• HOME
  • コラム
  • 野球
  • 「野球選手はモテなきゃダメ」関メディベースボール学院総監督・井戸伸年氏

「野球選手はモテなきゃダメ」関メディベースボール学院総監督・井戸伸年氏

野球専門校・関メディベースボール学院(以下関メディ)は、画期的な育成方針を打ち出している。

「選手は魅力があって、モテないとダメ」。

総監督・井戸伸年氏が口にする「モテることの重要性」の意味に迫った。

~モテるようになれば良い選手になれる

「野球選手はモテないといけない。そのためには相手を喜ばすことが必要。例えば、挨拶1つでも『おはようございます』と元気良く、楽しくやれば好感度も高くなる。モテるようになれば、良い選手、素晴らしい人間になれます。もちろん女性から好かれてモチベーションが上がることも含まれます」

「モテる」には多くの意味が含まれる。「異性から好意を持ってもらう」のは当然のこと。「老若男女の分け隔てなく気に入ってもらえる」ということも必要だ。

「行動を見ている人は必ずいます。例えば、挨拶や礼儀に関しても形式だけで薄っぺらいものではダメ。日頃の積み重ねは根強いから、それが個々の魅力になる。近所の人に好かれていて、『こいつはめちゃくちゃ優しくて良い子や』でも良い。自分自身と向き合い、今後に活かして欲しいです」

井戸伸年総監督が重要視するのは、自らの魅力を明確に発信できること。

~選手1人1人が自分のファンを見つけ出す

関メディでは普段の練習試合へ知人、友人を招待することを推奨する。集めた人数の多い選手を優先的に試合出場させたこともあった。

「『今日、何人呼びました』と積極的にアピールする選手が増えた。『こいつ、こんなに人気があるんだ?』と驚かされることも多い。SNSなどさまざまなツールをうまく活用できる選手もいる。自分の魅力を作って、磨くためのモチベーションになって欲しいです」

チームには侍ジャパンU-15代表で大活躍した金本貫汰も在籍する。しかしそれ以外の選手も独自の魅力を持って発揮することが必要だと語る。自分自身のファンを開拓することにもつながる。

「自分の魅力を把握して欲しい。だから、『日本代表の金本…』とかは関係ない。もちろん金本は野球選手として素晴らしい才能を持っており、人としても素直で慕われる人物です。でも魅力的な選手は他にもたくさんいます」

「長く応援してくれるファンを作る目的もあります。野球をやっている姿を見てもらい、自分のファンになってもらう。今後は地方の学校へ行く選手も出てくる。それでも気にかけて応援してもらえれば力になる。地元に帰ってきた時に『あんたもっと頑張れや』と言ってもらえればやりがいも出ます」

練習試合へ知人、友人を呼んだ数の多い順でオーダーを決定したこともある。

~モテるためにはコミュニケーション能力が必要

「(プロ野球に)ドラフト指名されるのも、魅力があるから。モテないと野球選手として上に行けない。もっと言えば、プロは興行なのでお客さんを呼べないと成り立たない。魅力がある、モテる選手を作り出すことが重要。それはユース世代、子供も同じだと思います」

自身の野球人生から、「モテること」「個人の魅力」が重要だと悟った。そして魅力を発信するためのコミュニケーション能力が必須だとも痛感した。

アマチュア時代は、育英高(兵庫)、徳山大(山口)、社会人・住友金属、住友金属鹿島(現・日本製鉄鹿島)でプレー。当時は自身のことしか考えておらず、ひたすら野球に打ち込む毎日だった。

「選手時代の自分は独りよがり。自分がプロに行きたいだけでした。野球がうまくなって、結果を出して、勝ちたいだけ。周囲が全く見えていなかったです。だからコミュニケーション能力も低かったと思います」

野球へハングリーに取り組むためには、コミュニケーション能力が必要である。

プロ入りを目指して2002年にはMLBホワイトソックス傘下のマイナー球団に在籍した。米国で過ごした時間は大きな経験となり、野球への取り組み方が変化するきっかけとなった。

「徹底的にハングリーになる必要性を感じました。そのためには自分から動かないと何も始まらない。米国では監督、コーチの方からは指導しない。選手から聞きに行かないと何も教えてくれない。そのためにコミュニケーション能力の重要性を知りました」

「日米の一番大きな違いかもしれません。米国の場合は、子供の頃から年長者とフランクに話しやすい環境があります。スポーツの現場も同様です。でもそこは考え方次第で変わる。コミュニケーション能力、対話、会話は自分から動くための第一歩です」

帰国後の同年(02年)ドラフト9位で近鉄入団、05年シーズン終了後にオリックスで現役引退した。翌06年から関メディでコーチを務め、09年から経営を引き継いで現在に至る。

「指導者になってからは、人に接する機会が多くなりました。改めて自分の魅力を理解して発信することが大事だと痛感しました。自分という人間を相手に知ってもらうためのツールとして、コミュニケーション能力は重要です」

「選手たちには、自分の魅力、特徴をしっかり理解して欲しい。そしてコミュニケーション能力を磨いて発信できるようになって欲しい。これから先、どんな学校やチームに行っても、自分自身の魅力をしっかりアピールできるようにする。それがチャンスを掴むことにもつながると思います」

発信能力を高めるため、総選挙での演説や面接など、様々な手段を使う。

~幹部を選ぶ総選挙でベンチ入りメンバーも決まる

関メディでは、選手が自分自身をしっかり発信できるようにする試みが行われている。

主将などの幹部を決める「総選挙」もその1つ。スタンドに部員を集めて立候補者は演説を行い、他部員からの挙手による投票で役職が決定する。選挙で幹部に選ばれた選手は自動的にベンチ入りも確定するという。

「チームをまとめて同じ方向を向くために必要です。選挙時の個々の立場で、(幹部に)選ばれた人、(同)選ばれなかった人、立候補しなかった人、の3組ができ上がる。これを一軍、二軍、三軍と呼んで分けています」

「(同)立候補、演説をしても、投票時に全く手を上げてもらえない選手もいます。なぜなら普段の様子は、チームメートが一番近くで見ているからです。野球がうまくても、取り組み方や私生活が乱れている人は選ばれません」

「幹部になっても、チームのルールを破れば降格です。挨拶や時間厳守など、最低限の基本的なことです。幹部が降格したらまた選挙をします。だからベンチ入りをしたくて打算で立候補、当選しても絶対にバレます。逆に幹部になることで野球への取り組みや私生活が変化する選手もいます」

他にも選手間での演説、親を交えた面談等を重視。自分自身で考えたことを、自らの言葉で語らせる。魅力や特徴を相手に伝えることができるようにすることで、モテる選手になるためだ。

「自分の考えをしっかりアウトプットさせるためです。発信能力があれば、今後の長い人生でもプラスになる。もちろん野球をやる上でも良いことだらけ。モテることにつながります。そういった技術を持った野球選手を作り上げていきたいです」

「SNS等の使い方も同じだと思います。そういう便利なツールとうまく付き合って欲しい。効果的に使用できれば、野球を離れても武器になる。いずれは現役を引退して就職することも出てきます。その時に必要なものを中学生年代から意識して、少しでも磨いてくれればと思います」

発想の積み重ねで性格が変わり、モテる選手になることを覚えて欲しい。

~そこのチームにおったのは誰やねん?

自分自身の魅力を理解して発信できる、モテる人間になる。野球選手、その先の社会人としても大きな武器を手に入れられるはずだ。

「何に対しても『できる』というプラス思考で取り組めるはずです。最初から『やめとけ、無理やって』とマイナス面に考えては意味がない。そういった発想の積み重ねで性格も変わってくる。野球、人生にとって良いことだらけです」

「関メディにいたことを、後々、誇りに感じてくれたら嬉しいです。たまに自分の所属したチームをケナす人がいますけど、それは自分自身を否定することです。どんなに理由をつけても『そこにおったのは誰やねん?』となる。選手には関メディにいたことに胸を張っていて欲しいです」

「選手たちの魅力を伸ばすのが大人の責務だと思います。そのための環境を作るのが大人の役目です。子供が居心地良い場所を、さらに良くしてあげたい。魅力あるモテる選手を増やしたいです」

野球だけで人生が完結するわけではない。現役を上がりユニフォームを脱いだ後も、各分野で能力を発揮できる人間を育てたい。

関メディから全国の野球強豪校へ選手が巣立つのには、大きな理由がある。野球しか知らない「野球サイボーグ」ではなく、自分自身の魅力を相手に伝えられる「モテる」選手を育てているからだ。

間もなく中等部3年生は関メディを離れて高校進学をする。今後どれだけモテる選手になるのか楽しみである。

(取材/文・山岡則夫、取材/写真協力・関メディベースボール学院)

関連記事