「島根から世界へ 旅のはじまり」鳥根(とりね)スサノオマジックってなに?

「鳥根スサノオマジック」とは、バスケットボールB.LEAGUE・島根(以下スサノオマジック)が鳥取県内で活動する際の名称。県境を越えた新たな取り組みが、少しずつ熱を浴び始めている。

「二十世紀梨」をモチーフカラーにしたユニフォームも話題。

「B.LEAGUEに新チーム?」とは誰も思わない、ベタなネーミングが話題だ。

島根県松江市を本拠地とするスサノオマジックは、ファン層拡大もあり鳥取県米子市と同鳥取市でもホーム試合を行う。その際にはお互いの県名を混ぜた「鳥根」という都市名を名乗っている。

今季は11月19-20日に米子市、来年3月に鳥取市で試合開催。鳥取名産「二十世紀梨」をモチーフカラーにしたユニフォームを着用して戦う。

~「バンダイナムコが来た」だけでは一過性で終わる

「松江市だけでは経営が難しいから、という意味ではありません」

スサノオマジックCEO・田中快氏は、鳥根が生まれた経緯や影響力について語ってくれた。

「鳥取県はB3まで含めてプロバスケットボールチームが存在しない県です。隣の島根県にあるB1の面白いコンテンツを活かしたいと考えました。チーム創設当時から鳥取県内でも試合を行っていましたが、鳥根に変えることで意識の変化と刺激を生み出したかった。松江市を中心とした渦、輪を広げていくための試みです」

「鳥根にするにあたり地域、行政、リーグなど、各方面としっかり向き合い調整して実現できました。誰もが大きな心を持ってOKしてくれて本当に嬉しかった。島根県と鳥取県の人が望むことは何なのかを常に考えています。『バンダイナムコが島根スサノオマジックに来たからよろしく』では先が見えている。地元の方々との信頼関係の中で活動しないと、話題だけの一過性で終わってしまう。『一緒に盛り上げて次を目指しましょう』という思いです」

米子産業体育館は松江市から車で約30分の近場だ。

~松江市と鳥取県内の熱量を近づける

島根県松江市と鳥取県米子市は直線距離で約30キロしか離れていない。商圏内であり、高速道路が建設されたことで行き来も容易となった。東部の鳥取市までは多少の距離はあるが渦を届けようと奮闘する。

「松江市と米子市は文化など違う部分もありますが繋がっています。バスケットボールが2つの町をもっと近くするためのツールになって欲しい。もちろんクラブとしてはビジネス的に広げたいというのがあります。距離は少し離れていますが、鳥取市まで熱量を広げたいと思っています」

「鳥根開催2年目で観客動員数も増えています。米子市開催に関しては、松江市はもちろん鳥取市方面から来る人もいる。普通に島根の名で試合をやるのではなく、何らかの価値として『鳥根』と出したかった。今後も島根と鳥取という両県のファンが求めているものに近づけたい」

「現時点での熱量は松江市がマックスで鳥取県内はまだそこまで高くない。その温度差を少しでもイコールに近づけたい。鳥取県開催試合は日本海新聞(鳥取東部のローカル新聞)が大きく取り上げてくれるのもありがたい。『鳥取県内の試合開催数を増やして欲しい』という声が上がるようになりたいです」

鳥根試合での観客も増え始め、熱量も高まりつつある。

~松江市にある台風の目が生み出した渦を広げる

島根県は東西にかなり長い県だ。松江市から西方は出雲大社で有名な出雲市を通り、石見地方へ向かう。それぞれ独自の文化も存在、地域性もはっきりしている。以前は出雲市の県立浜山公園内でもホーム試合開催をしていた。今後は島根県中西部についてどう考えているのだろうか。

「出雲市や石見地方へも広げたい。『試合をできる会場があるか?』という問題もありますが、純粋に広げたいと思います。行って見てわかることもあるので視察もしている。試合開催実現のための方法を探るためです。『松江市だけで試合をやれば良い。みんなが見に来い』というのは違いますから」

「ただ松江市に軸足を置くのは変わらない。一番は松江市からの渦、輪を広げたいということ。島根県全域、山陰地方と広げたら、次は全国そして世界へと考えています。島根県内だけで渦が止まる理由はありません。松江市にある台風の目が大きな渦と強い風を起こし、暴風域を広げる感じです」

「バスケットボールは大きな選手が走り回る迫力がすごい。細かい技術、狙い澄ましたシュートなど、日常生活ではあり得ないことばかり。また会場の雰囲気も最高です。松江市まで多少の距離がある人でも足を運べるよう、多くの会場で試合をやりたい。たくさん喜んでくれたら嬉しいし、渦が広がるはずです」

演出にこだわった最高のエンタメ空間を目指す。

~スサノオマジックというキーワードの下で1つになる

他のプロスポーツでは、本拠地を複数化するダブルフランチャイズにトライするチームもある。しかし地元との結びつきが逆に薄くなり、うまくいった例を見かけることは少ない。しかし「島根を名乗りながら鳥取県でもホーム試合を開催することにブレはない」と自信を持って語る。

「鳥根としたことで島根県や松江市の人の中には様々な考えがあるはず。島根のままが良い、という人がいるのも当然。でもスポーツの一番良いところを大事にしたい。多くの人々を感動、団結させるパワーがある。地域や県、国をまとめる力です。良い例がサッカーで、ワールドカップでは日本中が1つになりました」

「松江市と出雲市、石見地方では地域性が異なるとはいえ、島根県のチームが勝てば嬉しいのは同じ。気持ちが繋がって握手ができる。スポーツではそれができます。島根県と鳥取県もスサノオマジックというワードの下で一緒になって喜べる存在になりたいです」

「例えば、長野県は大きな県で地域性や文化も様々ですが、県民の歌『信濃の国』はみんなが歌えます。歌とスポーツで少し違うかもしれないですが、そういった存在になりたいです」

島根県観光キャラクター「しまねっこ」も鳥取へ遠征。

~島根という看板を背負って旅を続ける

松江市に軸足を置き続けることを明言する。それは今後も島根スサノオマジックいう名前を大事にすることでもある。最終的に世界を目指すチームだが、島根という看板を背負って旅を続ける覚悟がある。

「島根の良さが根っこにある島根に愛されたチーム。何があってもその部分の魂は売りません。だから鳥根にはしても山陰スサノオマジックにはしません。『海外進出を考えた際に日本スサノオマジックが良いのか?』というと違う。島根と山陰では意味合いが違って、大は小を兼ねるではない。ダブルフランチャイズ的な意識はありますが名前は不変です」

「鳥取の方にも愛して欲しい。でも広島や東京の人も同じ。欲張りかも知れないですが、多くの人に愛して欲しい。島根県の魅力を全国の人に理解して欲しいのと同じ。出雲大社を出雲人のみでなく全国、そして世界の人に愛してもらうのと同じです」

『鳥根』スサノオマジックCEO・田中快氏は未来について楽しそうに語ってくれた。

松江市には絶対的な熱量、コアが存在しており、最も大事にすべきだ。そこで生み出した新しく、強く、かっこいい渦を広く浸透させる。大きな輪を世界に描くための中心地として未来永劫、大事にする覚悟が感じ取れる。

「島根に来る時に『出雲空港しか使ってはいけないのかな』と思っていました(笑)。でも米子空港は利便性が良いし、島根在住の皆さんも利用されている。『米子空港も使って良いんだ』と思いました。それと同じことです」(田中氏)

オフィシャルチアパフォーマンスグループ「アクア⭐︎マジック」も鳥取を盛り上げる。

昨季はリーグチャンピオンシップ・セミファイナル進出を果たすなど、チーム強化は進んでいる。B.LEAGUE王者になった次にはアジアの戦いがある。もっと上を見れば世界最高峰のNBAもある。地方都市・島根県のチームが目指すは世界という舞台。そのイチ部分として鳥根スサノオマジックの果たす役割は決して小さくない。「須佐之男命」を背負うチームの可能性は無限大だ。

(取材/文・山岡則夫、取材協力/写真・島根スサノオマジック)

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