新たな視点が注目を集めるサッカー大会「フィナンシェ杯」とは?

2023年3月、神奈川県鎌倉市で「FiNANCiE CUP(フィナンシェ杯)」というサッカートーナメントが開催された。今回で3回目を迎えた同大会だが、これまでに無い形のサッカー大会と言える。独自の視点を持って運営されているからだ。詳細を探るべく、フィナンシェ杯を主催する株式会社フィナンシェの本間 友隆氏と、会場である「みんなの鳩サブレースタジアム(以下、鳩スタ)」をホームグラウンドに活動する神奈川県の社会人サッカークラブ 鎌倉インターナショナルFC(以下、鎌倉インテル)のゼネラルマネージャー 吉田 健次氏を取材した。

株式会社フィナンシェとは?

まずは「FiNANCiE」について簡単に説明したい。FiNANCiEは株式会社フィナンシェが運営するトークン発行型クラウドファンディングサービスである。サッカークラブをはじめとしたスポーツチームやアーティストなどがオーナーとなって、ブロックチェーン技術を利用したトークンの形で「ファンの証」を発行する。それを購入したファンがオーナーのコミュニティや、提供される企画やサービスに参加したり、企画を一緒に考えたりできる。保有者同士がオンラインで交流することも可能だ。このように一種のファンクラブのような役割を持ちながら、数量があり単価が変動するトークンをサービス内の二次流通マーケットで売買することでき、ファンも利益を得る可能性がある仕組みにもなっている。また、NFTなどのデジタルコレクションアイテムの発行なども行う。

フィナンシェ杯の概要

フィナンシェ杯とは、その名の通り株式会社フィナンシェが主催するサッカー大会である。先述のFiNANCiEはJリーグクラブからアマチュアの社会人クラブまで、多くのサッカークラブに活用されている。

フィナンシェ杯は鎌倉インテルのホームグラウンドである鳩スタを会場としており、共催という形で運営されている。2021年にスタートし、これまで開催された3回ともこの場所で行われた。(※)

参加資格はFiNANCiEを利用している社会人サッカークラブだ。関東各地のサッカークラブ4チームが集い、2週に渡ってトーナメントを戦うというレギュレーションとなっている。自由に観戦できるこの大会には、各地から熱心なファンも応援に駆け付け、イベントブースやキッチンカーなども出店される会場はにぎわいを見せている。

第3回大会には、鎌倉インテルのほか、厚木はやぶさFC(関東リーグ2部)、COEDO KAWAGOE F.C(埼玉県リーグ1部)、TOKYO2020 FC(東京都リーグ2部)が参戦し、COEDO KAWAGOE F.Cが2連覇を果たした。

ではなぜ、フィナンシェはリアルなサッカー大会を開催するのだろうか。いくつかの視点で紐解いていく。

※第1回はフィナンシェ杯とは名乗っておらず、スポンサーという位置づけだった

FiNANCiEを利用する4クラブが優勝を争う

フィナンシェ杯の目的とこれまでの成果

アマチュアである社会人のカテゴリーで自前のグラウンドを保有するクラブはそう多くないが、鎌倉インテルは2021年に鳩スタを建設。同年にこの場所でフィナンシェ杯が開催されることになる。

鎌倉インテルの吉田氏は「鳩スタではサッカーをはじめとする様々なイベントが開催されていますが、そのひとつとして企画しました」と話す。第1回大会はシーズンが終わった直後の冬だったが「やりたいと話してから数週間で開催が決まりました」とフィナンシェの本間氏。フィナンシェ側は面白い企画になると感じ、すぐに準備を進めた。鳩スタ建設に必要な資金の一部はFiNANCiEを利用して調達し、トークン保有者が様々な形で関わった。そのような経緯があるだけに、このコラボレーション企画が実現するのに時間はかからなかったのだろう。本間氏は「スタジアムをみんなで作る体験が、フィナンシェに共通するところがある」と話す通り、鎌倉インテルおよび鳩スタとフィナンシェにはシナジーがある。

また、フィナンシェ杯を単純なサッカー大会で終わらせたくはないという想いが、双方から感じられる。吉田氏はクラブ運営側の視点での開催目的を3つ挙げた。

「鳩スタが完成してすぐのタイミングだったので、より多くの人に知ってもらいたい」

「社会人リーグ開幕前の強化の場として」

「トークンというデジタルアイテムを可視化するため」

FiNANCiEを利用していることで、他のクラブとは違う取り組みができると考えたのだ。

フィナンシェ杯が提供できる価値について、フィナンシェ側はどのように考えているのだろうか。本間氏は「出場チームの地域が異なるため、トレーニングマッチ以外では対戦する機会がほとんどないクラブと対戦できる」ことを挙げた。各地のシーズン開幕直前であることから、各クラブは最終調整の段階にある。この時期にトレーニングマッチ以上公式戦未満の試合ができるフィナンシェ杯は、クラブにとって参加価値が大きい。

鳩スタの「パーク」にはキッチンカーなどが出店し大会を盛り上げる

サポーターに対してはどのような価値を提供できているのだろうか。「サッカーの試合だけではなく、ファン参加型イベントを実施したことは好評だった」と本間氏が話すように、メインマッチさながらのエキシビションマッチが大会を盛り上げた。このPK大会はフィナンシェ杯ならではのものだった。各クラブ毎にトークン保有者から参加者を募集。抽選で選ばれたファンがクラブ対抗で優勝を目指す。こちらもメインの試合と同様に2週続けて行われた。

その他にも、優勝予想企画や会場ブースでのトークンプレゼントなど、各クラブがフィナンシェのリソースを活用したファンとのエンゲージメント向上施策を展開。競技外での取り組みに、新たなスポーツコンテンツの形を見た。さらに、細部までこだわり抜かれていると感じたのは、優勝トロフィーの斬新さだ。優勝したCOEDO KAWAGOE F.Cには、NFTで作られたデジタルトロフィーが贈られた。

優勝チームに贈られたNFTのトロフィー

今後フィナンシェ杯はどのように進化していくのか

「シーズン前にトークンを通じてクラブを知ってもらえる機会であり、公式戦とは違った緊張感がある」と語るのは吉田氏。フィナンシェ杯はオンラインとオフラインが融合したサッカー大会であるという点に新しさを垣間見る。出場クラブにとっては強化の場でありながら、ファンとの交流の場となった。フィナンシェとしては、トークンやNFTの認知を高める機会と考えている。

本間氏は「いろんな方面から注目されています。第3回大会は、これまで以上にファンの方に楽しんでいただけました」と、大会の成長に自信をのぞかせる。イベントとしてさらなるスケールアップを図りたいと考えているようだ。吉田氏も「開催時間や異なる地域、リーグをまたいだ調整の難しさがありますが、工夫しながら続けていきたいですね」と話した。

オペレーションや日程など総合的に判断して、現状は4チームがベストと考えているようだが、出場クラブの拡大は検討中とのこと。「体験型の企画を多く盛り込みたい」と話すが、フィナンシェはスポーツ関連の他にも音楽分野などのクリエイターに活用されていることから、異業種コラボレーションもあり得る。企画は尽きない。

参加チームの反応も上々だったという。「声がかかるのを待っていたというクラブもありました」と本間氏は話すように、FiNANCiEを利用するクラブに認知され、出場したいと思われる大会になっているようだ。それはクラブを応援するファンにとっても同じことが言える。埼玉から鎌倉まで多くのファンが応援に来ていたが、アウェイゲームの応援で遠征に行く感覚で楽しめるのだろう。

会場のみんなの鳩サブレースタジアムには多くのファンが集まった【写真:Kazuki Okamoto(ONELIFE)】

しかし課題もある。「まだ大会がトークンに直接的に影響していないこと」と本間氏も吉田氏も口にする。大会の企画やオペレーション改善に加えて、ファンからの認知を高めるための発信を強化することも大事だ。

各クラブは試合に勝つことを目的としている。これは競技面では全てのクラブに共通する。ただし、クラブ運営に関しては多種多様な方向性がある。Jリーグクラブであっても社会人クラブであっても、地域の人たちやファンとのつながりを大事にすることは基本スタンスだ。

結果的にクラブに利益をもたらすのは、勝敗ではなくステークホルダーなのだ。ステークホルダーに楽しんでもらうための、クラブごとの多様なニーズに対応できる。それがフィナンシェ杯ではないだろうか。公式戦とは違ったモチベーション、プロリーグとは異なる新たな形の興行として、これからも発展し続けていくことを期待したい。

(取材・文:阿部 賢 写真・画像:Kazuki Okamoto(ONELIFE) 株式会社フィナンシェ 鎌倉インターナショナルFC)

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