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子ども達の個性に語り掛ける『本物の体験』とは?~元ショートトラックスピードスケート五輪代表がたどり着いた “なちゅぼ式プログラム” 『星のあそびば』~

「デジタルデバイスなどに数多く触れ、情報化社会に流れる情報の取捨選択に長ける子ども」あるいは、「自らが得意なことを身につけ行動する子ども」。もしどちらかを選ぶとしたら、どちらを目指して子育てをするだろうか。ショートトラックスピードスケート日本代表としてオリンピックに3度の出場経験がある一般社団法人ナチュラルボディバランス協会(以下なちゅぼ)の代表である勅使川原(てしがわら)郁恵さんは後者の子どもを育てていきたいと語る。

収穫して満足そうな勅使川原代表

1.オリンピック出場者が生み出した「本物」。なちゅぼ式プログラムの魅力

勅使川原郁恵さんは、引退後二児の出産を経て、子どもの個性を伸ばす教育の普及を目指し、なちゅぼを設立し、「子どもの個性、潜在能力を伸ばす子育て」を促すイベントを定期的に開催している。

目指すのは、親子の対話を促進することで、親とそして子ども自身が自らの個性に気づき、その個性を成長させ、自信をつけ社会に出ていく「心と体づくり」だ。キーとするのは「運動」「食」「アカデミー(芸術、教育論)」「自然遊び」。これをなちゅぼでは「なちゅぼ式プログラム」と名付け、展開している。

このプログラムを構築するに至った経緯は、勅使川原さんがオリンピック選手になる過程まで遡る。

彼女が生まれたのは岐阜県。お父様が県のスケートのコーチをしていたこともあり、家族全員でスケート場に行くのが日課だった。こうした環境の中で勅使川原さんは3歳からスケート競技の世界に入っていった。 めきめきと力をつけ、中学2年生の時には早くも日本一となる。


幼少時の頃を振り返り、成長のキーとなっていたのがなちゅぼ式プログラムでも軸としている「食・運動・自然遊び」だった。

「食」について 、食生活に両親はこだわりを持っていた。「小さい頃からファミレスの料理やカップラーメンなどは食べたことがなかったです」母親の手料理が当たり前の生活環境だった。その結果、「風邪をひいたことは一度もない」と笑う。競技のベースとなる体の強さは食で作り上げた。
「中学2年生で日本一になりオリンピック選手になって以降、15年間ナショナルチームにいました。長年第一線にいることができた要因は、まず食生活です。添加物一つ一つを把握し生活していました。その結果、一日でも普段食べないまんじゅうを食べるだけで体に異変を感じるようになりました」

もう一つのキーワードは「運動」「自然あそび」だ。スケートをしないときは近所の山で遊ぶのが日課だった。遊ぶ方法は自分たちで見つけていた。自然の中で体を動かし、自ら遊ぶ環境が当たり前の環境にあった。

体育の教科書などでは教えられない「本物体験」がなちゅぼ式プログラムでは得られると確信している。

とうもろこし収穫体験を終えて満足そうな参加者の子ども

2.親も子どもも体験を上回るものはない

2021年7月11日にはトウモロコシ収穫体験を開催した。コロナ感染症の拡大状況を考慮し、密を避けた形式での実施となったが、コロナ禍だからこそ、却って実際に体験することによる大切な親子教育の効果を感じ取った、という参加者の声に溢れた。

当日の参加者の一人、勅使川原郁恵さんが審査員を務めた「ミセスユニバース2021日本大会」で審査員特別賞「ヘルスコンシャス賞」を受賞しナチュラルボディバランス協会初代アンバサダーとして活動中の久保田恵美さんと子ども(4歳)は横浜市住まい。食育の重要さは感じているものの、身近に本物の農業を体験できる場がなく、取れたての作物を子どもにあげることもなかなかできずにいた。

ミセスユニバース ヘルスコンシャス賞受賞者・ナチュラルボディバランス協会 初代アンバサダー 久保田恵美さん と子ども(4歳)お子様も「楽しかった。おいしかった」と喜んでいた

その他の参加者も都心在住者が多かったこともあり、それぞれの問題意識をもっていた。「日頃スーパーで見ている食材だけでいいのか?」「子どもたちは、取れたての野菜のおいしさ、良さを知らない」

今回の体験は、そんな親の気持ちを吹き飛ばす機会となった。「子どもの本物の野菜を見る目つきが違う」「普段食べられない野菜を食べている!」保護者からは驚きの言葉がならんだ。

子ども達も同じだ。「虫だ!」「野菜がおいしい!」普段できない体験に、目を輝かせる。普段全く食べない、というオクラを、ぼりぼり食べる子もいた。「本物に勝る体験はない」と勅使川原さんもうれしそうに収穫したピーマンを片手に笑う。勅使川原さんが目指す「本物の親子体験」ができた瞬間だ。

トウモロコシ・ナス・ピーマン。多くの野菜を収穫した。収穫体験を通じて、一つひとつ育った食物が大切だということ、取るときに虫がいるという現実、採れたての野菜をその場で食べる事のおいしさ…「当たり前」だが普段気づかないことを体験して記憶した。

授業で教えられる机の上で学ぶロジックではなく、体験が子どもの記憶に残り、そして自ら「よい」と判断していくようになる。以前にも参加した子どもたちは以前の収穫体験も覚えていた。

「本物」は子どものたちの記憶に刻まれるものなのだろう。

そう思わさせられるイベントで皆の笑顔が清々しく見えた。

3.なちゅぼ式プログラム「星のあそびば」を広げていく意味

勅使川原さんの思いにひかれて共に活動する仲間も増えだした。現在理事を務める成瀬久美さんもその一人だ。

成瀬さんは、「便利な世の中になってきてはいるものの、コロナ禍ということもあり人は益々体を動かさなくなってきています。乳幼児向けの食生活では、豊富なラインナップがある市販品を人によっては毎日子どもに提供しているけれど、それでよいのだろうか?こうした疑問がつきまといます。子どもたちが健やかに心身を成長させるためには乳幼児の頃から食、運動等に対して、どうアプローチしたらいいかを常日頃から考えていました。私が教育に幅広く携わっていく中で、モンテッソーリやシュタイナーなど幅広くアカデミズムに触れることの大切さを感じ、また私自身、子どもの頃から自然が一番の先生だと確信しています。実際、自然でのあそびが子どもには原体験として身につくことを実感しています。私も勅使川原さんと同じ考えを持ちながら、運動、食、アカデミー、自然遊びの4つをキーに伴走しています。」と語る。

一般社団法人ナチュラルボディバランス協会理事 成瀬久美さん子どものスイカ割をサポートする成瀬理事

また、子どもの体力は低下しており、将来的な国民全体の体力低下及び社会の活力不足に陥る危険性がある。

実際、スポーツ庁の統計調査「令和元年度体力・運動能力調査」の結果を見ると青少年(6~19歳)のデータでも握力、50m走、持久走、立ち幅跳び、ボール投げに関し、昭和60年と比して50m走以外は低い水準となっている。

勅使川原さんは、こうした運動能力の低下を危惧しており、「なちゅぼ式プログラム」により、未来の日本を背負う子どもたちの能力を楽しい体験をさせ、向上させていきたいと考えている。乳幼児期から正しい生活習慣を「プロ」や「お母さん」から次世代に伝える循環を構成したいという。

こうした、社会的課題への対応と正しい生活習慣の好循環化を推進するため、「なちゅぼ式プログラム」を特に届けたいのは、都心エリアを中心に子育てに悩む親だ。正解のない子育ての中、また過熱するエリート教育とオルタナティブ教育の狭間で自分のやり方は正しいのか自問自答する毎日―そんな保護者に、なにかしたいと考えた。子育てに正解はなく、日々自問自答して子育てをしている親。自分のやり方が正しいのか葛藤が尽きない。

「親との二人三脚で、オリンピック出場まで上り詰めた体験。そして母親として子育てをしてきた経験。」こうした体験と経験の上に積み上げたなちゅぼ式プログラムを通じて、「子どもに本物を与えること」「乳幼児期に多くの体験をさせること」「味蕾を磨くこと」「自然と対話すること」の4つのテーマに行きついた。勅使川原さんが提供する子どもの潜在能力の引き出し方とは何か。子どもたち各人の個性を伸ばし、知らなかった子どもの能力に出会えるプログラムを子育て世代の親に提示していく。

子どもたちは、スマホ・YouTubeなどから与えられる情報ばかりで自主的に動く機会が減少している。さらにコロナ禍もあり、外での活動が制限されている。日本を背負っていく子どもたちが、与えられた情報を自ら選択し、実践していくためには、子どもたちの五感を磨き上げ、自分の良さに気づき自ら活用してことが求められる。こうした中で、なちゅぼは、未来を創る「子どもたち」に五感の発達を促進させ、正しい生活習慣を自ら経験してもらうことで好循環社会を構成していく。

「自分の力で切り開いていくんだという力を身につけ、用意されている中で “べき” 論に縛られない。かつ思いやりをもてる大人になり、よい社会を作っていってほしい。」となちゅぼ式プログラムを身につけた後の子どもたちに対する思いを前述の成瀬さんは語る。

今後、不確実性はより高まり、超高齢化社会を迎える日本社会において、自らの能力を最大限に発揮し、元気な社会を作り上げる人財づくりをなちゅぼは目指していく。

まず目指す一歩目は、子どもたちが実際になちゅぼ式プログラム「星のあそびば」を単発のイベントとして定期的に開催していくこと。そしてその先に見据えるのは、なちゅぼ式プログラムを教える教室の設立だ。名付けて『星のがっこう』。ゆくゆくはなちゅぼ式プログラムのアイコン的な場になっていくと想定している。その立ち上げに向け、資金集めにも挑戦をしている。

星のがっこうが設立され、そこを巣立っていく子どもたちに思いを馳せたい。

きっと未来の日本は明るいものとなろう。

                                             (鈴木大介)

とうもろこし収穫体験参加の皆様

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