• HOME
  • コラム
  • 未分類
  • 身体障害者野球 「第23回全日本身体障害者野球選手権大会」開催。初出場そして連覇チーム、それぞれの物語

身体障害者野球 「第23回全日本身体障害者野球選手権大会」開催。初出場そして連覇チーム、それぞれの物語

11月6日から2日間、「第23回全日本身体障害者野球選手権大会」が開催された。

兵庫県豊岡市に全国6チームが集結。2日にわたり7試合が行われた。

(取材協力 :NPO法人日本身体障害者野球連連盟 以降、敬称略)

身体障害者野球の頂点を決する大会

本大会は、NPO法人日本身体障害者野球連盟(以下、連盟)が主催するものの一つ。1999年から開催されており、通称「秋の選手権」と呼ばれている。

毎年11月上旬に「全但バス但馬ドーム(以下、但馬ドーム)」を舞台に行われ、身体障害者野球の日本一をかけた大会として位置づけられている。

連盟が主催する全国規模の大会としては、毎年5月にほっともっとフィールド神戸などで開催される「全国身体障害者野球大会(通称:春の選抜)」の2つがある。

春の選抜大会は優勝チームに加え、地区大会の前年準優勝チーム及び連盟初参加翌年の招待枠があるが、秋の選手権大会は毎年夏に行われる、全国7ブロック(※)の地区大会で優勝したチームのみ。

(※)北海道・東北、関東甲信越、中部東海、東近畿、西近畿、中国四国、九州の7ブロック

7チームが各地区の代表となり、ここで29都道府県・37チームにおける頂点が決定する。

昨年の第22回大会は新型コロナウイルス感染拡大により中止となったが、今年2年ぶりに開催する運びとなった。

5月の選抜大会開催が大きな後押しに

今シーズンの大会を開催するにあたり、連盟は昨年の春からコロナ対策と大会開催の両立を図れるよう準備を重ねてきた。

5月の選抜大会では対策に向けたガイドラインを制定し、全国の参加チームを安全に迎えるため、連盟が提携する宿泊施設とも検討を重ねてきた。

今年5月に神戸で行われた選抜大会では、出場チームの意向を尊重し参加表明したチームによる縮小開催として実施。ここで感染者を出さずに完走することができた。

春の選抜での実績ができたことが、各地区の大会開催における後押しになった。これを契機に

「選抜同様に我々の地区でも開催実績をつくろう」

といった意識が各ブロックで生まれていく。

「9月は各地への緊急事態宣言の発令もあり、準備を進めていた地区も直前で球場使用ができず、泣く泣く中止を余儀なくされた大会もありました」

5月に開催された選抜大会の様子

山内啓一郎 連盟理事長も語るなど紆余曲折ありながらも、各都道府県の状況やチームの意向に配慮し、地区大会を開催。

10月からは首都圏でも緊急事態宣言が解除されるなど、感染者数が減少傾向になったことも追い風となり、最終的に6チームが揃った。

感染対策については、提携ホテルの個室対応や参加者の体調チェックシート提出を選抜に続き行い、会場の但馬ドームと連携しながら安全な運営でチームを迎えた。

参加チーム()はブロック

・仙台福祉メイツ(北海道・東北)
・千葉ドリームスター(関東甲信越)
・名古屋ビクトリー(中部四国)
・阪和ファイターズ(東近畿)
・龍野アルカディア(西近畿)
・岡山桃太郎(中国・四国)

選手宣誓は初出場の千葉ドリームスター 土屋来夢が務めた

千葉ドリームスターが発足10周年の節目に初参加

今大会注目は2チーム。1つ目は選手権初出場となった「千葉ドリームスター」。

千葉ドリームスターは、千葉県唯一の身体障害者野球チームとして2011年に本格始動。

同県の出身で今秋、読売巨人軍の2軍打撃コーチに就任した小笠原道大氏が現役時代に「夢を持って野球を楽しもう」という想いを込めて創設した。

10年の節目を迎えた今シーズン。昨年からのコロナ禍でも感染者を1人も出さずに活動を継続してきた努力が実り、9月の関東甲信越大会を初制覇。初の選手権出場となった。

選手は片腕の欠損や神経損傷といった上肢障害から、片足の義足や両脚の下肢障害そして半身麻痺の選手など種類はさまざま。お互いの障害を補い合いながら、ほぼ毎週練習や試合を積み重ねている。

また、「初めて練習参加した時に明るい雰囲気に惹かれた」と入団を決める選手が多いことから、常に活気ある雰囲気が特徴の1つである。

初戦は北海道・東北代表の「仙台福祉メイツ」との対戦。

先発投手はエースの山岸英樹。左半身麻痺の障害を持つ山岸は現在、パラ陸上(走幅跳・やり投)にも挑戦する競技の”二刀流”。23年のパリ大会を視野に入れている。

途中ランナーを出しながらも、後続を絶つなど粘りの投球で「0」を刻んでいく。

先発した千葉ドリームスターの山岸英樹

一方、仙台福祉メイツも譲らず試合はお互いに緊張感に包まれた1点の重い試合に。2回裏、2塁牽制の際に仙台の3塁走者がホームインした際は両者で意見が割れるシーンも。お互いに主張がぶつかり合い、審判そして連盟理事も交え協議するなど30分近く中断した。

今大会では試合時間が100分の規定があり、時間を迎えた時点で打ち切りとなる。試合が重い雰囲気で進む中、千葉ドリームスターが1点ビハインドの5回、残り20分を切った中での土壇場で意地を見せる。

内野ゴロの間に土屋来夢が三本間で挟まれながら、捕手をかいくぐり本塁へのヘッドスライディング。まさに執念で1点をもぎとった。

裏の攻撃を抑え、同点のまま100分に。その場合大会規定で、スタメン9人が打順ごとにじゃんけんを行い5勝先取で決着をつける。ここでも4勝4敗と最後の9人目まで互角の勝負となるが、惜しくも敗れてしまう。翌日の5位決定戦へと回ることになった。

5位決定戦では、同じく初出場の龍野アルカディア(西近畿)と対戦。ここでは、投打で主軸を担う城武尊(たける)が悔しさを爆発させる。

地元広島県の身体障害者野球チーム「広島アローズ」時代に何度もこの地を訪れ、”もうひとつのWBC”と呼ばれる「世界身体障害者野球大会」の日本代表としても名を連ねる24歳の若武者はここでも投打に躍動。

ランニング本塁打を放つなど、2試合で打率.667。また、いずれもリリーフで登板し1本の安打も許さなかった。

本塁打を放った千葉ドリームスターの城武尊

試合は千葉ドリームスターが6-3で制し、大会初勝利。初の選手権大会は5位となった。

初出場となった大会、チームを率いた小笠原一彦監督は「「初めての球場、初めての対戦相手に空回りしてチカラを出し切れなかったのは残念でした。次こそ!があるように、まずは関東を勝ちきるチカラを付けていきたいですね」

と再度この地に戻ることを誓った。

岡山桃太郎が投手戦を制し選手権連覇

今大会注目の2チーム目は岡山桃太郎。

全国大会の常連で、前回(19年)の選手権では優勝。かつて甲子園に出場経験のある選手や、脳性まひでリハビリを続けながら活動に参加する選手など、こちらも様々なバックグラウンドを持った選手が在籍している。

5月の選抜大会は地域情勢を鑑みて棄権したため、2年ぶりの全国大会で連覇をかけた戦いに臨む。

チームとしてもある想いを持って大会に臨んだ。

今春、代表を務めていた杉野正直さんが突然の病で他界。創設時から選手としてグラウンドに立ち、選手を引退してからも環境整備などチームに身を捧げてきた。

突然の別れを突きつけられ、大きな悲しみも乗り越えて臨む今大会。ナインは喪章をつけてグラウンドに整列した。

今大会はシードで準決勝スタートとなり、コールドで阪和ファイターズに勝利。決勝へと駒を進める。

相手は前回大会と同じ名古屋ビクトリー。名古屋は5月に行われた春の選抜大会で初優勝を飾っており、秋の選手権も制覇し完全優勝を狙う。

岡山の相手は5月の選抜で初優勝した名古屋ビクトリー

選手権においては第1回そして前回に続き3度目の覇権挑戦となり、春に続き初優勝をかけた試合となった。

岡山桃太郎の先発はチームそして上述の世界身体障害者野球大会で日本代表のエースを務める早嶋健太。

阪和戦でも先発し、シャットアウトした勢いそのままに決勝の先発マウンドに立つ。

早嶋は立ち上がりにランナーを背負うも無失点。マウンドから勢いよく駆け足で戻り、チームのムードを上げる。その裏味方が1点をとると、試合は両軍息詰まる投手戦に。

岡山そして日本代表のエース 早嶋健太

名古屋は選抜で優勝投手となったエースの水越大暉が両脚の手術のため約3年のリハビリに入っており、この試合は藤川泰行が先発。

甲子園経験者や日本代表選手が名を連ねる百戦錬磨の岡山桃太郎打線相手に、堂々の投球を見せる。

お互い譲らず2回以降ゼロ行進となりそのまま最終回に。マウンドには早嶋が上がる。2アウトながら走者を3塁に置き、球場に緊張感が包み込む。

スタンドで応援しているサポーターの面々が手を合わせて祈る中、早嶋の渾身の1球に相手打者のバットは空を切った。

1-0で試合終了。早嶋が最後までマウンドを守り岡山桃太郎に選手権連覇をもたらした。

連覇を果たした岡山桃太郎ナイン(提供:NPO法人 日本身体障害者野球連盟)

2日間の熱戦は怪我人を出すことなく幕を閉じた。当日発熱した関係者は0、現時点で感染者は出ていない。

5月の選抜に続き選手権においても開催実績をつくり、2021年を完走することができた。

山内理事長は昨年からのコロナ対策を念頭に置いた大会運営を行えたことに安堵の表情を見せながら、

「昨年からコロナ対策を念頭に感染対策に努めてきました。逆風のなか、11月の全日本選手権では2日間の通常日程で開催ができたことは大きな喜びです。

グラウンドで活躍する選手たちの生き生きした姿は見ている者を非常に勇気づけてくれました。特に決勝は1点を争う緊張した良い試合で、両チームともコロナ禍でも練習を積んできたことが伺えました。

今後も厳しい状況も予想できますが、来年は青空の下、ほっともっとフィールド神戸で16チームと会えるよう、我々も選手やご家族の皆さんに安心して参加できる工夫をし、努力をして参ります」

と語り、来年5月の選抜大会開催へ意欲を見せた。

また、前述の岡山桃太郎・杉野さんにおいても「長年連盟にご協力いただきましたので、訃報は悲しく、今大会の晴れ姿も見てほしかったという気持ちはあります」とコメントを寄せた。

現在、身体障害者野球では実話を基にした映画「4アウト」の制作を、コロナ禍の中断から再開されようとしている。これに先立って日本プロ野球名球会協力のもと、身体障害者向けの野球教室が11月より開始した。

11月14日には愛媛県で山田久志氏と駒田徳広氏、12月5日には香川で土井正博氏が講師となり、1日かけて指導を行った。

年明けには身体障害者野球のルーツで名門チームである「神戸コスモス」発足のきっかけをつくった福本豊氏(同連盟名誉理事長)が兵庫で開催するなど、今後全国へ展開する。

2022年、身体障害者野球はさらなる盛り上がりを見せ、パラスポーツに新たな風を吹き込んでいく。

(取材 / 文:白石怜平)

関連記事