首都大学野球春季リーグ戦、開幕! 東海大・桜美林大・明治学院大の戦力は?(後編)
4月1日、首都大学野球春季リーグ戦が開幕した。これから約2ヵ月に渡り、熱い戦いを繰り広げていく。
試合が行われるのは毎週土日。平日は次の週末の戦いに向けて戦略を練り、技術の向上を目指す。短期決戦と違い、週を追うごとにチームが変化していく様子を見られるのも、大学野球リーグ戦の醍醐味だ。開幕時と閉幕時では、まったく違う印象のチームとなっていることも珍しくない。
開幕戦、特に新チームで迎える春のリーグの開幕戦は、いつも独特の緊張感が漂う。選手たちの動きにはまだ固さを感じるが、その中でも今季の各チームの特徴や戦い方のテーマが見えてくる。開幕日の4月1日、翌2日には、日本体育大学-明治学院大学、武蔵大学-桜美林大学、筑波大学-東海大学の試合が行われた。各カード、2勝先取したチームが勝ち点1を獲得。1勝1敗となった場合は、予備日に3回戦が組まれる。
今回は、開幕2連戦から見えた各チームの特徴を選手の言葉とともに、前編・後編に分けて綴る。
東海大学
筑波大戦 1勝1敗
⬤ 2-3
〇 2-0(11回)
ここ最近、リーグ戦序盤は苦しい戦いとなることが多い東海大。今季も苦しいスタートとなったが、1勝1敗に持ち込めたのは良かった。1敗で迎えた2回戦は10回(10回からはタイブレーク、無死一、二塁・継続打順)まで無安打と打線が沈黙。11回に1死一、二塁から金城飛龍外野手(4年・東海大相模)がチーム初安打を放ち、それが決勝点となった。どんなに苦しんでも、最後に勝てば1勝だ。
その1勝が生まれたのも、若山恵斗投手(2年・東海大甲府)がいたからこそ。野手の守備も良かったが、味方の援護がない中でも11回126球を投げ切り、7安打無四球完封という結果を残した若山の粘りは見事だった。試合後は「冬の間、野手はすごくバットを振っていたので、それを見ていたからこそ打てないときがあってもしょうがないと思えました。1点でも取られたらヤバいなというムードがあったので、自分の体を使って本当に精一杯投げました」と、ホッとした表情を見せた。
昨秋もリーグ戦中盤、無死満塁のピンチでマウンドに上がり、完璧に抑えた若山。その後は先発登板もあり、チーム6勝のうち3勝を挙げた。東海大の救世主的存在だが、野球に対してストイックな若山にとっては当然のことだろう。若山の話を聴いていると、自分に必要なことを正確に把握し、質の良い練習を見つけて量もこなしていると感じる。それが、マウンドでの自信に繋がり、投球だけではなくフィールディングやけん制でも隙のないプレーを見せるのだろう。
左腕の岩本真之介投手(3年・市和歌山)は昨春7勝無敗という成績を残した。昨秋は不調だったが、この春はよみがえっていることを期待。しかし、先発した開幕戦では2回1/3 7安打3失点で降板した。1死満塁からマウンドに上がった植田結喜投手(4年・東邦)が後続を抑え、5回から登板した和久井達也投手(4年・桜美林)も安定したロングリリーフを見せた。岩本と先発二枚看板だった時期もある諸隈惟大投手(3年・東海大相模)の登板機会はまだないが、東海大投手陣には欠かせない存在。新戦力の台頭も楽しみだが、岩本、諸隈の活躍も東海大躍進のカギを握る。
打撃に関しては、まだ打線がうまく機能していない状態だ。6チームの中で唯一1回戦と2回戦のスタメンを数人入れ替えたが、最近の東海大はスロースターターなのでここからどんどん繋がる打線となっていくことだろう。
「オープン戦の終盤に調子が上がってきた」という大松柾貴内野手(3年・東海大甲府)を四番に置いた井尻陽久監督だったが、まだ当たりがない。昨秋は規定打席には少し届かなかったものの、打率.455という成績だった。ファーストストライクから積極的にバットを振り、広角に打球を飛ばす大松の姿をまた見たい。
これまでの東海大は「個々の強さで勝つチーム」という印象だった。主将の森球紀内野手(4年・東海大静岡翔洋)は「金城や成瀬など経験豊富な4年生がいるので、僕ひとりじゃなくてみんながキャプテンのような感じで中心になってやってくれています」と、森なりの主将の形を作っている。「僕も昔からひとりで抱え込むクセがあるので、みんなにうまく任せながら、これからのリーグ戦をやっていきたいと思います」。今年の東海大は「みんなで勝つチーム」だ。
桜美林大学
武蔵大戦 1勝1敗
⬤ 2-6
〇 4-3
2014年から選手たちと苦楽を共にしてきた藤原悠太郎コーチが、新監督に就任。開幕直前の人事だったため「春のリーグが終わったら学生コーチと練習して引き継ぐかもしれないですが、タイミング的に練習できなかったので」と、コーチ時代の定位置だった三塁コーチャーボックスに変わらず立つ。
黒星スタートとなった桜美林大だが、2連戦を通してチームとしての戦い方や、それぞれの役割がきちんと整理されていると感じた。主将の森田拓斗内野手(4年・真颯館)はスタメンではないが、ベンチの中で選手ひとりひとりに明るく声をかけている。ゲームリーダーは、下級生のころからレギュラーで副主将の揚野公匠内野手(4年・二松学舎)だ。藤原監督も、ゲームリーダーとしての期待を込めて揚野に背番号1を与えたという。
投手の勝ちパターンも、7回・曽我旺矢投手(2年・武修館)、8回・荒田奏斗投手(4年・都立大島)、9回・髙安悠斗投手(2年・花咲徳栄)と決めている。「まっすぐには自信を持っている」と言っていた髙安はクローザーにぴったりだ。2回戦で先発した大坪誠之助投手(3年・土浦湖北)は6回2失点と好投。昨年の春も先発していたが、秋は登板がなかった。藤原監督も「調子が上がらず二軍にいたのですが、新チームが始まるときに、春には先発登板があると思うという話を本人としました。その後取り組みも良くなってきて、今は右のエースです。今日もよく投げてくれましたね」と笑顔を見せた。
打順はなんと、選手たちが決めたという。「一番、誰打ちたい? という感じでやりたい人を決めて言ったらうまくはまった感じです」と揚野。開幕戦は11安打で2点と二桁打ったわりには得点が物足りなかったが、2回戦は9安打で4点を挙げ勝利。三番・セカンドの高松陸内野手(2年・浦和学院)は、2試合終えて9打数5安打 打率.556のリーグ首位打者だ。「去年は守って勝つという感じだったのですが、藤原さんは意外と打の方に意識が向いていて、リーグ戦で勝つだけではなく神宮(全国大会)でも勝てるチームを目指してやっています。長く打つのではなく、一球しか打てないという練習を取り入れて集中力を高めたりもしています」と、打席での一球に対する集中力が高まったことも、安打数の増加につながっているようだ。
昨秋、1年生ながら一番・レフトで出場し、結果を出していた鎌倉洸太外野手(2年・関東一)を取材した。その後、調子を落としてしまったことが気になっていたが、この春は七番・ライトでまたスタメンに復帰。「(調子が悪いときは)考えすぎて、結果を求めすぎていました。少年野球のときはバットに当たっただけで嬉しいという感じだったので、そんな感じで今はシンプルに楽しんでいます」。
そんな鎌倉は2試合で3本の安打を打ったが、二塁打が1本、三塁打が2本という驚きの内容だ。足に自信があるとは言っていたが、光のような速さで三塁に到達した。あんなにゆっくり話す人が、こんなに速く走るなんて、とそのギャップにもびっくりだ。
負けたときもみんなポジティブに次を見据え、とにかくいつも明るくいい雰囲気だという桜美林大。今季は、打の桜美林を見せる。
明治学院大学 勝ち点0
日本体育大戦 2敗
⬤ 3-6
⬤ 2-4
昨秋は、首都リーグ2部から1部に昇格したばかりの挑戦者だった明学大も、今季は「1部の明学大」だ。「1部の選手たちは守備や走塁の意識にしても、バッティングにしても、細かいところに目がいっているなと思いました。そういう細かいところのプレーを大事にしながら冬の間トレーニングをしてきました」。主将の近岡英訓内野手(4年・八王子)の言葉からも、その意識がうかがえる。
昨秋優勝した日体大に2連敗で勝ち点を落としてしまったが、決して簡単に負けたわけではない。2試合合計15安打と、10安打だった日体大よりも打っている。チーム打率はリーグ3位だ。四番の小澤輝内野手(3年・桐光学園)と七番・水落翼内野手(4年・弥栄)は本塁打も打った。それでも、あと一歩が届かなかった。「あと一歩」というのは昨秋からの課題でもあり、近岡も開幕戦後の取材で「新チームは打って勝つのが特徴。序盤の展開(日体大に2点先制されるもその裏に1点取り返し、さらに2点取られた回の裏に明学大も2点取った)は自分たちの持ち味が出ていたのかなと思いました。ただ、中盤は1点差のままで、追いついてリードするところまでいけませんでした。その、もう一歩のところが力をつけていかなきゃならないところだと思います」と話した。
「1部で優勝し、全国の舞台を目指している」という明学大が、あと一歩、もう一歩を打破するためには、まずなんとか先制点を取って有利な状況を作りたい。追う野球が追われる野球となったときに、勝つチームへと変貌するのではないだろうか。
投手は、2回戦に先発した経験豊富な片渕暖也投手(4年・伊豆中央)が柱となるだろう。1点本塁打を2本浴びたが、6回2失点と安定感のある投球を見せた。開幕戦は、髙橋風太投手(2年・国学院久我山)が先発。金井信聡監督は「オープン戦の成績、ランナーは出してもうまく凌ぐところ、若いのでこれからのことも考えました」と抜擢の理由を話した。
2試合とも、先発が降板したあとは家接光輝投手(3年・静清)、原総児投手(3年・福岡大大濠)とつないだ。金井監督は、2試合4回を投げて防御率0.00の原について「最初は四死球が多くて、打たれていないのにランナーが溜まって、置きにいったボールを打たれて失点していたのですが、2年生の途中から良くなってきました。スピードが落ちない特殊な変化球が投げられますし、落ちるボールとかも覚えたんですよね。本人は『福岡大大濠の五番手ピッチャーでした』と言うんですけどね。一番手がオリックス(山下舜平大)、二番手が法政、三番手が明治、四番手が中央に行って。でも今、原が一番活躍しているんじゃないかと思います」と、親心を見せながら笑顔で話した。
さらに「絶対的なピッチャーがいるわけではないけど、投げるピッチャーがいなくて困っているわけでもないです。まだ投げていないピッチャーの中にも期待できるピッチャーがいます。ただ、ピッチャーが頑張っても野手がエラーしたら意味がないので、そこをお互いなんとかしていきたいですね」と、次の試合に向けて気を引き締めていた。
優勝に向けて、まずはきっかけとなる1勝を取りに行きたい。
開幕週の振り返りとともに各チームの戦力について書いてきたが、冒頭でも書いた通り、大学野球のリーグ戦は「週を追うごとにチームが変化していく」ところも魅力のひとつだ。次の試合で大幅にスタメンが変わっていないとも言い切れないし、今までとはまったく違う戦い方をする可能性だってある。
首都大学野球春季リーグ戦を、あなた自身の目でチェックしてみて欲しい。