引き継がれる思いと現役生の決意。京都大学女子ラクロス部の1部昇格への道(後編)

 1991年に創部された京都大学女子ラクロス部。長らく関西2部リーグに所属しているが、今年は関西学生リーグ戦2部リーグで全勝優勝を達成し、12月11日に園田学園女子大学との運命の1部2部入替戦を迎える。
 なかなか2部を抜け出せないチームにとってターニングポイントになったのは、2018年に理念の設立やGM(ゼネラルマネージャー)の新設をしたことだ。体制強化を図り下地を作った上に、2021年には経験豊富な岩崎功一郎ヘッドコーチの就任でチームの成長は加速。選手たちの取り組みもあり、1部昇格が目の前に迫っている。
 2018年以降、様々な改革を行ってきたがOG、現役選手の思いは不変だ。伝統を守りながら、新たな歴史を築いていく。

初心者でも入りやすい環境や雰囲気は
引き継がれる伝統に

 ラクロスは多くの選手が大学生から始める競技。設備や指導者の関係で、中学や高校では環境を整えにくいことが背景にある。
 そうした競技性の中、「熱中しやすい」性格の工藤有紗キャプテンは高校時代、文化部に所属しており、大学入学後もラクロスはおろかスポーツをする気が全くなかったという。しかし、たまたま学内を歩いていると女子ラクロス部の新入生歓迎会に誘われ、「『みんなで頑張るんだ』という先輩の雰囲気が良かったのと、熱中できる環境だと思いました」と即座に入部を決めた。工藤キャプテンのみならず、多くの学生が同様の理由で、3回生の堀口陽代、牧田萌菜はともに部の雰囲気が良いと感じて、「勢い」で入部をしている。
 工藤キャプテンが言う雰囲気の良さは代々続く伝統で、山本未帆GMのように卒業したOGの協力的なサポートが、伝統の継承に強く影響している。岩崎功一郎ヘッドコーチ就任前は代々OGが指導していたように、京都大学女子ラクロス部のOGと現役生との絆は深いのだ。
 毎年リーグ戦前にはOGからメッセージをもらっているが、創部初期のOGから来ることもあり「全く関わりがないと思っていた先輩から支援をいただき、繋がりの強さを感じます」と堀口。リーグ戦に入ってもOGが応援に駆け付け、特に今年はチームの調子が良かったこともあり多くのOGが声援を送った。リーグ戦最終戦で武庫川女子大学に勝利し、初めて2部リーグAブロック優勝を決めた際には山本GMが泣いて喜び、「熱く部のことを思ってくれているんだなと温かい気持ちになりました」と3回生の出田結友は振り返る。
 OGたちの根底にあるのは、ラクロス部に対する帰属意識である。「後輩たちが大好き」という山本GMも現役時代に多くのOGからサポートを受けてきたからこそ、自身も「現役生のために」という気持ちが芽生え、卒業して数年が経ってもチームの運営に携わっている。
 この気持ちもまた現役生に引き継がれ、京都大学女子ラクロス部の伝統になって続いていくだろう。

明るい性格でチームを引っ張る工藤キャプテン

変化を恐れない姿勢で
現役生にも“受け継ぐ”気持ちが芽生える

 チーム初の2部リーグ全勝優勝を達成した現役生にも、これからも続く部のために「何かを残したい」という気持ちが芽生えている。「時間を惜しみなく注げるタイプ」の工藤キャプテンは、この4年間、とにかくラクロスに熱中してきた。学生生活はラクロスだけではないということを理解した上で、「ラクロスを頑張っているのはカッコいいよねということを背中で示したい」とキャプテンとして、ひたむきさを継承していく。
 また「1部に昇格して、チームを誇りに感じてほしい」と続ける。国立の京都大学は私立に比べて多くの部で環境が劣るものの、男子ラクロス部をはじめ全国レベルで戦っている部が多い。その中でなかなか結果が出ていなかった女子ラクロス部には「日本一を目指している部に対して、若干劣等感を感じていました」と吐露する。だからこそ1部昇格への思いは強く、他の部と肩を並べる存在にチームを成長させたいのだ。
 一方、3回生の茂野水香は「変化を恐れない心を受け継いでいきたい」と語る。2018年からの女子ラクロス部を考えれば、変化の連続だった。1部になかなか昇格ができず、“変わらなければいけない”という焦燥感と“変わっていいのか”という不安の狭間でもがき苦しんでいた。
 そこから理念を策定し、GMを新設することで方向性が定まり、岩崎ヘッドコーチの就任でラクロスの質も格段に向上した。その過程は「今年突然強くなったわけではなく、昨年や一昨年の先輩の積み重ねがあって今があると思います」という工藤キャプテンの言葉通りだ。
 GMとヘッドコーチは3年で交代をする方針のため、どの選手も在学中に一度は大きな変革期を迎える。それでも「素直に受け入れて恐れず、環境に適応できることは部の強みだと思います。どんなコーチが来たとしてもしっかり結果を残し続けられる強いチームであってほしいと思います」と茂野はエールを送る。

牧田ら3回生にもOGたちの思いは引き継がれている

 

高い総合力とOGの思いを胸に いざ1部昇格へ

 話を過去最高の成績を残している今年度のチームに戻したい。11月13日に行われた2部順位決定戦では、Bブロック1位の大阪体育大学に対して7−5で勝利し、2部王者として園田学園女子大学との1部2部入替戦を残すのみである。
 「ここまでの指導はスケジュール通り。結果に関しては出来過ぎている部分もあります。来年以降も強いチームであるために成長し続けることが大事だと思います」と岩崎ヘッドコーチに気の緩みは一切ない。リーグ戦全試合でダブルスコア以上の勝利をしても1部に昇格するまでは達成感はないようだ。
今年のチームは競技に向き合う姿勢が前向きで、それ故に自主練習にも重点を置けたことで個のスキルが向上。牧田が「一人の大エースの力ではなく、それぞれの試合で下回生も含めて違う選手が活躍をした中で勝てていることは自信に繋がっています」と言うように総合力の高いチームに成長を遂げ、抜群の安定感を誇る。
 とは言えここからの戦いは京都大学女子ラクロス部にとっては未知の領域だ。リーグ戦にはない一発勝負の怖さもある。しかしチームにはここまで培った自信と、何よりも様々な思いや経験を残してきた心強いOGがいる。
 部ができて31年間積み上げてきた歴史の新たな1ページに、“1部昇格”を書き加えるべく、チーム史上最大の挑戦が始まる。

チーム一丸で1部昇格を目指す

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