侍ジャパン大学代表候補の城西大・松川、ライバル東海大・大塚とともに強化合宿へ
木枯らしが吹くころに行われる野球日本代表「侍ジャパン」大学代表候補選手の強化合宿。今年は、11月30日~12月2日に愛媛県松山市の松山坊っちゃんスタジアムで行われる。
首都大学野球連盟からは、4人の選手が参加メンバーに選ばれた。中でも城西大の松川玲央内野手(3年・関西)は2年連続の選出だ。前回は最終的に侍ジャパン大学代表には選ばれなかったが、強化合宿での経験は、松川にとって貴重なものとなった。
そんな松川が「意識している選手」として挙げたのが、同じく今回の参加メンバーに選ばれ、同連盟に所属する東海大の大塚瑠晏内野手(3年・東海大相模)だった。お互い同じポジションの遊撃手、この秋新チームの主将に就任、そして目標はプロ野球選手と競い合うには最適の相手だ。今回の強化合宿では、ふたりそろって実力をアピールすることができるか。
高みを目指してフォームを改善した松川
走・攻・守どれもハイレベルであり、かつ伸びしろも感じさせる、それが松川だ。
首都大学野球リーグの2部で戦っていた城西大に入学した松川は、1年春からレギュラーに。2年秋にはチームが1部に昇格し、松川自身は2部、1部通して3年秋まで6季連続で打率3割超え(1年秋は.484で首位打者)と好成績を残し続けている。1年秋から3年秋までは5季連続でベストナインも受賞。
いまや大型ショートは珍しくないとはいえ、183センチある松川のダイナミックな守備はやはり目を引く。守備範囲が広く華がある反面、送球などに粗さも見えていたが、今秋のリーグ戦はノーエラーを目標にかかげ、それを達成した。
足の部分で言うと、昨年の強化合宿では、50メートル走で5秒88と参加者全体のトップの数字をたたき出し話題になった。リーグ戦でも1部昇格後の2年秋、3年春はともにリーグトップの8盗塁を記録している。松川自身も自分の売りを「足」だという。ただ、それは走塁だけを指すわけではない。「足を生かしたバッティング、足を生かした守備範囲などもです。走攻守すべてにおいて注目していただけたらと思います」。
関係者の話を総合すると、昨年の強化合宿、さらには今年6月にあった野球日本代表「侍ジャパン」大学代表候補選手選考合宿に参加した松川は侍ジャパン大学代表に選ばれるまで本当にあと一歩のところだったという。悔しい落選ではあったが、大学トップクラスの選手たちと過ごした時間は、松川にとって大きな財産となった。
「初めてああいう場に行かせていただいて、宗山塁(明大4年・広陵)さんなどの一流プレイヤーとの意識の差を感じ、自分はまだまだ未熟だなと思いました。ああいう方たちはプレーの前の下準備などもしっかりしていたので、僕もチームに帰ってからは、試合中だけではなく練習のときからどういうプレーが起きるのかを考えながらやるようになりました」
技術的な面でも、未熟な部分が浮き彫りになった。代表候補には150キロ台のストレートを投げる投手が何人もいた。愛工大の中村優斗投手(4年・諫早農)と対戦したときは、155キロのストレートが「たまたまバットに当たった」と、ファウルゾーンに飛ばすのが精いっぱいだった。「上を目指すにはそういうピッチャーがもっと出てくるので、打ち返していかないと生き残っていけないと思いました」。
冬の間、バッティングの改良に取り組んだ。「ウエイトトレーニングもしましたが、それを操れるかどうかは自分の動きや肩の使い方なので、どうしたら速い球に力負けせずに振れるかというのを指導者の方々とやって今のスイングにたどりつきました。もともとトップの位置が深くてバットが遅れて出てくるところがあり、それでも外の球は得意なので当たって(逆方向の)レフト前に打てていたのですが、インコースのストレートなどを捉えるためにトップを少し浅くしました。今のフォームでも外の球は確実に捉えられますし、甘く来た球を捉えられればホームランにもなります」。
リーグ戦では150キロ後半の球を投げる投手がいなかったので、それほどの速球に対応できるかは未知数のままだが、以前より長打が増えたという点では手ごたえを感じていた。それでも松川は、夏、さらにバッティングフォームに手を加えた。
「春はバットを最初から寝かせていたんですけど、今は構えだけ寝かせて打ちにいくタイミングでヘッドを立てるようなイメージで、うまくヘッドを使うようにしました」。その結果、春.350だった打率は秋.375にアップ。進化していることは間違いないが、本人はまだ満足していない。
「当てる能力に関しては自分の中でも持ち味だと思っているのですが、速いストレートに対しての振る力、対応能力はまだまだだなと感じます。全部フラットにしてまた一から守備も走塁もバッティングも、まずはフィジカル面を作り上げてから技術の方にいきたいと思います」
秋季リーグ戦が終わってから強化合宿まで約1ヵ月。その間に松川はどんな練習をしてきたのだろうか。城西大の村上文敏監督は、松川のことを「技術的なことについてはみなさんが見ていただいている通り僕も評価していますけど、あとは人としてどのくらいチームを引っ張れるのか」と、下級生のころからチームの中心選手となるべく指導をしてきた。主将に就任したことで、技術面とともに精神面にも何か変化が見られるのかは、楽しみなところだ。
守備力抜群、打撃力を向上させたい大塚
春季リーグ戦、最終週の囲み取材で記者に「意識している選手はいますか」と訊かれた松川は「同リーグの大塚選手です」と答えた。その理由は「守備もバッティングも含めて光るものがあるから」だという。「特に守備に関しては、大塚選手にかなわないと言ったら弱気になりますけど少し違う部分も感じますし、意識している部分はありますね。でも負けるわけにはいかないです」。
確かに、守備に関しては松川とまったくタイプが違うと言っていい。まず、183センチの松川に対して大塚は169センチと小柄だ。松川の守備はどちらかというと華やかだが、大塚の流れるような動きの守備は優雅とでも表現すればいいだろうか。
プロ野球で長くスカウトを務めていた東海大の長谷川国利監督は、東海大相模高校の主将だった大塚のことを「高校のときから見ていたんですけど、ヒットだなと思ってもそこに入ってくれている、あ、それ捕るんだという守備範囲の広さ、一歩目のスタートの良さがあると思います」と評価しており、守備に関しては今の段階でも社会人野球、プロ野球でも通用するとみている。
その反面、攻撃に関しては「すごくスピードがあって走塁も上手です。ただ、春のリーグ戦の結果を見てもらったらわかると思うんですけど、ヒット数より三振の方が多いくらいですからそこをやっぱり矯正していかないと、上のレベルにいくとなかなか大変かなと思います」と厳しめの評価をした。
大塚の春の成績を見てみると、39打数12安打で打率はリーグ10位の.308と悪い数字ではないが、確かに三振は17で安打数を上回っていた。上位打線を打っているため打席数が多いとはいえ、リーグ1位の三振数だ。大塚自身も三振の多さが課題と認識しており「バッティングを一から見直し、バットの出し方や構えも変えました。バットを立てて構えていたんですけど、それを今はちょっと寝せて構えるようにしました」と、夏の間にフォームを改良した。その結果、城西大1回戦で2本の本塁打を放った。「落ちる球などの変化球が見やすくなって、まっすぐにも力負けしなくなりました。練習試合ではホームランなど長打も出ていて、長打力アップも目標にかかげていたので、リーグ戦でも出て良かったです」。
その後も微調整は続いた。長谷川監督は「城西大戦でホームランを打ったときは、足を大きく上げていてバットを後ろからしゃくりあげていたので、タイミングの取り方を変えるのを一緒にやりました」と、大塚とともに取り組んだことを話し「成長してくれているので、今後も期待しています」と結んだ。
「守備に自信があるので、守備から流れという思いでやっています」と言う大塚は、強化合宿でもまずは守備を大いにアピールしたいところだが、やはり打てなければ侍ジャパン大学代表には選ばれにくい。秋季リーグ戦では変化の途中にいた大塚だが、この1ヵ月でどれだけ打撃を向上させているだろうか。
松川が「意識している選手」として名前を挙げていたことを大塚に伝えると「松川選手はベストナインなども取られていて打撃も足もすごいなと思うので、自分なんかという感じですけど、それでも負けないという気持ちはあります」と少し照れながら話した。ふたりとも、相手をリスペクトしながらも最後は「負けない」と発している。
同じ首都大学野球連盟から強化合宿に参加するふたりが、他の大学トップクラスの選手に混ざりながらも、お互い「負けない」気持ちで刺激しあって侍ジャパン大学代表に近づくことを期待したい。
(取材・写真・文)山本祐香