法政大男子ハンドボール部が直面する課題とは?「自由」を強みに伝統をつなぐチームを目指す

 毎年日本トップクラスの入学志願者数を誇る人気の私立大学・法政大学。スポーツの強豪校でもあり、東京六大学野球連盟に加盟している野球部をはじめ、陸上競技部、ラグビー部、アメリカンフットボール部など体育会各部が全国大会で数々の実績を残している。

 男子ハンドボール部も、1939年創部の歴史ある部。関東学生ハンドボール連盟(現在7部制)に所属し、ほとんどのシーズンを1部で戦っている。しかしリーグ戦、全日本学生選手権(インカレ)の優勝からは1973年以降遠ざかっており、近年はリーグ戦で2位だった2019年秋を除いて下位に低迷。昨年は春が8位、秋が最下位の10位に沈み、特に秋の戦績は0勝8敗1分で、白星をつかむことさえできなかった。  

 選手たちは苦しい現状をどう捉えているのか。そしてその現状を打破するため、何に取り組んでいるのか。春のリーグ戦を直前に控えた主力選手3人に話を聞いた(選手の学年は新学年)。

「真っ黒」の時代を乗り越え強くなった、頼れる主将

 新チームで主将に就任した布田航選手(4年=藤代紫水高)は、「チームの軸を作れないままリーグ戦が始まって、そのまま1年が終わってしまった」と昨年の戦いぶりを振り返る。リーグ戦前の準備期間にチーム内の連携を深めることができず、個人技ばかりに頼る展開を余儀なくされた。

 だからこそ、主将になってからは「チームメイトと同じラインに立つというよりは一歩先を見て、ブレない軸を作る」ことを意識している。39人(3月時点)の部員一人一人とコミュニケーションを図り、全体を見渡しながらチームの在り方、活動指針を模索してきた。  

 布田が現在ハンドボールに打ち込むことができているのは、高校時代と大学入学直後に挫折を味わった経験があるからだ。

プレーでもチームを引っ張る布田

 小学2年の頃にハンドボールを始め、中学時代までは「楽しくて仕方がない」競技生活を送っていた。一方、高校時代について問うと、「一言で言うと『真っ黒』」と言葉を詰まらせる。全国大会常連の強豪高校に在籍しながら、3年間のほとんどは主力チームではないBチームやCチームで過ごした。ハンドボールと向き合う時間が増えれば増えるほど、周囲に期待されない悔しさが募った。「あれだけ楽しかったハンドボールを嫌いになるくらい、苦しい3年間だった」と話す。

 大学進学後も、1年目の秋のリーグ戦で辛酸をなめた。地元茨城の強敵・筑波大と対戦した際、16-34で大敗を喫したのだ。「圧倒的な敗北感。大学でこんなにこてんぱんにされるんだと、衝撃だった」。試合後、帰りの車内で涙が止まらなかった。  

 それ以降、ひたすら努力を続けた。法政大は自由なチームカラーで、指導者はいるものの基本的には学生主体で練習に取り組む。誰かに教わるよりも自ら考えながら、じっくりと練習の質を上げていった。そして今では、主将を務めるほどの選手にまで成長した。選手が成長できる環境を作ることの大切さを理解した上で臨む競技生活最後の1年は、自身のことよりもチームのことを最優先に考えるつもりだ。「この先何年も続いていくようなチームをこの1年で作り上げていきたい」と力を込める。

けが明けでも、無名校出身でも輝ける環境

 フェイントを駆使した素早い攻撃を武器とする石田季里選手(4年=越谷南高)も、挫折を乗り越えた選手の一人。高校入学後にポストプレーヤーからバックプレーヤーに転向し、軌道に乗ってきた矢先、右手の指を骨折するけがに見舞われたのだ。すぐに手術したものの高校の間は完治せず、治療のための通院が終わったのは大学1年の春だった。  

 それでも、けがをしている期間に自身のプレーを見つめ直したことが、大学での飛躍につながった。意識を高めたのは、得意としているフェイントの技術を磨くこと。高身長ではないためプレーの幅を広げるべきだと自覚し、YouTubeなどで参考動画を繰り返し視聴しながら、足運びや重心の動かし方を研究した。

競技生活最後の1年に臨む石田

 けが明けで、高校ハンドボール界では名の知られていない公立高校出身。大学入学当初は不安も大きかったが、フェイントには絶対的な自信を持っていた。その強みはチーム内でも認められ、下級生のうちから公式戦での出場機会を得た。

 「無名の公立高校出身でも、強みを見てもらって試合に出場できている。全員が完璧な選手(なんでも屋)ではないけど、それぞれの選手に強みがあって、自信を持ってプレーできているのが法政の良さだと思う」。

 出身校や過去の実績は関係なく、自らの強みを理解し、強みを伸ばした選手が重宝される。そんな環境だからこそ、個性を光らせることができている。

「結果」にこだわり、先輩と後輩のつなぎ役を担う新3年生

 選手たちは恵まれた環境で力を発揮している一方、結果を残せていない現状には危機感を募らせている。新3年生ながら副将に就任した渡邊桂也選手(3年=市川高)は、「学生主体で自由なチームカラーが、良い部分にも悪い部分にもなっている」と指摘する。  

 昨年のチームは「『自由』が変な方向に行っていた」。就職活動などを理由に部活を休む部員も多く、限られた練習時間の中で緊張感を保つことができていなかったという。強豪高校で厳しい練習をこなし、主力を張っていた渡邊にとって、「自由」は危ういものにも感じられた。新チームになってからは、「先輩にも後輩にも言えるタイプ」と自身の性格を自己分析した上で、積極的に意見を出している。

下級生のうちから存在感を示している渡邊

 現在は部活を休む日を部員間で事前に共有し、休みの重複を可能な限り避け、少人数の練習にならないよう工夫している。その結果チームの一体感が増し、「雰囲気はよくなってきた」と変化を感じ取った。その他にもプレーやチーム内の規則に関する意見が後輩や同期から出た際には、それらを先輩に伝える役割を担っている。

 ただ、「自由」をむやみになくすべきだと考えているわけではない。狙いはあくまでも、「自由」を法政大の強みに変えることだ。例えば服装。公式戦ではない練習試合で部のユニホームなどを着用しなければならない規則は「必要ない」と考え、先輩たちに改善を提案した。「先輩たちと一緒に、結果にフォーカスして頑張りたい」。結果を追い求め、課された役目を全うする。

 今春男子ハンドボール部が掲げる目標は、「リーグ戦6位以上」。まずは目の前の目標を達成し、布田の言う「この先何年も続いていくようなチーム」の完成に近づきたい。多くのOBらの期待を背負い、39人全員で戦う。

(取材・文 川浪康太郎/写真提供 法政大男子ハンドボール部)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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