名古屋大学陸上競技部「出場権をチーム全員でつかみ取る!」全日本大学駅伝への挑戦(後編)

全日本大学駅伝は、大学駅伝3大大会のひとつ。関東地区のチームしか出場できない箱根駅伝と違い、各地区から代表校が集う真の大学日本一決定戦である。

高校の陸上長距離選手は、箱根駅伝に憧れて関東へ進学するケースが多く、必然的に関東全体のレベルも高くなる。それは全日本大学駅伝において、上位を関東のチームが占めていることからも明らかだ。他地区からの出場校にとっては、関東勢に戦いを挑む場でもある。

名古屋大学の選手は、チームで、あるいは(東海学連選抜に)個人として挑むのとは別に、日本学連選抜のサポート役としても毎年参加。出場への意欲向上につなげてメンタル面からもチーム強化を図り、11年振りの全日本大学駅伝出場を目指している。

前編はこちら

全日本大学駅伝の地元ならではの経験

日本学連選抜は、東海を除いた7地区から各2名、計14名が候補として選ばれる。ただし、8区間のレースなので実際に出場するのは8名。残りの6名は、ジャージを預かったりドリンクを手渡したりするサポート役を担う。ところが、それだと2選手分足りないため、全日本大学駅伝のコースが地元となる東海地区のチームから、サポート役の2名を補充している。

林コーチ「明確なルールはないのですが、私自身が日本学連選抜のコーチとして参加していることもあり、主に名古屋大学から出しています。速い選手を間近で見たり、大会の雰囲気を肌で感じたりしてもらい、自分たちが出場することへの意識付けになればと思っています」

森川選手「学部生の1年(2018年)でサポート役を経験しました。そのときの担当が、1区を走った関西学院大学3年の石井優樹選手(NTT西日本)で、学連選抜で初めて区間賞を取っています。その走りを間近で見られ、話も聞かせてもらえて、自分ももっと強くなりたいと思うきっかけになりました」

名古屋大学は、2012年以来、チームとしては全日本大学駅伝に出場していない。しかし、森川選手個人は東海学連選抜のメンバーとして、学部生2年で2区、大学院1年(※)で8区を走っている。それでも、目標はあくまで「名古屋大学」としての出場だ。

※全日本大学駅伝は、大学院生も学部生と同じチームで出場できる。

森川選手「僕が入部したころは、個人で速い選手はいたものの、強いチームとはいえませんでした。でも実際に大会の空気を肌で感じると、チームでそこに立ちたい気持ちが強くなったんです。部員への意識付けとして『全日本大学駅伝に名古屋大学として出場したい』と言い続けてきたことで、全体の士気もだんだん高まっていきました」

2022年の全日本大学駅伝・東海学連選抜として8区を走る森川選手

経験豊富な先輩の存在は大きなメリット

意識付けのほかに実践しているのが、先輩から後輩への積極的な声掛けだという。名古屋大学陸上競技部では、大学院に進んでからも現役を続ける選手が少なくない。対戦型の競技に比べて個人練習を積みやすく、専門的な勉強・研究をしながらでも記録更新が狙えるなど、競技へのモチベーションが保てるからだ。経験豊富な先輩からいろいろ学べるのは、名古屋大学ならではのメリットといえる。

森川選手「院生になって、研究などで学業の方がかなり忙しくなりました。学会や発表の前だと、しんどくなることもあります。それでも研究は楽しいですし、なんとか陸上とも両立できると思ってやっています」

先輩・後輩の関係が良好だからこそ、院生の存在が際立つ。林コーチも、上下間の風通しがかなり良くなっているのを実感している。

林コーチ「以前は、下級生が上級生に萎縮しているようなところがありました。しかし今は、下級生からも話しかけやすい環境になっています。名古屋大学から、ほぼ毎年誰かが東海学連選抜として出場していることも、良い効果を生んでいると思います」

東海学連選抜のメンバーは、全日本大学駅伝の選考会とは別のレースで決定される。2021年と2022年には、名古屋大学からそれぞれ3名の選手が名前を連ねていた。今回の取材に参加してもらった中では、森川選手以外にも、4年の河﨑選手(前編で紹介)が2年と3年のときに東海学連選抜メンバーとして走っている。

河﨑選手「後輩から先輩に話しかけやすい雰囲気なので、経験豊富な先輩からいろいろ話を聞かせてもらえます。そこからスキルアップにつながったり、考え方を学んだりもできる。チーム内で切磋琢磨でき、どんなレベルの選手でもそれぞれ向上心を持って取り組んでいるので、とても刺激になって、自分も頑張ろうと思えます」

2022年の全日本大学駅伝・東海学連選抜として2区を走る河﨑選手(真ん中)

オフも一緒に過ごすほど良好な関係

名古屋大学陸上競技部で先輩・後輩の関係が良好なのは、陸上以外のところにも表れている。勉強や部活から離れてリフレッシュする方法を聞いたところ、同じ陸上部のメンバーで楽しんでいるという声が多く挙がった。

寺島選手「メンバーは固定ではないのですが、5人ぐらいでよく遊びに行きます。趣味が同じだったりすると、一緒にいることも多くなります」

阿部選手「部活のメンバーは一人暮らしの人が多いので、学年に関係なく集まり、一緒に遊びに行ったり、ご飯を食べに行ったりしています」

田尻選手「長距離のメンバーで遊ぶことが多いですが、短距離の選手たちと出掛けることもあります。やはり同じ部活のメンバーといるのが気楽で、それが息抜きにもなります」

小川選手「最近は河﨑さんの家でよく鍋会をしています。院生の方から低学年まで集まってくるので、いろんな人と話せてすごく楽しい。僕の専攻している工学部のマテリアル工学科は、部内でどの学年にも一人はいる状態なんですが、そのおかげで、先輩から過去問や教材をもらったりできます。森川さんからも、たくさん教科書をいただきました」

左から、小川選手、阿部選手、深谷選手、田尻選手

他のリフレッシュ方法を教えてくれた選手もいた。

深谷選手「以前メインでやっていたサッカーが、今でも陸上と同じぐらい好きで。プレー自体は、時間や場所の問題があるのでなかなかできませんが、試合観戦やサッカーのゲームをしてリフレッシュすることが多いです。昨年は実家住まいで通学に時間がかかり、陸上部のメンバーと一緒に遊びに行く機会はあまりありませんでした。でも最近一人暮らしを始めたので、これからは参加できたらいいなと思っています」

河﨑選手「3年生の秋から1限の講義がなくなり、朝練の開始時間を遅くできるようになったので、睡眠を長くとるようにしています。湯船にも長めに浸かるなどして体のリフレッシュを意識した結果、陸上のパフォーマンスが上がりました」

パフォーマンスを高めるためには、オフの過ごし方も重要だ。選手たちはうまくバランスを取りながら、陸上にも勉強にも力を注いでいる。

2022年・御嶽濁河高地トレーニングセンター(岐阜県下呂市)での夏合宿にて。選手たちは合宿先でも勉強していた

今年の東海地区選考会に向けて

2023年度の全日本大学駅伝・東海地区選考会は、6月24日におこなわれる。10000mのレースを4組に分け、1組に各チーム2名ずつ、計8名が出場し、全員の合計タイムで順位が決まる。

2022年度選考会では、1位の皇學館大学が4時間07分34秒、2位の愛知工業大学が4時間07分49秒、3位の名古屋大学は4時間09分09秒だった。

林コーチ「今回の選考会を突破するには、チーム内で10000mの走力を向上させなければなりません。具体的な数値目標として、選考会までに10000mの上位8名の平均タイムが30分30秒を切ることを目指しています」

【2022年度末時点での10000m自己ベスト上位8名】

また、出場枠がひとつに減ったことで、昨年とは戦略も変えなければならない。

林コーチ「2枠であれば、それぞれの組で2人が6位以内に入れればと考えていました。しかし、1枠だと2枠に比べてより上位で走り切ることが求められます。すべての組で2人とも4位以内に入ることが、選考会突破に向けて必要な条件だと考えています」

さらに記録の面では、当日の気象条件が良ければ、昨年度の1位通過タイムよりも速い4時間6分を切るタイムでの突破を狙っているという。

林コーチ「昨年はピークがずれてしまった選手もいました。チーム全員が当日にベストパフォーマンスを発揮できるよう、レースまでの1ヶ月間は、より慎重に選手たちの状態を見極めていきたいと思います」

「今年こそチームで全日本大学駅伝に出場する」この強い思いを胸に、チーム全員が一丸となり、名古屋大学陸上競技部は6月の選考会に挑む。

(取材/文 三葉紗代、写真提供 名古屋大学陸上競技部)

関連記事