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パリオリンピック2024でのメダルとその先のトライアスロンのためにートライアスリート 古山大選手ー

   昨年終了した東京オリンピックで、都内で開催された競技の一つがトライアスロンであった。観客が現場で直接レースを観戦することは叶わなかったが、それでも近くに住む人であれば、選手たちがオリンピックの会場でレースをしている雰囲気を十分に感じることができる、貴重な競技であったと言ってもよいだろう。

トライアスロン競技で日本代表選手になるためには、世界各国を転戦しながらレースに参加してポイントを重ねることが必要になる。そのため、選手たちは数年計画でレースに参加してポイントを獲得することを繰り返し、自身のランキングを上げていかなくてはならない。つまり、トライアスロンではすでに次のオリンピックに向けた戦いが始まっているのである。

 そんな2024年のパリオリンピック出場、そしてメダル獲得を目指しているトライアスリートが、古山大選手である。

今回はそんな古山選手に、パリオリンピックやトライアスロンへの思いについて、話を伺うことができた。

写真提供 古山大

「かっこいい自転車」に憧れてトライアスロンへ

まず最初に、古山選手がどのようにトライアスロンという競技に出会ったのか、お伺いできますでしょうか。

「僕は子供の頃、地元のスイミングクラブで選手コースに在籍していました。そのスイミングクラブに通っていた小学3年生ぐらいの時、いつものように水泳の練習を終えて家に帰ろうとしたら、クラブのロビーで自転車でトレーニングしていた、お兄さんやお姉さんたちの団体がいたんです。彼らが使っていたのは競技用の自転車だったんですが、子供心にその自転車がものすごくかっこよく見えたんですね。

 その時、周りの大人が『トライアスロンという競技をする人が使う自転車なんだ』と教えてくれて、『あんなかっこいい自転車に乗れるスポーツがあるんだ』というのがトライアスロンに関する最初の僕の印象でした。

 実は僕の通っていたスイミングクラブには、日本でも数少ないトライアスロンのクラブチームが、水泳の練習をするために通っていたんです。その日は、スイムの練習をする人がいる一方で、泳がない人は自転車のトレーニングをしていた日だったんですね。

 当時、僕は水泳をしていましたから、泳ぐのは得意で持久力もありましたし、長距離を走るのも苦ではなかったので、トライアスロンという競技があることを聞いて『自分にピッタリの競技じゃないか』と思ってしまったんです」

トライアスロン自体がハードなので、競技を長く続けることはかなり大変なことだと想像します。古山選手がトライアスロンを続けてくることができた、最大の原動力とは、何なのでしょうか。

「やはり、僕が子供の頃の出来事がきっかけですね。僕が小学校3年生のころ、アテネオリンピックがありました。その時、スイミングスクールでトレーニングをしていたトライアスロンの選手の一人が、日本代表選手としてこのときのオリンピックに出場していたんです。

 当時、僕はスイミングクラブで録画されたビデオを見ながら応援していたのですが、その時の周りの大人達の応援がものすごい盛り上がりでした。それを見て、『自分も頑張ればオリンピックに出て、こんなふうにたくさんの人から応援してもらえるんだ』と思ったんです。その時見た風景が、僕がトライアスロンを続けている一番の原動力になっていると思います」

2020年から、プロのトライアスリートとして活動されています。プロになる決断をされた理由とは、どのようなものだったのでしょうか。

「小学生の頃から、身近にトライアスロンのクラブチームがあって、そこにプロの選手がいるような環境にいたので、割と若いうちから『将来はプロの選手として活動していきたいな』と思っていました。小学生の頃にスイミングスクールのロビーで見た、あのお兄さんやお姉さんと同じようになってみたいと思っていたんです。

 また、プロになった方が日本以外の海外のレースに出て戦うこともできますし、プロトライアスリートとして活動したほうが、様々な分野に情報を発信することができるのではないかと考えて、プロに転向しました。

 実は、プロに転向する前は『プロになったら競技だけやれるようになる』と思っていました。でも、実際には競技に関わる様々なこと、例えば遠征のためのスケジュールを組み立てて航空券を自分でとったり、ホテルやオーガナイザー(大会の主催者)に連絡したりということも自分で対応することになったので、実際はかなり大変なんだということを実感しています」

パリオリンピックに向けた「スピード強化」と海外遠征

古山さんの当面の目標は、パリオリンピックでのメダル獲得であると伺っています。その目標のために、現在ご自身のどのような点を強化されたいと考えていらっしゃるのでしょうか。

「僕の最大の課題は、スピードを強化することです。というのも、僕は持久力はすごくあるんですが、その反面スタートダッシュやラストスパートのスピード勝負になると弱いところがあるんです。

 特に僕の種目であるオリンピックのトライアスロンは、競技時間が2時間ちょっとしかない種目なので、スピードがとても大事になってきます。

 これは僕の印象なんですが、僕と同じ競技をしているトライアスロン選手のほとんどは『もともとスピードはあるんだけど、持久力をつけることが課題』というタイプが多いような気がします。

 僕はそういった選手たちとは逆のタイプなので、練習内容なども多分他のトライアスロンの選手とはちょっと違うんじゃないかと思いますね」

今回、スポチュニティでのクラウドファウンディングは、海外遠征の資金のためと伺っております。海外遠征のプランについて、お話を伺えますでしょうか。

「はい。主に今回僕はアフリカや南米、東南アジアの国々で開催されるレースに参加することを計画しています。こうしたレースを通じて、僕の世界ランキングを上げていき、パリオリンピックの舞台で戦えるようになりたいというのが、僕の目標です。

 様々なスポンサーの方々にバックアップはすでにしていただいているのですが、昨今の国際情勢の変化もあり、渡航費や滞在費などを援助していただきたく、今回クラウドファウンディングさせていただくことになりました」

競技の関係上、古山選手は世界中でトライアスロンのレースに参加されているかと思います。例えば、ヨーロッパや日本などのレースと比較した時、今回参加されるようなアフリカや南米、東南アジアでのレースの特徴とは、どのようなものがあると思われますか。

「ヨーロッパや日本のレースは、非常によくオーガナイズされていますよね。例えば、何かが起こってスタート時間が遅れるときも、レース前日までにはきちんと連絡が来ます。

他の地域ではそうでもなくて、スイムの用意をして、スタートラインに着いてから、『交通規制の関係で、スタートが30分遅れます』なんてアナウンスがあったりしますね。時々、レース中に地元のお父さんやお母さんたちがコース上を歩いたりしていますし。

 でも、一番印象的だったのは、メキシコでレースをした時だったんです。

 夕方5時から始まるレースだったので、その時間にあわせて海辺のスイムのスタート地点に行ったんです。そうしたら干潮の時間だったのか、潮が全部引いてしまっていて、全く泳げない状態になっていました。でも、スイムのUターン地点は変えられないから、結局大会の主催者がスタートラインを、選手が泳げる沖まで移動することを決めたんです。その結果、スイムの距離が一気に短くなって、その後の自転車に移動するための距離が伸びることになりました。

 僕自身はこういう事があっても『いやー、いろいろあるよね』と笑えるタイプなんですが、そうではない人は精神的に大変かもしれませんね」

 海外遠征中の食事などはどういう感じなのでしょうか。

「基本的には、オーガナイザーが指定したホテルでの食事になります。ただ、僕はレース前にカーボローディング(炭水化物を多めに取る食事法)をするんです。だから、その国の主食はお米・パン・パスタなのか、あるいはそれ以外のものなのか、ということはあらかじめ調べていきます」

海外でレースをする上でも、精神的なコンディションを整えることも大事になってくると思います。いろいろ競技について悩むこともあるでしょうし。そうしたときには、どのように心を整えているのでしょうか。

「悩み事があったら、紙に書き出します。書くことで、自分の現状がわかりますし、競技に関することであれば、将来の自分が得たいとおもう結果から現状まで逆算することで、自分が今どのような位置にいるのか理解できますから。

 また、トライアスリートは遠征には、1人か、あるいはコーチと2人で行動することが多いんです。今は文明の利器のおかげで海外にいても日本の家族や友人と気軽に連絡が取れるようになりましたが、一人で行動する僕のような選手の場合、遠征中は誰も話す人がいないんですね。

 そうしたときは、独り言をしゃべるようにしています。もともと僕は独り言が多いタイプではあるんですが、一人でいる時には、他人に遠慮する必要もないので、どんどん独り言を喋っています」

写真提供 古山大

思い描く将来のトライアスロンの姿

 現役アスリートである古山選手からみて、将来日本でトライアスロンがこのようなスポーツになっていてほしいな、あるいは、日本でトライアスロンがこのようなスポーツとして認識されてほしいな、というような希望はありますでしょうか。

「日本のトライアスロンって、競技としてのプロのカテゴリーと、趣味として競技をしているアマチュアのカテゴリーが、はっきり二分化されているんですね。そして、プロとアマチュアのカテゴリーの間には、あまり交流がないんです。

同じライアスロンという競技であっても、プロとアマチュアのレースには様々なルールの違いがあったりするので、そうしたことがこの二分化の理由なのかもしれません。日本国内ではプロのトライアスロンのレースも多くはないですし。

 でも、意外とアマチュアのトライアスリートもプロのレースを知っているわけではなくて、『え、トライアスロンでも日本選手権なんてあるの」ってびっくりされてしまうほどの知名度しかないのが現状なんです。

 そのため、日本でもプロのトライアスリートがもっと活躍できて、プロとアマチュアの間の壁を取りはらうことができたらよいな、と考えています。

 1つの形態としては、Jリーグのようなその地方ごとにトライアスロンクラブがあって、その中でプロの選手もアマチュアの選手も活動できるようになることが理想なのかなと思ったりしますが、簡単なことではないですしね。

 でも、そうした事も含めて、僕のようなプロのトライアスリートがレースで結果を出しながら、世界各国のレースの情報などを発信していくことが必要なのだと思っています」

写真提供 古山大

パリオリンピック2024でのメダル獲得に向けて、自分がすべきことは何かをしっかりと理解している古山選手。しかし、彼が見ているものはオリンピックという舞台だけではなく、その向こうにある将来の日本のトライアスロンの姿でもある。

 自分自身のオリンピックのメダル獲得が、日本でトライアスロンが競技として一般的に認識されるようなきっかけになることを、古山選手は望んでいるのではないだろうか。

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