『愛し愛されるチーム』を目指す大阪公立大学女子ラクロス部の挑戦
『応援されるチーム』から『愛し愛されるチーム』へ
2022年4月、大阪府立大学と大阪市立大学が統合され、大阪公立大学が誕生。大阪府立大学には女子ラクロス部がなかったため、『大阪市立大学女子ラクロス部』からそのまま『大阪公立大学女子ラクロス部』へと移行、今年3年目のシーズンを迎えている。
現チームの1学年上、2023年度のチームは『愛し愛されるチーム』という理念を掲げた。その前年度までの理念は『応援されるチーム』だった。2024年度主将・野田彩加(のだ・さやか=生活科学部4回生)は、この『愛し愛されるチーム』についてこう説明する。
「『応援されるチーム』を超えた『愛されるチーム』になりたい、という意見がまず部員の中から出たんです。愛されるためには、自分たちも相手を愛する必要があります。私たちをサポートし応援してくださる方々には、自分も女子ラクロス部の一員だと思ってもらえるぐらいになってほしい。そんな意味から『愛し愛されるチーム』を目指し、2024年度チームもそれを継続して掲げています」
理念を実現させるためには、自分たちが大阪公立大学女子ラクロス部の一員であることに誇りを持ち、チームメイト同士もお互いを尊重し合うことが必要になる。支えてくれる人たち、応援してくれる人たちを愛し、チームメイトを愛する。チーム愛にあふれた女子ラクロス部でありたい。『愛し愛されるチーム』にはそんな意味も込められているという。
3つの行動指針『尊重』『ひたむき』『挑戦』
この理念を実現させるために、2023年度チームは『尊重』『ひたむき』『挑戦』という3つの言葉を行動指針として設定した。
『尊重』というのは『愛する』という部分を表しており、支えてくれる人たち、応援してくれる人たちを尊重すること。さらには自分たち、チームメイトのことを尊重するということ。
『ひたむき』は、応援してもらうため、愛されるためには競技に対するひたむきな姿を見せなければならない、ということ。
『挑戦』というのは、応援してもらうためには現状に満足せず、常に高いところを目指して挑戦を続けなければならない、ということ。
2024年度チームの幹部陣は、先輩たちが掲げた『尊重』『ひたむき』『挑戦』の行動指針をさらに強く意識し『愛し愛されるチーム』を目指すための具体的な取り組みについてミーティングを重ね、以下を実行に移した。
まず、チームビルディングワークを増やすこと。これはチームメイト同士が自分たちを尊重するために取り組んだもの。アメリカで生まれたタイプ診断テストである『MBTI診断』を取り入れ、それぞれが自身の長所や短所、人生においてどんな目標を持っているのか、そのために女子ラクロス部ではどんなことを達成したいのか、などを全員の前で発表する。これによって部員間の相互理解を深めることができたという。6月下旬にも秋のリーグ戦に向け、よりよいチームにするにはどうしたらよいのかを考え、改めて一人一人の思いを部員に伝え、現状を確認する機会を作った。
次に、部員とリーダー陣との面談を増やすこと。面談はそれまでにも行っていたが、今年度からはさらに回数を増やした。部員の近況や現在考えていることなどを聞き、悩みがあれば寄り添っていけるようにという目的での取り組みだ。
さらには、コーチ、卒業生、スポンサー、保護者、他団体と積極的に関わること。対スポンサーでいえば、コミュニケーションの頻度を増やすことに努めた。会社訪問時には社員の人たちに積極的に声をかけるようにし、練習や試合を見に来てもらえるように働きかけた。「実際にプレーしている姿やチームの雰囲気が伝わって、距離が縮まったのではないかと思います」と副主将の山崎陽依(やまざき・ひより=文学部4回生)は言う。
さらに、スポンサー企業へのインターンの企画、運営のお手伝いや集客のための情報拡散など、自分たちからも提案できることを提案した。これにより、前年度は1社だったスポンサーが、今年度は3社に増えた。「支えてもらっているからこそ、こちらからもできることを一生懸命やりたいという意思を見せました」と野田は説明する。
また、女子ラクロス部OGのLINEグループでの情報発信や活動報告を増やし、文面もやわらかい文章、親しみやすい文章を心がけるようにした。
目標を『1部昇格』から『1部定着』に変更
大阪公立大学女子ラクロス部が所属する関西ラクロスリーグ戦女子は1部7校、2部6校、3部7校+合同3チーム(12校から)で構成されている。2部校の上位3校は1部校の下位3校と1部昇格をかけて入れ替え戦を戦うことができる。
『大阪市立大学女子ラクロス部』時代の最高成績は2010年の1部総合5位だが、2011年秋に入れ替え戦に敗れ2部降格して以来13シーズン、2部での戦いを強いられている。昨年も2部5位に終わり、入れ替え戦に駒を進めることができなかった。
前年度までは目標を『1部昇格』に置いていたが、2024年度チームは目標を『1部定着』に変更した。
「1部に昇格したらそれでいいというのではなく、今年1部に昇格して、その後も1部に定着し続けることを目標にしました。『1部昇格』が目標だと、下級生は『来年頑張ればいいんじゃないか』という気持ちが出てしまう。『1部定着』を目標にすることによって、全員が同じ熱量で、同じ方向に向かって行きたいんです」
野田はそう説明し、言葉に力を込めた。
『愛し愛されるチーム』を目指しながら、2024年度チームは『1部定着』という目標に向け、競技力向上のための取り組みも同時に進めている。
以前からチームについてくれているトレーナーが経営する接骨院内にあるトレーニング機器を開放してもらい、部員は無料でトレーニングができるようになった。「フィジカル面が鍛えられたねとOGに言われるようになりました。そこでのトレーニングの成果が出ていると思います」と野田はその効果を語る。
目標が明確になり、全体の意識が上がった
さらには、週4回の全体練習とは別に、任意練習を1日入れることによって、より長い練習時間を確保できるようになった。ラクロスは大学から始める部員がほとんどだ。高校時代、野田はサッカーを、山崎はバスケットボールをプレーしていた。練習時間をなるべく多く取りたいところだが、もちろん学業との両立を考えなければならない。『練習は週4日』ということで入部してきた部員にとって、さらに週1日練習が増えるということはなかなかの負担になる。
「任意練習に関しては、毎回参加できるかどうかのアンケートを取って、勉強との両立が難しい時期は休んでも大丈夫、ということにしています。それでも、今ではほとんど普通の練習と変わらないぐらいみんな任意練習にも参加してくれています」と野田は言う。
幹部陣が部の改革を進めたことにより、部員全体の意識が上がっているという。副主将の山崎は「チーム全体として目指すべき目標が明確になったことで、全体の意識が上がったのではないかと思います。私は特に3回生の成長に助けられていると感じます。3回生には来年があるけれども、私たち4回生と一緒に1部へ上がるんだという強い意識を持ってくれている」と3回生の成長を喜ぶ。
マネージャーリーダーの雄倉風香(おぐら・ふうか=文学部4回生)も「今年は上級生の人数が少ないので、2回生にかかる比重が高くなってきています。その中で、2回生は練習以外の時間でも部のこと、ラクロスのことをしっかり考えてくれるようになりました」と2回生の頑張りにも大きな期待を寄せる。
合宿所はなく、部員は実家から通うかキャンパス近くに一人暮らしをしている。「合宿所はありませんが、杉本キャンパス内の専用グラウンドを常に使えますし、自主練習のために学校が壁打ちスペースを設置してくれています。ラクロスに打ち込むには恵まれた環境にあると思います」と副主将・山崎は言う。
現在の部員数はプレーヤー21人、マネージャー9人の計30人だ。2020年以降、コロナ禍の影響により新入生勧誘活動が制限されたことから、部員数は2019年以前に比べると少なくなっている。関西学院大学、同志社大学、立命館大学といったリーグ戦上位校と比べても部員数は少ない。『1部定着』という目標の実現は、簡単なことではないだろう。
支えてくれる人たちを、そして仲間を『尊重』すること。『ひたむき』に競技に取り組むこと。高い目標に『挑戦』し続けること。3つの行動指針を貫き、『愛し愛されるチーム』を目指す大阪公立大学女子ラクロス部の改革に注目してほしい。
(写真提供/大阪公立大学女子ラクロス部 取材・文/小川誠志)