投球ができる箱山が、優勝のかかるこの場面を任された。 

今季デビューし防御率0.00の箱山

 その箱山の暴投でランナーが無死二、三塁となってしまった。それでも先頭打者から空振り三振を奪うと、次を左飛、そして最後は空振り三振。その瞬間、日体大の4季ぶり25回目の優勝が決まった。前回の優勝時は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、マウンドに集まることさえ許されなかった。この秋は、優勝が決まった瞬間ベンチから飛び出してきたナインが、マウンドで高々と手を上げた。

優勝の瞬間、マウンドに集まるナイン

試合が進むごとに戦力が充実 

 開幕カードを筑波大と戦った日体大。1勝2敗で勝ち点を落としたこのカードが、一番タフだった。1回戦は1-1で延長戦へともつれ込み、11回裏にエラーでサヨナラ負けを喫してしまった。2回戦は両軍合わせて18安打23四死球と荒れに荒れ、9回裏にサヨナラ四球で日体大が勝利した。3回戦も延長戦に突入、10回表に決勝点となる押し出し四球を与え、勝ち点を落とした。 

 度重なるエラーと四球が印象的な3連戦で、この時点では日体大が優勝し、筑波大が2位になるとは想像がつかなかった。優勝が決まったあとの取材で、古城監督にターニングポイントを尋ねるとひとつ目にこのカードを挙げた。 

「開幕カード、筑波さんと安定していないチーム力の中で戦って、お互いミスのオンパレードで、我々の方が大きなミスをして勝ち点を取ることができませんでした。このままじゃいけないと気合いを入れ直しました。私の覚悟を示せるかなというところで私は丸刈りにして、選手たちには戦う姿勢、攻める姿勢を持っていこうと言いました」 

 そこからは明治学院大に2連勝、桜美林大は雨で1戦流れ、次の日の試合で1勝。打順の入れ替えもプラスに働くことが多かった。 

 序盤、特に活躍が目立ったのは五番・ファーストの相澤だった。毎試合、いろいろな形で得点に絡んだ。捕手の高橋は自分でもびっくりの本塁打を打ち、三木や松本佳高外野手(4年・初芝立命館)なども起用に応える活躍を見せた。セカンドを守る中島優仁内野手(3年・佐賀商)が故障で離脱したのは想定外だったが、ショートでレギュラーだった松浦佑星内野手(3年・富島)がセカンドを守り、強肩の小吹がショートに入った。松浦は今季リーグ3位の打率.364をマーク。小吹も守備だけではなく、打撃でもチームに貢献した。 

守備力、走力、そして今季は打力も見せる松浦

 中盤になってくると、なかなか結果が出ていなかった本間に当たりが出てきた。ここまで全勝で日体大戦を迎えた武蔵大にも2連勝と、チームの勢いは増すばかりだった。次の試合は、雨で中止になった桜美林大との2回戦だった。日体大はここで久しぶりの敗戦となった。 

「無敗で走っていた武蔵さんに2連勝したときに、気の緩みがあったのかな。桜美林さんにやられましたので、そこでもう一回開幕で勝ち点を落としたときの気持ちを思い出そうと、気合いを入れ直したというのが2回目のターニングポイントだったかなと思います」そう、指揮官は話した。 

 ここからまた、日体大ナインは走り出した。1年生でスタメンに名を連ねながらも結果の出ていなかった門馬功外野手(1年・東海大相模)が、リーグ戦終盤の東海大1回戦で初の四番に抜擢された。昨年まで門馬の兄が主将を務めていた東海大だが、日体大にとっては永遠のライバル的存在だ。「いつもの相手より意識しましたし、絶対に負けたくないという気持ちはずっとありました」。その第1打席で、門馬は先制の2点本塁打を放った。これが、門馬にとってリーグ戦初安打となった。 

先制の本塁打を放った門馬

「打ったのは真ん中に入ってきたインコースです。試合前からずっとインコースについてチームで話し合っていて、自分もそれを頭に入れておいて、甘く来たので打つことができました。試合に使ってもらっていたのにヒットが出ていなくて、でも先輩たちが優しく声をかけてくれていました。指名打者で試合に出る準備はしていたんですけど、まさか四番だとは思いませんでした。四番と言われてからも、先輩たちが『いつも通りいけ』と言ってくれたので楽にいけました」 

 この試合は7-2で快勝したが、選手たちは「明日勝たないと(勝ち点が取れないから)意味がない」と気を引き締め直した。そして、2回戦も7-3と快勝。最後の桜美林大3回戦を残して2位以上が確定、2年ぶりの関東大会出場を決めた。 

 南、松浦を筆頭に打力の高さを見せたリーグ戦となったが、戦力になる新しい投手が出てきたことも勝利に繋がった。エースの矢澤を筆頭に、勝本樹投手(4年・明石商)、八田歩投手(3年・大和)、恩田慧吾投手(4年・前橋育英)、岡田龍生投手(4年・履正社)などが今までリーグ戦で投げてきたが、今季は規定投球回数には達していないものの防御率0.00だった箱山と、先発の2枚目として投げた相馬綾太投手(2年・志学館)の活躍が大きかった。 

先発の2枚目として定着した相馬

 野手、投手共に下級生もいい結果が出せたことについて、主将の打田は「経験豊富な3、4年生が、1、2年生に『思い切り振ってこい』『思い切り投げてこい』という声掛けを常にしているので、思い切りやってくれているかなと思います」と話す。今季中盤からの日体大の勢いを考えると、関東大会ではいい戦いができそうだ。 

日体大伝統の応援スタイル「エッサッサ」 

 2年ぶりの優勝。選手たちは泣きながら喜びを分かち合い、お互いを労った。 

「勝って泣けるというのは、やり切ったからだと思います。勝って笑っているようではまだまだ取り組みが足りないというところで、彼らの中で苦労とか悔しい思いとかいろいろなものを重ねて勝ち取った勝利で、ああいった涙が出てきたんじゃないかなと思います」そう言う指揮官の目にも、涙が光っていた。 

「コロナの影響が日体大の学生の中でも大きくて、今の3年生は同じ部活の中での繋がりはあるんですけど、授業がオンラインから対面となったときに他の部活との繋がりがなかったんですね。それが、今日は野球部もそうですし、一般学生も観に来てくれました」 

 そんな観客の前で、日体大伝統の応援スタイル「エッサッサ」が披露された。2年前の優勝時はコロナ禍でできなかった「エッサッサ」。久しぶりのその光景は圧巻の一言だった。

 日体大の新入生は授業でエッサッサを習うが、コロナ禍でその授業がなくなり、今年も復活していなかった。「一週間くらい前からメンバー外の子たちが朝早く起きて練習してくれて、日体大の学生も関係者もいる中で披露できて、非常に喜ばしいことだと思います」。古城監督は、そう言ってスタンドの学生たちも労った。 

 そして、優勝監督としての囲み取材が終わると取材陣に向かってこう切り出した。 

「もし写真を使っていただけるなら、スタンドにいる部員たちも一緒に写っているものをぜひとも使っていただきたいです。300人近い部員がいますが、大半の者が裏方とか二軍、三軍という厳しい環境で練習してくれていますので、ぜひお願いします」 

全員で勝ち取ったリーグ優勝

 矢澤というスーパースターがいる。だが、日体大が優勝できた理由はそれだけではない。打田主将の囲み取材でも、矢澤についての質問が飛んだ。「チームメイトがドラフトで指名されたことについて、どう受け止めますか?」。それに打田はこう答えた。「一緒にプレーしている選手がプロの世界、それも1位で行くというのはそうそう経験できないことかなと思うので、誇りに思います。矢澤以外にも日体大には素晴らしい選手がいっぱいいるので、ぜひそういう選手を見て欲しいなと思います」。 

 日体大は、打田主将、エース矢澤を中心に300人近い部員が力を合わせ、関東大会の初戦を上武大(関甲新学生野球連盟1位)と戦う。上武大の谷口英規監督は古城監督と同い年で交流もある。記者からの「これ以上ない相手ですね」の質問に、古城監督は「これ以上ない相手ですね。やっつけないといけないと思いますので、ガチンコでいきたいと思います」と笑顔で答えた。 

 11月7日の第3試合(16時開始予定)、横浜スタジアムで日体大の戦いが始まる。 

好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいと思い、OLを辞め北海道から上京。 「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦。気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターとしても活動している。 大学野球、社会人野球を中心に、記者が少なく情報が届かない大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信する役割も担う。 面白いのに日の当たりづらいリーグや選手を太陽の下に引っ張り出すことを目標とする。

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