「グロつく!」を通じて感じるグローブの素晴らしさと野球の楽しさ
野球グローブの修理・リメイク専門店Re-Birthが行う体験会『グロつく!』が注目されている。自分の手でグローブを作り上げることで、野球への思いが強まる子供が増え始めているという。
~グローブが誕生する瞬間を味わって欲しい
「『グロつく!』ではグローブの構造と紐通しの修理方法を学ぶことができます。道具の大切さを感じてもらうと共に、職人さんの技術も理解いただけるはず。親子での貴重な体験を大事な思い出にして欲しいです」
Re-Birthを展開するグローバルポーターズ株式会社の代表・米沢谷(よねざわや)友広氏。『グロつく!』を始めたきっかけについて語ってくれた。
「野球人ってグローブが大好きです。子供の頃に初めて買ってもらった時の喜びは今でも覚えています。革の匂いがするだけで野球のさまざまなシーンが思い浮かびます。グローブにはそれぞれに異なる歴史が刻まれています」
「中古グローブを買取させていただくとわかるのですが、全く同じものは1つもありません。それぞれに人生や時代が刻まれ何年経っても色褪せません。だからこそグローブ誕生の瞬間を味わって欲しいと思いました」
Re-Birth2020年2月からオンラインを通しグラブ修理や不要グラブの再生販売を開始。翌21年からは東京・蒲田以外にも世田谷区、多摩市にショップを構えている。
「製造工程を実際に体験することで、1つのグローブを作り上げる喜びや難しさもわかるはずです。ギアを大切に扱うことが技術上達に繋がるのも間違いないと思います」
一流選手ほどギアへのこだわりが強く、普段から大切に扱うものだ。イチロー(マリナーズ他)は高校時代からグラブ、バット、スパイクを大事にしてきたのは有名だ。
~グローブ製作工程での成功体験の積み重ね
2021年から始まった『グロつく!』は、少年軟式グローブのウェブ、指先(天巻き)、手口の紐通しを中心にグローブを仕上げる工程が体験できる。未就学児~小学6年生までが対象で、保護者1名の同伴が必要。グローブ完成後には修了証も発行される。
Re-Birthショップのみならず、明治神宮球場やベルーナ西武ドームといったNPB本拠地球場でも開催。その他にも立教大学野球場、川口市営球場、各所のイベントスペース等でも開催されている。
「紐を揺らしながら引っ張り込むとやりやすいよ」
「ねじれを考えながら紐を引いていこうね」
「真っ直ぐに入らない時には針金を上向きに差し込むと良いよ」
子供の一挙一動を優しく見守り、アドバイスを送っていたのがグラブマスター・阿部樹氏。
7月27日、二子玉川店での体験会は参加予定者の体調不良もあって1名のみの参加。1オン1の形となり、いつも以上に丁寧に対応できたという。
「最初は緊張する子供さんも多いですが、時間と共に慣れてきます。紐が穴を通るたび、パーツが組み上がっていくにつれ、どんどん前向きになってくれるのが嬉しいです」
「最大で8名を相手に指導したことがあります。こういう大人数時には、親御さんへ向けて説明するような感覚で行います。伝達する感じで子供たちに教えてくれますから」
「今日のお子さんは真面目でやりやすかったです」と終了後の阿部氏は満足感を漂わせた。普段はやる気満々な子もいれば、全く乗り気で無い子、すぐに親御さんに頼る子など、さまざまだという。
「子供たちの個性は多様なので、それぞれに合わせることも重要です。やはり乗り気で無い子をどうするかは難しいです。親御さんに手伝ってもらったり、どんどん話しかけたり…。勉強中です(笑)」
「イベント会場等でやる時には、他の催しに興味が行って集中してくれない場合もある。そういう時には事故が起こらないように本当に気を使います。紐通しの針金などの金具を使いますから」
~野球グローブ作りを通じた自由研究
「『グロつく!』への注目が集まるのにはいくつかの理由があると思います」と米沢谷氏は語る。
「グローブが形になった時は、誰もが本当に嬉しそうです。子供たちがプラモデルを作ることさえ少なくなっていると聞きます。モノ作りに接する喜びが実感できるはずです」
大好きな野球グローブを自らの手で作り上げる。これ以上の満足感を得られるモノ作り体験はないかもしれない。
「夏休みの自由研究で参加している小学生も多い。我々の時代に同様のことができたら絶対に参加したはずです。手前味噌になりますが、野球好きにとっては最高の研究テーマだと思います」
この日、母親と共に参加した小学5年生も自由研究の一環だった。「難しかったし(紐通しで力が入って)指も少し痛むけど、楽しかった。このグローブ、カッコ良い」と満足そうだった。
「野球人口減少への対策にもなると思います。趣旨に賛同、協力してくださる野球メーカーさんのおかげで、お得なグローブ製作キットを提供することができています。野球への興味を少しでも増やしてもらえれば嬉しいです」
NPBをはじめ、各カテゴリー、メーカー等、関係者にとって野球人口減少対策は大きな課題となっている。『グロつく!』の取り組みもその一環として認知されている。
~グローブへの知識は試合中の武器になる
米沢谷氏は「グローブの構造と紐通し方法を学ぶことは、試合中の武器にもなり得る」と付け加える。
「プロ選手の中には、予備の革紐を常に持っている人もいます。紐が切れた場合、応急処置できるようにしているそうです。試合中はベンチへメーカー担当者が入ることはできませんから」
「グローブについての最低限を知っていれば緊急対応が可能です。仮に紐が切れても指間などを締めていけば、どこかで結べる場所も出ます。他選手のグローブを借りることなく試合を乗り切れるはずです」
「ギアの知識を持ち、大切に扱うことが野球の技術上達に繋がる」と言われるのも納得できる。
夏休みに突入、週末のみにとどまらず平日も『グロつく!』が開催されるほど需要も高まっている。
「グローブは触っているだけで楽しくて落ち着きます。野球への興味や楽しさがより深まると思います」(米沢谷氏)
「グローブの奥深さを子供たちに伝えたい。そのためにもグラブマスターとしての技術をもっと高めたい」(阿部氏)
見て、触って、知って、作り上げる。
『グロつく!』を終えた子供たちが、グローブに対して異なった気持ちを抱き始めたのは間違いないだろう。野球への思いが深く心に刻まれる貴重な体験ができる場所だ。
(取材/文:山岡則夫、取材協力/写真:グローバルポーターズ株式会社)