国際武道大、10年ぶりの明治神宮大会で「守備からリズムを作って攻撃に繋ぐ野球」を
この秋、千葉県大学野球リーグ戦(以下、千葉リーグ戦)で優勝した国際武道大は、関東五連盟の上位2校、計10校で明治神宮大会出場2枠を争う横浜市長杯争奪第18回関東地区大学野球選手権大会(以下、関東大会)に出場。準決勝を逆転勝ちで制し、関東五連盟第二代表として第53回明治神宮野球大会(以下、明治神宮大会)への切符を手にした。
明治神宮大会に出場するのは、10年ぶり8回目。昨年は同じ千葉県大学野球連盟の中央学院大が日本一に輝いた。今年は千葉県、そして関東五連盟の代表として、国際武道大が初優勝を目指す。
初スタメンの1年生が決勝打
関東五連盟から明治神宮大会に出場できるのは上位2チーム。準決勝で戦う創価大(東京新大学野球連盟2位)に勝てば、その時点で出場が決まる。
国際武道大は、2-3と1点ビハインドで8回裏の攻撃を迎えた。2死満塁のチャンスで打席に立ったのは、1年生の北里拓海内野手(東海大大阪仰星)だ。初球、2球目と豪快に空振りをしたあとボール球を見送り、次の4球目だった。「スライダーが抜けた真ん中のボールだったと思いますが、よく反応できたと思います」。北里の打球は走者一掃の逆転適時二塁打となった。
この秋の千葉リーグ戦で初めてベンチ入り。代打で2打席出場し2打数1安打だった。今大会の初打席は初戦の白鷗大戦。ここでも代打で二塁打を放った。岩井美樹監督は「練習でずっとバッティングが良かった」と、次の準決勝・創価大戦で北里をスタメン起用した。
大学入学後初のスタメンが、関東一を決める大きな大会。「僕でいいのかな、とちょっとびっくりしました」。そう言ったかと思えば、8回2死満塁で打席が回ってきたときは「ラッキーと思った」と言う。「落ち着いていましたね。凡退することは考えていなかった。絶対打つ、それしか思っていなかったです」。そんな北里のバットでチームは逆転勝ち。明治神宮大会出場を決めた。
投げては、同じく1年生の山口塁投手(横浜商)が6回途中から二番手でマウンドに上がり、2回1/3を無失点。ストレートに力があり、球速が少し遅めに計測されると言われる横浜スタジアムでも149キロの表示が出た。
「高校時代は最速145キロだったらしいんだけど、この前長嶋茂雄球場やZOZOマリンで153を出したんですよ。急に速くなっちゃったじゃないですか。あまり速いボールを投げると壊れるぞ、って言っているんですけどね」。笑いながらもそう心配する岩井監督だったが、山口は「毎日、投げたあとにしっかりケアをしているので、その辺は大丈夫です」と意に介さない。巨人ファンで菅野智之投手を目標とし、体の使い方はソフトバンクの千賀滉大投手を参考にしている。
センターを守る田代健介外野手(作新学院)も1年生だ。「センターの田代は天才だよね。『おまえみたいなのはキャプテンだ』って言ったら『作新学院でキャプテンでした』って言われて『それは失礼しました』ってね」と指揮官も、田代のプレーや人間性をべた褒めする。
上級生も負けてはいられない。8回裏に北里の適時二塁打で逆転し、あとは9回表を抑えるだけとなった創価大戦。マウンドに上がったのは、前日の白鷗大戦で完封勝利を挙げた板川佳矢投手(4年・横浜)だった。
「僕はそのまま山口でいきたかったんだけど、アピールしてきたんですよ。『監督さん(肩が)出来上がっています』って。『僕、横浜高校時代から横浜スタジアムで負けたことがないんです。12連勝中です』ってぼそぼそ言うんでね。『チームがいいから勝っているだけだ、バカたれ』って言ったんだけど」。そう言いながらも岩井監督は、明治神宮大会出場を決める最後のマウンドを板川に託した。そして、板川は自分が投げた試合の連勝記録を13に伸ばした。
落ち込んだときは「スマイルハイツ」へ
板川の取材をしているときに、グローブに油性マジックで書かれた文字がどうも気になった。「スマイルハイツ」とは何だろうか。
「僕、一人暮らししているんですけど、調子悪そうだな、落ち込んでいるなという人を自分の家に呼んでいるんです。『俺の家に来て楽しくいこうよ、ふざけようよ』みたいな感じで。それで、スマイルの家みたいな意味で、いつの間にかスマイルハイツと呼ばれるようになったので、グローブに入れようかなと思いました」
遊び心がありながらも、試合ではとことん頼りになる。白鷗大戦では「3、4回くらいまで投げて、もう(この試合は)無失点でいけるなと思ったので、1点だけ取ればいいとみんなには伝えていました。4点入ったのですごく気持ち良く投げられました」と涼しい顔。5回に上杉龍平外野手(4年・東海大相模)の適時二塁打と櫻内俊太捕手(2年・市船橋)の3点本塁打で援護をもらい、そのまま完封した。
「良かった球はチェンジアップとツーシームですかね。それがなかったら、ボコボコに打たれていましたよ僕。いつもはスライダー中心なんですけど、勘でスライダーの方が打たれそうな気がしたんですよね」
人懐っこい笑顔でそう話す板川は、こちらがダウンジャケットまで着込んでいたこの日、半袖だった。「半袖でしか投げられないんですよね。ここら辺(肘)がピチピチで投げづらくて」。明治神宮大会の時期はもっと寒くなるが「気合いっす。最初だけですね、寒いのは」と笑う。板川が明治神宮大会でも半袖で投げるのか否か、ちょっとだけ注目してみて欲しい。
そんな板川と対照的に、静かに受け答えをするのが主将の宮内竜志内野手(4年・銚子商)だった。国際武道大では、前年度の首脳陣が次の主将にふさわしい選手を推薦し、監督、コーチが最終的に決める。宮内は「自分が選ばれた理由は聞いていないです。そんなにキャプテンに向いているという感じではないので、副キャプテンや選手会長に頼りながらここまでやってきました」と話す。
副キャプテンは板川と佐藤暖起捕手(4年・東海大相模)、選手会長は原田桂吾投手(4年・北照)が務める。国際武道大に伝統的にあるという選手会長に明確な業務はないらしいが、助け合う人数は多い方がいい。
春のリーグ戦で5位という結果に終わり、この秋はショートで一番を打つ宮内主将を中心に「守備からリズムを作って攻撃に繋げていく」ということをチームで徹底してきた。初戦の白鷗大戦、準決勝の創価大戦ではそれができていたが、決勝の上武大戦では2失策を記録し、攻撃も1安打に終わった。
宮内は、明治神宮大会に向けて気を引き締め直す。「決勝戦を1安打無得点という形で終えてしまったので、もう一度一からピッチャーはじめ野手で『守備からリズムを作って攻撃に繋げていく』というのを作っていきたいと思います」。
関東五連盟第二代表として、10年ぶりに出場する明治神宮大会。国際武道大は11月18日の13時30分(開始予定)から、環太平洋大(中国・四国三連盟代表)と戦う。高校の部、大学の部がある明治神宮大会で、大学の部の開幕試合だ。大会を勢いづける熱い試合を期待したい。