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立ちはだかるいくつもの壁「それでも夢を諦めない」プロテニスプレーヤー・山口藍(後編)

プロになったタイミングで起こったコロナ感染拡大

山口選手がプロになったのは18歳のとき。ジュニア時代から数多くの大会を経験してきたが、プロになってからはプレー以外のところでも責任が重くなったことを感じているという。

 「技術的な練習ももちろん必要ですが、トレーニングや体のケアも同じぐらい大事。テニス自体の練習時間は、アマチュア時代の方が長かったぐらいです」

プロになってからは、ランキングを上げるため、海外の試合にたくさん出場するつもりだった。ところが新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、活動にストップがかかってしまう。

「ジュニア時代は、4か月に1回ぐらいの頻度で海外で試合をしていました。でもプロになってすぐの時期、コロナ禍の最初の方は規制も厳しく、国内の試合にも出られなくて。ずっとトレーニングと練習だけをしている状態でした」

つらい中でも「今できること」に真摯に取り組んできた

帯同者無しの孤独な戦い

現在は規制がかなり緩和され、海外の試合に出られる機会は増えた。しかし、次に立ちはだかったのが資金の問題。海外遠征には多額の費用がかかるため、やみくもに参加できるわけではなく、帯同者もいない。一人で行動するのは全く苦にしないタイプというが、競技に関わることとなれば話は別だ。できればコーチにも帯同してもらいたいのが本音なのだそう。

「やはりメンタル面への影響がいちばん大きい。誰かがいてくれるだけで安心感がありますし、何かあったときに頼れるのも、気持ち的に全然違うと思います」

怪我をしてしまったときは、会場で応急処置はしてもらえるものの、マッサージなどには対応していない大会もある。その場合は、体のメンテナンスも自分ひとりで行わなければならない。

「トレーナーさんにも帯同してもらえたらそれがベストなんですが、とてもそこまでは頼めません」

海外遠征に同行してもらうとなると、一人につき年間でおよそ800万~2000万円にもなる帯同費を負担せねばならず、現状そこまでの余裕はない。

そんな中、嬉しいこともあった。

「最近、一社とパッチ契約(スポンサーシップのひとつ)を結びました。次の試合からは、ウェアの左胸にスポンサーワッペンをつけて臨みます」

MAT高崎テニスクラブにて、左から清水綾乃選手、山口藍選手、萬年善明コーチ、牛島里咲選手

ランキングが重要な理由

女子テニスのランキングポイントは、ITF(国際テニス連盟)とWTA(女子テニス協会)の2種類あり、国内(JTA)のランキングは2つの合計ポイントで決定される。ポイント数や付与条件は大会レベルによって異なり、仕組みはかなり複雑だ。

「グランドスラムに出場するにはWTAのランキングを上げる必要があります。それにはWTAのポイントが獲得できる大会にたくさん出なければいけない。しかし、そこに出るにも、ある程度のランキング内にいることが必要で。エントリーしても、他の選手との兼ね合いで試合に出られないこともあります」

なお、グランドスラムの本戦に出場できるのは128名。世界ランキング(WTAポイント)104位までに入っている選手は予選なしで本戦に出場できるが、それ以下の選手は基本的に予選からの参加になる(ワイルドカード枠は除く)。ただし、誰でも参加できるわけではなく「世界ランキング200位前後ぐらいが予選の出場枠ボーダー。ここまで行くのもかなり大変です」

山口選手がランキングを上げてグランドスラムへの出場を目指しているのは、もちろん最終ゴールである「世界の子どもたちに希望を与える」を実現するためだ。

「それには、私自身の知名度を上げるため、世界的に注目されているグランドスラムに出なければいけない。将来、ボランティアなどでいろいろな国を回るときも、知名度のある方が喜んでもらえると思うので」

たくさんの試合に出て、持ち前の機動力を発揮し、ランキングアップを目指す

世界を見据えて今できること

グランドスラム出場までの道のりはまだ少し遠いが、身近なところでは群馬のテニスクラブを通じて、子どもたちも含め、地域の方たちとの交流を実現させたいという。

「プロとして何かイベントとかできたらいいね、とコーチと話してるんです」

テニスクラブにかかる費用の半分は、クラブのサブスポンサー・GSM(群馬スポーツマネージメント)という地元の団体でまかなわれている。テニスを続けられるのは地域の助けもあってのこと、その恩を少しでも返したいとの思いからだ。

ランキングポイントを獲得するための大会は、世界中で毎週行われている。コーチは他の選手も指導しているため、その選手の遠征に帯同することもある。しかし、自身の遠征には帯同してもらえない。ジレンマを抱えながらも、今はまず試合で結果を残し、ランキングと知名度を上げることに注力していく。

結果がすべての過酷なプロの世界に身を置く山口選手。その先に見る「世界の子どもたちの希望」へ繋げる夢が、地域からやがて世界へ広がっていくことを願っている。

(取材/文 三葉紗代)

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