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石巻専修大に受け継がれる「好投手の系譜」 七十七銀行・渋谷祐太郎が明かす母校の強みと同期へのライバル心

 南東北大学野球連盟に加盟する石巻専修大硬式野球部が、好投手を次々と輩出している。昨年卒業した代では、七十七銀行・渋谷祐太郎投手(築館)と西濃運輸・庄司魁投手(山形城北)の両右腕が1年目から全国大会で好投するなど躍動。昨年のエースだった変則右腕・石倉春輝投手(日本学園)は今季から社会人野球の西関東地区に参戦するクラブチーム「B―NEXT」に加入した。新チームでも次期エース候補の岡本寛太投手(3年=新井)ら逸材が順調に育っている。

母校との初対戦で見せた圧巻の投球術

 3月23、24日に石巻市民球場で開催された東北地区社会人・大学野球対抗戦。七十七銀行の渋谷が母校・石巻専修大戦に先発登板した。

 大学卒業後、母校相手に投げるのは初めて。渋谷は「正直、意識してしまった」とやりにくさを感じながらも、5回2失点と好投し勝利投手になった。「いつもはストレートで押す投球スタイルなんですけど、今日はそれを実行できなかった」と振り返るように、最速150キロを誇る直球は本調子ではなかった。それでも、得意球のシンカーを中心とした変化球を有効に使って抑え、後輩たちに格の違いを見せつけた。

母校の打線に立ちはだかった渋谷

 石巻専修大では、直球の最速が高校時代の137キロから150キロまでアップ。練習にブリッジを取り入れ体の柔軟性を高めるなどトレーニングを工夫すると、球速が大幅に伸びた。3年春は最多勝に輝いてリーグ優勝に貢献し、全日本大学野球選手権のマウンドも経験。その後も先発の柱を担い続け、大学ラストシーズンの4年秋は防御率1.63をマークした。

「濃い1年間」都市対抗で鮮烈デビュー

 4年春のリーグ戦期間中に左脇腹を故障したこともあり、大卒でのプロ入りは諦め七十七銀行に入社した。

 1年目から戦力となり、チームとして4年ぶりに出場した都市対抗野球大会では初戦の東芝戦に2番手で登板。3回3分の1を投げて1安打無失点と強豪相手に好救援し、敗戦の中で存在感を示した。渋谷は「1球目は足がガクガク震えるような緊張だったんですけど、2球目以降は心の底から楽しめました。東芝さん相手に自分のピッチングをできたのは自信になりました」と大舞台での投球を回顧する。

 首脳陣からの信頼を勝ち取り、日本選手権東北最終予選では準決勝の日本製紙石巻戦で9回133球2失点完投勝利をやってのけた。「1年目から大事な試合で投げさせてもらえて、濃い1年間でした」。そう口にする表情が充実ぶりを物語っていた。

大学時代の渋谷

 大学の同期である庄司の存在も刺激になっている。庄司は速球を武器に持つ高身長右腕で、大学では4年時に急成長を遂げた。西濃運輸では球速が150キロの大台を突破し、昨年は都市対抗と日本選手権の「二大大会」に登板。中でも日本選手権では計3試合、12回を投げ無失点と抜群の成績を残し、優秀選手に選出された。

 渋谷は「向こう(庄司)がどう思っているか分からないですけど…」と前置きした上で、「SNSやネットの記事で取り上げられているのをよく見る。『負けていられない』と勝手に意識しているところはあります」と明かす。今でも連絡を取り合い、練習方法などを共有することもあるという。

 渋谷も庄司も今年がドラフト解禁年。渋谷は「ドラフトのことを自分の口から発すると自信過剰になってしまうので…。この1年がむしゃらにプレーして、都市対抗や日本選手権で結果を残せば、おのずと次のステージにいけるのではないかと考えています」と冷静だ。これまで同様、チームの勝利のために腕を振り続ける。

先輩や指導者に恵まれた環境で成長

 そんな渋谷に、石巻専修大で好投手が育つ理由を聞いた。「トヨタ自動車東日本の齋藤(智哉)さんだったり、オールフロンティアでプレーされていた菅野(一樹)さんだったり、自分たちより上の代の方々の指導がしっかりと受け継がれて、下の代にもどんどん良いピッチャーが出てきている」。好投手の系譜が脈々と受け継がれていることが、渋谷の考える第一の理由だ。

 さらに、2021年に投手コーチに就任した菅井徳雄氏(現・石巻専修大監督)の存在も大きい。菅井氏は東北学院大監督時代に岸孝之投手(現・東北楽天ゴールデンイーグルス)や本田圭佑投手(現・埼玉西武ライオンズ)を育てた名指導者。投手陣はその菅井氏から的確なアドバイスを受け、それぞれの成長につなげている。渋谷自身は4年時に投球中のテンポの悪さを指摘された。それ以降、マウンドで「ボールを持ったらすぐに投げる」ことを常に意識すると、思い通りに試合を組み立てられるようになった。

大学時代の庄司

 庄司も石巻専修大時代の取材で、「菅井さんに教わってから球速が上がった」と話していた。3年春は最速140キロ程だった球速が、4年秋には最速148キロまで向上。菅井氏から走り込みの重要性などを教わり、時間をかけて二人三脚で球速アップに努めた結果、打者を圧倒する速球を手に入れた。

「どんどん出てきている」エース候補たち

 石巻専修大の新チームは140キロ台の速球を持つ本格派右腕・岡本が投手陣の軸となる。東北地区社会人・大学野球対抗戦で渋谷と投げ合った際は制球を乱し本来の実力を発揮できなかったが、昨年は春秋ともに2勝を挙げるなど着実に実績を積んでいる。特に秋はリーグ2位の防御率1.08をマークし、新人戦でも東日本国際大を9回2失点に封じチームを優勝に導いた。

昨年ブレイクを果たした岡本

 ほかにも吉田翔投手(3年=湯本)、下山輝投手(2年=新田暁)ら楽しみな投手が多数在籍している。好投手の系譜はこれからも続いていく。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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