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素手でバットを振る野手と、球種を絞って先発デビューを果たした投手。武蔵大学のスーパールーキーたち

 首都大学野球春季リーグ戦、真っただ中。 

 今春、首都1部リーグの6校は2戦総当たり勝率制で戦うこととなった。各校4戦を消化した現在、3勝1敗 勝率0.750の桜美林大が単独トップ。2位には2勝2敗 勝率0.500の4校が並び、武蔵大も名を連ねる。 

 第1週には筑波大と戦った武蔵大だが、2戦とも1点差で敗北を喫した。かみひとえの戦い、内容は悪くなかった。次の相手は、山口亮監督の母校でもある東海大。通算3勝40敗1分と大きく負け越している相手だ。 

「東海大に勝てばあの子たちの自信になるし、何としても勝ちたかったんですよね」 

 チーム状況はいいので勝算はあった。ただ、山口監督は勝ちをもっと確実なものとするための「奇策」も用意していた。それが「エースを先発させないこと」だった。 

 筑波大との初戦では、1年生のときから投げているエース・山内大輔投手(4年・東海大菅生)が当たり前のように先発した。調子が良かろうが悪かろうが、常にチームを引っ張ってきた右腕だ。東海大戦でも当然先発するものだと思っていたが、1戦目は筑波大戦でも投げた石綿唯人投手(2年・星槎国際湘南)、2戦目はここまで隠してきた1年生の松崎公亮投手(聖徳学園)を送り出した。 

 結果は2連勝。シンプルに強かった。投打が噛み合い、好守も生まれた。 

「今日は4年生を多くスタメンに並べたんですけど、力を発揮してチームをまとめてくれて。2,3年生もなんとか食らいついてやってくれているのでいい相乗効果が生まれていると思います。(東海大に勝ったのは)菅野が4年生のとき以来かな」 
※菅野智之 東海大・平成23年度卒→現・巨人 

 山口監督は、そう選手たちの頑張りを喜んだ。2~4年生だけではない。スーパールーキーふたりの活躍も、チームを活気づけていた。 

走攻守にバランス良く、パンチ力もあるスーパールーキー 

 1番センターでフル出場。4試合で、18打数8安打 打率.444という成績を残している左バッター茂木(もてぎ)陸外野手(1年・星槎国際湘南)。守っては、打球反応が早く守備範囲も広い。ダイビングキャッチで失点を防いだ場面もあった。そんな茂木に武蔵大を選んだ理由を訊くと、一言こう答えた。 

「家から近いので」 

「それだけ?」と尋ねると「そうです」と笑う。そんな理由で、茂木ほどの選手が入学してくるなんて武蔵大はラッキーではないか。とはいえ、もちろん茂木も、近ければどこの大学でも良かったわけではない。 

「明るくて、やりたいような野球をやっている、型にはまらない野球をやっていると思ったので、体が小さい自分には合っていると思いました」

小柄だが走攻守に活躍を見せる茂木陸外野手

 武蔵大は、山口監督が週末しかグラウンドに来られないこともあり、自主練習の時間が多い。平日も監督から練習の指示などが出されたり、相談したいことがあればLINEなどで連絡をとることもできるが、何より自分で考えて練習することが大切になってくる。茂木は星槎国際湘南高校時代、寮生活をしながら土屋恵三郎監督の下で厳しい練習をこなしてきた。基礎はしっかりしている。

「高校の練習はやらされるメニューがあるけど、大学は自由な時間が多く自分のやりたいことができるのでいいです。スイングで自分の状態をわかるようにしたいので、バッティングはスイングしかしていないです。ウエイトは一切していないですね」 

 小柄で細身、一目でウエイトトレーニングをしていないことはわかる。それでも、右に左にポンポンと打球を飛ばす。高校時代からずっと、バッティンググローブをせずに打席に立っているそうだ。バットを振るとき、直に伝わる感覚を大切にしているからだと言う。 

バッティンググローブはしない

 山口監督は、茂木のことを「小柄ですけどパンチがあるんですよ。先週もオープン戦で社会人相手に平気でホームラン打ったりとか。足も速いですし、守備範囲が広いので守りでも助けられています」と評価している。 

 茂木本人は、自分のどこが一番の売りだと考えているのだろうか。 

「バッティングで追い込まれたときに当てにいくのが得意なので、ギリギリまでボールを見られる、早打ちしなくてもヒットが出るところが自分の売りだと思っています。追い込まれるまでは自分が待っているボールしか打たないで、追い込まれたらストライクゾーンを広めにとったり少し意識を変えるようにしています」 

 .474という高い出塁率を誇るリードオフマン。ホームを踏んでベンチに帰ると、ピョンピョン跳ねながらチームメイトとハイタッチをする無邪気な一面も見せる。走攻守すべてにおいて注目されること間違いなしの茂木に今後のことを訊くと、意外にも「活躍したいという気持ちはあるんですけど、とりあえず先輩方の足を引っ張らないようにしていきたいと思います」という控えめな答えが返ってきた。 

 5月1日(土)、2日(日)は桜美林大と対戦。足を引っ張るどころか、1番バッターとして先輩方を引っ張っていく茂木の姿が見られるはずだ。 

未完の大器は武蔵大にいた 

 東海大に1勝して迎えた2戦目。先発のマウンドに上がったのは、184センチ右腕の松崎公亮(こうすけ)投手(1年・聖徳学園)だった。オープン戦では6回以降のリリーフ登板しかしておらず、ましてやエースの山内大輔投手(4年・東海大菅生)が前日先発していない。山口監督が「奇策」と言うだけあって、この日の先発が1年生の松崎になるとは誰も予想しなかっただろう。 

 試合後、松崎に初めて大学野球の公式戦で投げた感想を訊くと「甲子園に出ている人たちばかりで、自分からしたら超スーパースターじゃないですか。格上なんで、チャレンジ精神で投げました。絶対抑えるぞという気持ちで」と、少し興奮した様子で答えた。 

 確かに、対戦した東海大には高校野球のスター選手がたくさん進学している。松崎はというと、西東京の独自大会4回戦が最高成績だ。その東海大相手に、8回を投げ3安打2失点(自責1)。堂々のデビューを果たした。 

長身の1年生ピッチャー松崎公亮投手

 そもそも松崎は、自分が投手として注目を浴びる日が来るとは思っていなかった。転機は高校2年。中里英亮監督が、外野手だった松崎にピッチャーへの転向を打診した。「ピッチャーがひとりしかいなくて人数合わせですね。ピッチャーやれと言われて、いやーと思っていたんですけど、まあ」。 

 そう苦笑いをする松崎だったが、中里監督の見立て通り松崎はどんどん成長し、プロ野球のスカウトが注目するまでになった。それでも松崎自身は「プロでは絶対通用しない」と、高校2年のときから声をかけてくれていた武蔵大に進学することを選んだ。 

「高校のときにフォームを固めたり、毎日毎日同じことやっていたんですよ。監督に教えてもらったことが頭に入っているので、大学になっても同じことは続けようと思ってやっています」 

 茂木と同じく高校で学んだことを中心に練習を積んでいる松崎だが、新しく覚えたこともある。 

「先輩方に、スプリットを教えていただきました。高校のときはカーブとかチェンジアップとかいろいろ投げていたんですけど、大学に入ってからストライクが入らないものは捨てちまえと思って、今は得意だったスライダーと新しく覚えたスプリットを投げています」 

 主に、最速146キロの伸びのある直球と、得意のスライダーで打者を打ち取る。スプリットはこの日2球だけ投げ、そのうち1球で空振り三振を奪った。8回が終わった時点で105球、もしかしたら完投するつもりかもしれない、そう思ったがここでマウンドを降りた。 

8回2失点(自責1)でチームを勝利に導いた

「最後まで投げる予定はなかったですね。5回に監督さんから『いけるか?』と言われて、いきたいですと答えました。1回1回集中して、全部0点に抑えるぞと目の前しか見ていなくて、気づいたら8回になっていました。疲れましたね結構。久しぶりの先発だったんで」 

 そう言って声をあげて笑う松崎。終始穏やかな語り口で素直な言葉を発し、よく笑う松崎を見ていると、こちらも優しい気持ちになってくる。それでも、マウンドに上がればキレのあるスライダーで打者を翻弄するスーパールーキーだ。 

 4年後の目標はプロ野球選手。松崎は、これから武蔵大を背負う投手となっていく。 

首都大学野球連盟ホームページ 

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好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいと思い、OLを辞め北海道から上京。 「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦。気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターとしても活動している。 大学野球、社会人野球を中心に、記者が少なく情報が届かない大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信する役割も担う。 面白いのに日の当たりづらいリーグや選手を太陽の下に引っ張り出すことを目標とする。

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