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今年からプロ野球ファームリーグに参加する「オイシックス新潟アルビレックス」と「くふうハヤテベンチャーズ静岡」。勇気ある挑戦を応援したい。

広尾晃のBaseball Diversity

ファームシステムの始まり

プロ野球のファームは「若手選手の育成」を目的として、MLBでは1910年代にセントルイス・カージナルスのブランチ・リッキーGMが、独立リーグ球団を傘下に入れたことから始まった。独立リーグやアマチュア野球から選手を獲得するよりも、自前で育成したほうが安上がりで、効率的だったのだ。

以後、他球団も同じように傘下にファームシステムを充実させた。今ではMLB球団はAAA、AA、A+、A、ルーキーリーグの5つの階層のファームチームを所有している。MLB球団は毎年ドラフトで20巡目までの選手を指名するが、契約した選手のほとんどは傘下のマイナーリーグのチームに配属される(希にいきなりメジャーデビューする選手もいる)。

日本では1955年から

日本では1936年からプロ野球が始まったが、しっかりしたファーム制度ができたのは1950年代に入ってからだ。

一軍に対して「二軍」と言う呼称で、一軍の試合に出場できない選手の育成を始めた。当初は練習が中心で、非公式の練習試合が年に10試合ほど行われるだけだったが、1955年にイースタン・リーグ、ウエスタン・リーグという「ファームリーグ」が設立された。

イースタン・リーグは翌年に中断し、1960年に再開された。

以後、NPBの「二軍」は独自にリーグ戦を展開した。また1987年からはファーム日本一を決める「ジュニア日本選手権(のちにファーム日本選手権)」も行われた。

「奇数の球団数」の不都合

当初はイースタン・リーグ、ウェスタン・リーグはそれぞれ6球団ずつだったが、2005年、これまで大阪府に本拠地があった大阪近鉄バファローズがオリックス・ブルーウェーブと合併、代わって東北楽天ゴールデンイーグルスが宮城県を本拠として新加入し、ファームチームがイースタン・リーグに所属したことでウエスタン5球団、イースタン7球団と共に「奇数」のリーグになった。

奇数のリーグは、試合日程を組むときに必ず1球団が余ってしまう。ペナントレースはほとんどが3試合程度の「連戦」の日程になるので、3日程度試合がないチームが生じる。効率が非常に悪かった。

ファームリーグを「偶数」にすることは、NPBにとって大きな課題だった。そこで2023年になってイースタン・リーグ、ウエスタン・リーグ各リーグに参加するチームを公募することとなった。

新チームに手を上げた団体

今の日本には、独立リーグ球団が30球団ほどある。これらの中で、ファームリーグへの参加を表明したのは、ルートインBCリーグの新潟アルビレックスBC、栃木ゴールデンブレーブス、茨後アストロプラネッツ、九州アジアリーグの火の国サラマンダーズだった。またこれとは別に、成長企業支援(金融)事業などを手掛けるハヤテグループもファームリーグ参加を表明した。

茨城アストロプラネッツ、火の国サラマンダーズは諸条件が整わないとして参加を見送り、新潟アルビレックスBC、栃木ゴールデンブレーブス、そして静岡県を本拠として球団づくりをすると発表したハヤテグループが最終的に残り、この中から新潟アルビレックスBCとハヤテグループが最終的に参加チームとなった。

70年以上前にも存在したファームだけのチーム

この2チームは、一軍の試合には一切関係がなく、ファームリーグだけに参加する。実はウェスタン、イースタン両リーグができる前の1950年~52年まで、ファームの試合だけに出場する球団が存在した。関西の山陽電鉄が運営する山陽クラウンズだ。このチームはウエスタン・リーグの前身である関西ファーム・リーグに参加したが、1952年10月に解散している。

それ以来72年ぶりに「ファームリーグ限定で参加する」チームが誕生したのだ。

ただ、新潟アルビレックスBC、ハヤテグループ新球団は、NPBに加盟するわけではない。NPB傘下のファームリーグに「参加」するだけだ。だからNPB公式サイトの選手のページには両チームの選手の名前はない。非常に特殊な形でのリーグ戦参加となる。

新潟アルビレックスBCは、イースタン・リーグに参加が決まり、静岡を本拠とするハヤテグループ新球団はウエスタン・リーグに参加することになった。

独立リーグ時代の新潟アルビレックスBCの試合

新潟と静岡が本拠

両チームには、ファームとはいえNPBの公式戦に参加するために、様々な環境を整備することや、資金面での整備が必要となった。

資金面での強化のために、両チームともに冠スポンサーを得ることとなり、新潟は「オイシックス新潟アルビレックス(オイシックス新潟)」となり、静岡は「くふうハヤテベンチャーズ静岡(くふうハヤテ)」となった。

また本拠地は、オイシックス新潟は、BCリーグ時代と同様、新潟市HARD OFF ECOスタジアム新潟、くふうハヤテは静岡市清水区のちゅ~るスタジアム清水となった。

ちゅ~るスタジアム清水

年間140試合を行う大変さ

ファームリーグだけの参加と言っても、簡単なことではない。ファームの公式戦は、今年から140試合制となった。一軍が143試合だからほとんど差がない。このうち半分の70試合は主催ゲームとなる。本拠地球場などで、球場使用料を支払って試合を開催しなければならない。

オイシックス新潟は、昨年まで独立リーグのルートインBCリーグに参加していたが、このリーグの年間試合数は60数試合。主催試合も30数試合だった。倍以上の試合を行わなければならない。

静岡市清水区のちゅ~るスタジアム清水を本拠とするくふうハヤテは、NPBの試合使用に耐える球場にするため、球場所有者の静岡市と協力してフェンスなどの改装を行った。また試合時には駐車場を確保したり、JR清水駅からのシャトルバスを運行させるなどのインフラ整備も行った。

さらにロードゲームは、オイシックス新潟の場合、宮城県仙台市(楽天)、千葉県鎌ケ谷市(日本ハム)、埼玉県所沢市(西武)、埼玉県浦和市(ロッテ、ヤクルト)、神奈川県川崎市(巨人)、神奈川県横須賀市(DeNA)と各地のファーム球場を転戦しなければならない。

くふうハヤテも、福岡県筑後市(ソフトバンク)、山口県岩国市(広島)、兵庫県西宮市(阪神)、大阪府大阪市(オリックス)、愛知県名古屋市(中日)と転戦することになる(その他の球場での試合も予定されている)。その移動距離は非常に長い。

HARD OFF ECOスタジアム新潟

ウエスタン、イースタン両リーグは新規に参加する両チームの本拠地で集中的に試合を組むなど、両チームの経費を軽減する方策を打ち出しているが、それでも各地を転戦することは避けて通れない。

両チームともに、飛行機や新幹線などでの移動は経費が掛かるのでできるだけ使わず、バスでの移動が前提となっている。相当過酷な状況になるはずだ。

基本的に独立リーグ球団の予算規模は年間1~2億円とされるが、オイシックス新潟、くふうハヤテともに5.5億~6億円の経費を見込んでいる。

しかし、入場料収入でこれをカバーすることはできない。そこで、ネーミングライツだけでなく多くのスポンサーを獲得するとともに、地元自治体にも支援を仰いでいる。

くふうハヤテの試合風景

選手は独立リーグと同じステイタス

選手のステイタスは、独立リーグと同じだ。

両チームには元NPB選手が合わせて20人ほど入団しているが、彼らは7月31日のトレード期限までならNPB球団への移籍が可能になる。だから短期間活躍してNPB復帰を目指そうと意気込んでいる選手もいる。両チームともにそうした選手たちの意思を尊重している。

一方で、独立リーグ球団やアマチュア野球から入団した選手は、NPBのドラフトを経なければNPBへの移籍はできない。

「勇気ある挑戦」を見守ろう

オイシックス新潟、くふうハヤテの両チームの立ち位置は非常に微妙だ。ビジネスモデルは独立リーグと大差がないが、試合運営のクオリティは「NPB並み」を求められる。

今後の運営には、様々な難問が待ち受けている。

しかし、セ・パ12球団が固定して66年、全く動きがなかったNPBにとって「野球の多様性」を拡げる非常に重要な取り組みだと言える。

参加当初は実力的にも多くは期待できないが、野球ファンは両チームの「勇気ある挑戦」を温かく見守っていくべきだろう。

ペナントレースが始まったちゅ~るスタジアム清水

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