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「早稲田三羽烏」最後の1人、福井優也(福島レッドホープス)は納得するまで投げる

福井優也が今季のプレー場所に選んだのはルートインBCリーグ。福島レッドホープス(以下レッドホープス)の一員として、チームの勝利と自らのNPB復帰のためにマウンドに上がる。

済美高(愛媛)で春の甲子園優勝、早稲田大で黄金期を支えた中心投手、ドラフト1位での広島入団…。輝かしいまでの道のりを歩んできた右腕投手の現在位置に迫った。

福島へ単身赴任で乗り込み、野球人生を賭けた勝負に挑んでいる。

~野球を続けるのは僕のエゴなので単身赴任にした

「2人目の子供も産まれ妻と3人は仙台にいます。僕は単身赴任で福島でプレーします」

昨年限りで楽天を戦力外となり、12球団合同トライアウトを受験した。NPB球団からの声はかからなかったが、レッドホープスから獲得の打診が来た。

「NPB球団への移籍なら、年俸を含めた条件や生活環境は恵まれています。地方球団でも家族全員で引っ越したと思います。でも独立リーグはそうもいかない。野球を続けるのは僕のエゴなので単身赴任を決意しました。何かあった際にすぐに駆け付けられるよう福島を選びました」

2月末にレッドホープスの活動拠点である郡山市に入り、しばらくはホテル暮らし。3月10日過ぎに新居に入りNPB復帰へ向けての新生活が本格スタートした。

「結果を残し続けることが重要。コンディション維持をできるよう、家を選ぶ際には気を遣いました。1LDKの清潔感ある部屋です。寝るだけの家になってしまうと気持ちも上がらないので、多少はこだわった部分です」

マウンド上で実力を発揮して結果を出すために最善を尽くす。

~現役の可能性があるならトライアウトを受けろ

愛媛・済美高時代の2004年春には2年生エースとしてセンバツ甲子園大会で日本一。翌年秋のドラフトでは巨人からドラフト4位指名を受けるが、指名を断り大学進学を決意。一浪した後に早稲田大進学を果たす。

大学では斎藤佑樹(元日本ハム)、大石達也(元西武)らとともに黄金期を作り上げた。2010年ドラフト1位で広島入団、プロ1年目から8勝をマーク、15年には9勝を挙げた。2018年オフに楽天移籍、昨年限りで戦力外となった。

「他球団への移籍が決まると思っていましたが声がかからなかった。自信があったのでトライアウト受験も迷ったほど。広島時代のチームメートだった小野淳平が、『絶対にトライアウトを受けるべきだ』と進言してくれました」

「小野は広島戦力外になった際、裏方の話があったらしい。しかし長野久義さん(巨人)から『現役でやれる可能性があるなら、トライアウトを受けろ』と言われた。その話を聞いて受験する気持ちになった。親身になってくれて感謝しています」

昨年11月8日、それまでの本拠地である楽天生命パーク宮城(現楽天モバイルパーク宮城)でのトライアウト。シート打撃形式のテストでマウンドに上がり、打者3人を相手に完璧な投球。かつて広島の同僚だった安部友裕との対戦は大きな話題になった(結果はセンターフライ)。

「トライアウトはコンディションをキープして、普段通りに投げることを心掛けた。調子が良かった。真っ直ぐが走っていて変化球も手応えがあった。『やり切った』とは思ったけど燃え尽きていない、『まだやれる』と確信できた部分があった」

野球界の王道を歩んでいるように見えるが、常に葛藤と戦ってきた。

~早稲田のことを言われるのはイヤだった時期も

トライアウト前後を追いかけたTBS系『プロ野球戦力外通告』が話題になった。12月27日にオンエアされた同番組内では、斎藤との対談も行われた。

「反響がすごかった。カメラは気にならなかったので、普段の自分のままでいました。食事をしながら本音を語っているシーンもあったので、批判もあったらしい。でも人生の分岐点でしたし、自分を作るようなことはできなかった」

「以前から仲の良い同局関係者から『クビになったら出て』と言われていた。でも、家族を絡めての番組には出たくなかった。『12年前のドラフトから早稲田の3人がどうなった?という内容』だったので出演しました。斎藤と久しぶりに話せたのも良かったです」

大学時代から比較されてきた存在だった。福井の大学リーグ通算成績は35試合登板、11勝3敗、防御率2.57。数字上は斎藤の61試合登板、31勝15敗、防御率1.77には及ばないが、「負けている」と思ったことはなかった。

「早稲田のことを言われるのは最初はイヤでした。今は全く感じないし、『斎藤はやっぱりすごい』と素直に思います。『投手として負けていない』と思っていました。でもあいつは大事な試合で勝つ。緊張する場面でも普通に投げて結果が出せる。そこに気付いた時に、斎藤に対する気持ちも変わりました」

「ドラフト時の映像でも、斎藤や大石より指名球団数が少ないのが不満のように思われていました。そうではなく関東の球団に行きたい思いがあった。広島は練習が厳しそうでしたし(笑)、大学からの知人も関東が多かった。若かったのでその気持ちを露骨に出してしまった」

ちなみに2005年、高校3年時のドラフト会議では巨人から4位指名を受けたが入団を辞退している。関東地方にある全国区で人気を誇る球団に入れたはずだが、当時は何を思っていたのだろうか。

「甲子園で全国優勝して勘違いしている時期でした。ドラフト4位という順位に少し納得がいかなかった。また2003年ドラフト3位で徳島商の平岡政樹さんが巨人に入ったけど、すぐに戦力外になっていた。高校時代を知っていてすごい投手だったので、不安になったのもありました」

年齢を重ね、これまでのこと全てを良い経験と捉えられるようになった。

~独立リーグでの日常は人生初体験ばかり

トライアウトを受験するもNPB球団からの連絡は来なかった。しかし全国の独立リーグ球団から獲得打診をもらった。家族のことを踏まえて熟考、最終的にレッドホープスでのプレーを選んだ。

「岩村明憲監督(兼社長)には愛媛県人会で可愛がってもらった。トライアウト後には『俺は兄貴だと思っているから、行くところがなければ声かけようと思っていた』と言ってくれた。家族のこともあったので、ありがたいと思いました」

「年俸は下がりましたけど、今まで蓄えていたものがあるのでしばらくは大丈夫。でも周囲の選手の話を聞くと、実際の生活もキツキツでやっている。財布の中に数百円しか入っていない、というのは今までの人生で初めて見ました」

「一人暮らしで外食が主ですけど、ご飯を炊いたり簡単なことは自分でやるようになった。また倹約もしないといけないので、コンビニに行く機会が激減してスーパーにも足を運ぶようになりました」

NPB所属時は食事や用具等、ほぼ全てが準備されている中で野球ができた。しかし独立リーグではそのような環境はありえない。

「覚悟はしてましたが想像以上の部分もあった。今季始動もフットサル場からだった。寒かったので故障に注意しながら慎重に身体を動かしました。開幕から逆算して無理せずにやった。コンディション調整は難しいですが、試行錯誤しています」

「今まで経験してきた野球の中でも、レベル的には決して高くはありません。でも同じ独立リーグ球団との実戦に登板すると、『そんなに簡単には抑えられない』と感じました。中途半端に投げると打ち返される。内容はもちろん結果も重要になるので、細心の注意を払う必要があります」

元中日・若松駿太は福井のことを兄のように慕って、投手として多くを学ぼうとしている。

~NPB登録期限の7月末までが勝負

4月9日、本拠地開幕戦となる群馬ダイヤモンドペガサス戦(ヨーク開成山)で今季初先発。雪もチラつく厳しい状況下ながら要所をしっかり締め、6回5安打1失点で初勝利を飾った。

「寒かったです。何をやっても身体が温まらなくて不安もありました。でも集中力だけは切っちゃいけないと思った。1球ごと、しっかり意識して投げました。正直、ホッとしました」

その後もローテーションに入り週1度ペースでマウンドに上がっている。勝敗は別として、常に7回前後を2-3失点で抑える安定した投球を繰り返している。

「NPBに戻るのは難しいのはわかっています。でも可能性が1%でもあるならば試合で結果を残し続けたい。身体に違和感を感じる部分もあるけど、休むことなく結果だけは出す。まずは7月末のNPB登録期限までは必死にやるだけ」

7月末までに契約しなければ今季中のNPB復帰は絶望となる。「その後のことは考えていない」と言うものの、仙台に残してきた家族もいる。仮に野球人生が終わった場合には、今後の人生の方が圧倒的に長いのは本人も理解している。

「戦力外になった時、(現役を)辞めようかなと思った時期もありました。心は折れてはいなかったけど、家族もいるし今後のことを考えた。でも身体は元気なので、『やれる場所があるなら野球をやりたい』気持ちが勝りました」

「人生は野球だけではないのはわかっています。でも今後も野球の仕事をするなら、様々なカテゴリーを経験するのはプラスだと思う。また野球をやっていることで多くの人に出会えて、様々な場所に行けます。これも今後にとって良いことだと思います」

知名度抜群の福井は、チームの顔としても期待されている。

「できるか?できないか?」

パフォーマンスを発揮して結果を出すことがプロには求められる。年齢は問題ではないが、人生を重ねることで現実問題と向き合う必要も出てくる。

「色々と考えることは多くなりますけど、野球はできています。7月末までにどうなっているか、まあ見ていてください」

マウンド上での淡々とした態度。時折見せる相手を射るような眼差し。福井は絵に描いたような投手の姿を感じさせる。できるならばもう1回、NPBの舞台でその姿を見たいものだ。

(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力・福島レッドホープス)

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