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「”意欲”や”自覚”を生み出すのは己の心からです」オリックス・バファローズジュニア 小川博文監督 子どもたちへ授ける”気持ち”の大切さと言葉の力

12/27〜29の3日間、明治神宮野球場と横浜スタジアムで「NPB12球団ジュニアトーナメント」が行われる。

NPB12球団によるその年の最後のイベントとして、各球団のフランチャイズエリアから選抜された選手たちが各チームのジュニア代表として頂点を目指す。

今年26年ぶりの日本一に輝いたオリックス・バファローズも本拠地を置く大阪・神戸から選抜し、トップチームに続く”連続日本一”を目指し大会へと臨む。

今回は、ジュニアチームを率いるかつての”青波戦士” 小川博文監督にお話を伺った。

(取材協力:オリックス野球クラブ 文:白石怜平)

今年で18回目を迎える「NPB12球団ジュニアトーナメント」

「NPB12球団ジュニアトーナメント KONAMI CUP 2022」はNPBおよび12球団が主催する少年野球の大会。2005年から毎年12月に開催され、今回で18回目を迎える。

会場は過去に福岡や札幌・宮崎などで行われ、今年は上述の通り12/27〜29の3日間、明治神宮野球場と横浜スタジアムで行われる。

チームは、12球団ごとに小学5〜6年生を中心に構成。3チームずつの4グループに分かれグループリーグを戦い、各1位通過した4チームが決勝トーナメントに進出し、優勝を決める形式となっている。

本大会はプロへの登竜門の一つとも言われ、これまで70人以上の選手をNPBへと輩出してきた。

バファローズジュニアを率いるのは、96年日本一メンバーの小川博文氏

今回特集するオリックス・バファローズジュニアの監督は小川博文氏。

88年のドラフト2位でオリックス・ブレーブスに入団。この年の10月に阪急からオリックスへと球団が譲渡されており、”オリックス1期生”である。

1年目からレギュラーに定着し、仰木彬監督時代の95年・96年にはリーグ連覇、日本一に輝いた中心メンバーとして活躍。

「がんばろうKOBE」を掲げ、阪神・淡路大震災で被災した神戸そして日本に希望の光を照らした。

96・96年、「がんばろうKOBE」でチームを連覇に導いた(©ORIX Buffaloes)

01年からは横浜ベイスターズに移籍し、04年に現役を引退。プロ生活16年で通算1720試合に出場、1406安打・100本塁打を記録した。

その後はオリックスで6年、DeNAで3年間コーチを務め、19年よりオリックス野球クラブ株式会社の事業本部 事業運営部 コミュニティグループに所属。

解説や執筆業などを行う傍ら、地元の小学校を訪問するなど地域貢献活動に勤しんでいる。

2年間コーチを務め、昨年監督に就任

ジュニアチームの首脳陣は小川監督の下、同じくオリックスOBの塩崎真氏・吉田直喜氏がコーチを務める。

小川監督は昨年暮れに就任。それまでは2年間コーチとしてジュニアチームに関わっており、塩崎真氏から監督の座を引き継いだ。

打診を受けた経緯などを語った。

「19年から4年間、子どもたちを対象に地域貢献活動を行ってきました。小学校では野球教室、高学年や中学生になるとキャリア教育も加わってきます。このように子どもたちと接する時間が長くなったこともあり、ジュニアのコーチ・監督をさせていただくことになりました」

昨年から監督に就任し、2回目の大会を迎える

バファローズジュニアは大阪府・兵庫県からそれぞれ8名ずつ(うち女子選手2名)で構成されている。小川監督ら首脳陣が実際のプレーや映像を見て、選手たちを選抜していった。

「プレーする上で大事なのは”気持ち”」

グラウンド上での小川監督の指導方針はどのようなものか。自身の考えを明かしてくれた。

「私は技術というのはまだ先のフェーズだと考えています。まずプレーする上で大事なのは”気持ち”。その方が大事だと思うんです」

大事なのはまず”気持ち”と語った

スポーツやそれ以外でも挙げられる3項目 ”心・技・体”。小川監督はまずは”心”の部分が重要と考えている。

「体を動かすのも気持ちからですし、もしそこで弱気になってしまったり、怖がってしまったら、やはりいいプレーも出ないと思うんです。子どもたちはどうしても大人たちを気にするわけですよ」

小川監督は、選手たちには「3球でアウトになってもいいよ」と常に伝えている。これは、上述の”気持ち”の部分で前向きにプレーしてほしいという想いからである。

「失敗したら、それを学んで次に繋げてほしいですし、成功したらそれは成功体験として次に繋げることができます。なので、選手たちにはとにかく怖がらずに、もっともっと自信を持ってプレーをしてほしいと思っています。

なので、”失敗はナンボでもどうぞ。もっと楽しくやりなさい”と。何かに躊躇している子を押し上げるというのは考えてやっています」

選手たちには”失敗は何回でも”と士気を上げ続けている (©ORIX Buffaloes)

一歩踏み出すことで、まずは打席で思い切ってバットを振ってくる・マウンドで腕を精一杯振るようになり、そして勝負に勝ちたいという気持ちも芽生えてくる。

「それが”意欲”ですね。”自覚”とか。それを生み出すのは己の心しかないんですよ。己の心が動かなければ何も動かないです。私はそう思っています」

「昔と今のバランスを取りながら、良いものを作っていく」

子どもたちを指導するに当たり、挙がる話題が”時代の変化”である。小川監督は指導者を務めるにおいて何より必要な”柔軟性”を持ち合わせている。

時代に合わせた指導をする上で、自身が大事にしている考えを語ってくれた。

「今は、テクノロジーで情報を得てみんなが共有し合いますよね。それに加えて、私は昔のいいところっていうのは絶対あると思いますし、変えてはいけない部分もあると思うんです。もちろん、変える部分もあるので、そこはすぐ変えなければいけない。

昔と今のやり方をうまく融合させて、指導者側もしっかり考えて、子どもたちを導くというのが、これからの時代に必要なことだと思います。昔と今のバランスを取りながら、良いものを作っていくんです」

昔と今のいいところを合わせて指導している

昔のネガティブな指導法がクローズアップされる傾向にある中、小川監督の考える”昔のいいところ”はどんなところと考えているのか。

「厳しかったけど、その中に温かみがあったと思うんですよね。私のアマチュア時代、プロに入ってもそうですけど、厳しい人はいました。でも、すごく可愛がってくれましたよ。言われた時は”何くそ!”と思ってやってた自分もいましたし、だからこそ結果を出して、期待に応えられたのだと思います」

小川監督の温かみのある厳しさ。しっかりと現代版にアップデートされていた。実際にどんなやりとりが行われているか、紹介してくれた。

「例えば、『今の結果を踏まえて、どうしたらいいと思う?』と選手たちに話させるんですよ。自分の言葉として発しますよね。そうすると、その言葉に対して責任感が出るんです。

言ったからには、『じゃあどうすればいい。よし、じゃあそれをやろう』となりますし、もし実践していなければ『自分で言ったよね?』と聞きます。

自分で言ったんだから責任持ってやろうと。すると、子どもたちは”はい!”ってしっかり理解するんです。このようなコミュニケーションは取らないといけない、そう思います」

常に選手たちとのコミュニケーションも欠かさない (©ORIX Buffaloes)

”野球の恐さ”を感じた昨年の大会

昨年ジュニアチームで指揮を執る1年目だった小川監督。長く野球界に身を置いているが、「去年、こんな恐ろしいことが起きて…」と、改めて野球の恐さを味わった話がある。

昨年の12月28日に行われたトーナメント初日、バファローズジュニアは横浜DeNAベイスターズジュニアと初戦を戦った。ベイスターズジュニアの監督は秦裕二氏、コーチは松井飛雄馬氏が務めており、小川監督が選手、コーチとして在籍していた時に関わっていた2人との対戦でもあった。

3回までで6得点と試合の主導権を握り6−2で迎えた最終回、「2アウトランナーなし。ここからだったんです」と語り、ここからが悲劇の始まりだった。

四球と安打で無死1・2塁。次打者の右前に抜けた打球は右翼手が1塁へライトゴロを狙うも惜しくも間に合わず無死満塁。会場は横浜スタジアムで”完全アウェー”の状態。流れは完全に相手へと行っていた。

「ここでまさかの満塁ホームランで同点。もう会場は大盛り上がりですよ。同点に追いつかれて次の回に延長タイブレークでサヨナラ負け。こんなことが起きるんやなと。改めて勝負の恐さ、野球の恐さを思い知りましたね」

試合後は選手たちみんなが涙した。その時に小川監督はある言葉を伝えた。

”一球を疎かにする者は一球に泣く”

「高校時代(拓大紅陵)の恩師で、私たちを甲子園へと導いてくれた小枝守監督からいただいた言葉です。私は言葉の力ってとても大きいと思っているんです。もちろん選手たちは決して疎かにはしていないですが、これからの野球人生を送るにおいて頭の片隅にでも置いておいてほしいなと思い、子どもたちに伝えました」

6年生の選手はこの悔しさを胸に小学校を卒業し、今は中学校でボーイズ・シニアなどそれぞれの舞台で鍛錬を積んでいる。小川監督もこの経験は今後に活きると、卒業した今も期待を寄せている。

「負けた経験からも学ぶことができます。ジュニアトーナメントがゴールではないですし、先に繋げるためにはあの経験を踏まえて次に自分が何をすべきかと学んだと思います。今後彼らはたくましくなっていきますよ」

始まる大会に向けて「守りから流れを作っていきたい」

小川監督には一昨年の暮れ、ブルーウェーブが日本一になってから25年の節目ということでオンラインでインタビューに協力いただいていた。

当時はジュニアチームでコーチを務めており、やりがいについて

「子どもたちが成長していく過程を一緒に見ることができる。子どもたちの成長ってすごく早いんですよ。短期間で一気に伸びますから。そういったところに自分が一緒にいれて嬉しいしやりがいを感じるんです」

と語っていた。そのやりがい、そして小川監督の熱い想いは決してブレることなどなかった。

「このやりがいはいつまでも変わらないです。結団式をやってから大会が終わる約2ヶ月間。その期間でもすごく成長するんですね。野球のプレーもそうですし、挨拶の仕方とか普段の生活においてもです。代表としての自覚も出てきますし、たくましく成長していますよ」

子どもたちの成長を感じるのが何よりのやりがいである

そしてもうすぐ迎える今年のジュニアトーナメント。昨年の悔しさを晴らすべく、指揮官として当然ながら優勝を目指している。この話題の最後に大会へ臨むにおけるチームのポイントを語ってもらった。

「まずは元気のある姿を見せたいです。野球の面では、我々はトップチーム同様に投手中心で戦いたいと思っています。エース格が左右で1人ずついるので、守りから流れを作っていきたい。そう考えています」

いよいよ始まるジュニアトーナメント。日本一に輝いた1軍に続き、”連続日本一”で2022年のオリックス・バファローズを締めくくる。

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