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2つのオリンピックとその先の未来へ‐スピードクライミング 大嶋あやの選手‐パート2

SASUKEの常連チャレンジャーとして知る人も多い、スピードクライミングの大嶋あやの選手。前回のパート1では、SASUKEに対する思いやスピードクライミングのトレーニング方法などについて、話を伺うことができた。

 今回のパート2では、パリとロサンゼルスの2つのオリンピックに向けた目標や、スピードクライミングの未来について大嶋選手に語って頂いた。

パリオリンピックを通過点にして、ロサンゼルスで金メダルを

スタート前の大嶋選手 (写真提供 大嶋あやの)

スピードクライミングの日本代表選手になって、パリオリンピックに出たいと思われる以上は、「本番のオリンピックの場ではこんな結果を出したい」あるいは「こんなパフォーマンスをしたい」というような目標を、大嶋選手はきっとお持ちだと思います。そちらを伺わせていただけますか。

「私は、『競技人生の最後に、ロサンゼルスオリンピックで金メダルをとって引退する』とすでに決めています。そのために、まずパリオリンピックに日本代表として出場したい、というのが本音です。

 ただ、オリンピックに出場するという目標のためだけに100%自分の力を使い切ってしまう計画ですと、もしかしたらオリンピックに出ることすら難しくなってしまうかもしれません。そのため、目標達成するためも、2年後のパリオリンピックでは日本代表として出場して、現在の日本記録を更新することを最大の目標にしています。」

では、その目標を達成するために大嶋選手が強化したいポイントというのは、どのような点になりますか。

「オリンピックの舞台で勝つためのスタミナとパワーをつける、ということです。

 というのも、スピードクライミングの大会では、1日あたり最大で8本のレースを登ることになります。しかも、その8本すべてを自分のベストタイムと同じくらいの時間で登る体力がないと、国際的な舞台では勝つことはできません。そのためスタミナが必要になります。

 スタミナをつけるために、代表選手は1日あたり50本から60本登るトレーニングを繰り返します。でも統計上では『900本登って、選手のベストタイムがやっと0.1秒縮むかどうか』と言われているくらい、タイムを縮めるというのは難しいことでもあるんです。

 基本的にクライミング競技はエネルギーをあまり使わずに、省エネモードで、長い時間登り続けるタイプの競技が多いです。でも、スピードクライミングは自分のもっている最大限のパワーを短時間で一気に爆発させる競技だと、私は思っています。

 ですから、短時間で出すパワーの出力を上げていくこと、そしてその最大出力のパワーを何度も爆発させられるスタミナをつけること、この2つがオリンピックに向けて私が強化したいポイントです。」

スピードクライミングの未来と子供たちに伝えたいこと

目標はロサンゼルスオリンピックでの金メダル(写真提供 大嶋あやの)

近い将来、クライミングという競技は、日本でどういった存在になっていてほしいと、大嶋選手は考えられていらっしゃいますか。

「まず、スピードクライミングに関しては、いまはちょっと敷居が高くて、気軽にできるスポーツではないですし、そのために競技人口もなかなか増えないのが現状です。ですからスピードクライミングが、もっとだれでも気軽に楽しむことができるようなスポーツになったらよいですね。

 また、クライミングの選手が、サッカー選手や野球選手と同じように、子供たちがあこがれるような存在になって欲しいです。というのも、クライミングって『マイナースポーツなのに、頑張って続けてるよね』って苦労話で終わってしまうことが多くて、キラキラした選手がいないんです(笑)。でも、垂直の壁を忍者のように登る競技なので、子供の心を引き付ける要素は十分に持っていると思います。

 いま子供たちが『大きくなったらサッカー選手になりたい』とか『将来はプロ野球選手になりたい』と言うのと同じように、近い将来には『大きくなったらクライミングの選手になるんだ』と話す子供が現れて欲しいな、という思いはありますね。」

子供たち、ということで伺いたいのですが、大嶋選手は「キッズトレーナー」というお仕事もされていますよね。子供たちにはどのようなことを教えていらっしゃるのでしょうか。

「実は私が教えているのはもともとスポーツが苦手で、お父さんやお母さんに『この子をなんとかしなきゃ』って連れてこられた子供たちなんです。だから、まず、『体を動かすことは楽しいことなんだ』ということを最初に教えています。

 でも、子供たちって、『運動が苦手』とか『スポーツができない』ということにすごくコンプレックスに感じているんです。学校はもちろん、家庭でも大人は、子供のできていないことを探して注意することが多いですし。

 ですから、私は前回よりも少しでも上達したことがあったら、子供たちをどんどん褒めるようにしています。完璧にできなくても、前よりも上手にできたことが1つでもあったら、私は必ず褒めます。

 一気に上手にできるようになることよりも、あきらめずにやり続けることの方が大事だと私は思いますし、子供たちもそのことを伝えるようにしています。逆に1回もトライしないで『やらない』とか『やめる』と言う子供には、私はものすごく怒ります。

 そして、スポーツができるようになって自信が付いたり、あるいは褒められることが増えようになったりすると、子供たちの行動や様子というのは本当に一気に変わるんですね。私のところでたくさん褒められるようになったら、家の中でも積極的にお母さんのお手伝いをするようになった子供もいると聞いたこともあります。

 こうしたこともあるので、私は結果よりもプロセスが大事と考えながら、子供たちを見ていきたいといつも思っています。」

 6年後のロサンゼルスオリンピックで金メダルをとることが、スピードクライミング選手としての最後の舞台になると考えている大嶋選手。その道は平坦ではなく、様々な障害もあるが、彼女の眼はしっかりとその目標を捕らえている。

 SASUKEからオリンピックの大舞台へ。大嶋選手の奮闘が続いている。

(文・インタビュー 對馬由佳理)

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