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都市対抗野球大会ベスト8、三菱重工East最年長の主将と四番は日体大の同期

 2023年の都市対抗野球大会、三菱重工East(横浜市)は、西関東地区の第1代表として2年ぶり13回目の出場を果たした。

 1964年の創部以来、名称変更や同グループ内でのチーム統合などを経て現在の形となった三菱重工Eastで、ともに戦う平野智基捕手と小栁卓也外野手は、日本体育大学硬式野球部の同期だ。日体大を卒業後、平野は三菱重工長崎、小栁は三菱重工名古屋へと進んだが、チームの統合で2017年に平野が、2021年には小栁が三菱重工Eastの一員となった。

 昨年から主将を務める平野と、不動の四番として活躍する小栁、それぞれの形でチームを引っ張るふたりを都市対抗野球大会の試合後に取材した。

四番のプライド、誰よりも打ちたい

 昨年は、西関東地区予選で敗退した三菱重工East。平野と小栁は第1代表となった東芝(川崎市)の補強選手に選ばれたため、個人的には都市対抗野球大会出場がかなったが、やはり目指すはチームでの出場だった。

 「去年、都市対抗にチームとして出られなくてすごく悔しい思いをして、(予選で)負けた瞬間から1年間、強い思いを持って準備してきました」と話す小栁は、今年で社会人10年目の節目を迎えた。「自分たちの世代3人(平野と対馬和樹捕手)が一番上なんですけど、そういう立場になったことでしっかりした姿を見せていかなきゃいけないという思いはあります」。

チーム最年長にして不動の四番・小栁

 四番に座る小栁は、まず結果を出すことで「しっかりした姿」を見せていた。1回戦のNTT西日本(大阪市)戦、小栁は3回裏に先制の中前適時打を放った。今大会、チームの初打点だ。その後、一度追いつかれたが、五番の武田健吾外野手(2年目・中日)の勝ち越し1点本塁打で勝利。小栁は、この試合3打数2安打1打点の活躍を見せた。

 2回戦の東芝戦は、先発の大野亨輔投手(8年目・専大)が完封、野手も15安打で8点を挙げ快勝。それでも、同じ西関東地区で勝手を知る相手だからこそなのか、佐伯功監督と小栁は「点差が開いても、いつ追いつかれるかわからないという気持ちだった」という。平野も「どっちに転んでもおかしくなかったと思います。大野が満塁のピンチで粘りましたが、ああいうところであっちが打っていたら、こっちが大差で負けていたかもしれない。そういう意味では守備にしてもバッティングにしても、理想のゲーム運びができました」と話した。

 三菱重工Eastの力強い打線の中でも、三番・山中稜真外野手(1年目・青学大)、四番・小栁、五番・武田と並ぶクリーンアップは特に頼りになる。1年目の山中については、小栁も「新人でこれだけ都市対抗で活躍しているのはすごいと思いますし、僕自身が同じ立場のときは浮足立っていてそれどころじゃなかったので、僕の前を打ってくれていてすごく頼もしいです」と評価するが、それと同時に「山中だけではなく常にどの選手に対しても負けられないと思っていますし、四番を張っている限りは誰よりも打ちたい、チームを勝たせるバッティングをしたいと思っています」と、闘志を燃やす。

 東芝戦では、山中が5打数2安打1打点、小栁は5打数3安打2打点、そして武田が4打数4安打1打点と期待通りの打撃を見せ、7回表には小栁と武田の二者連続本塁打も生まれた。さらに、小栁と武田は単打、二塁打、本塁打を打ち、サイクル安打にリーチをかけて最終打席を迎えた。惜しくも達成とはならなかったが、試合後小栁にそのことを尋ねると「いやー、足が遅くてスリーベースは無理なので、最初から狙ってはいなかったです」と笑いながら答えた。

東芝戦では本塁打を含む3安打

 ベスト8まで進んだ三菱重工Eastだったが、準々決勝の王子(春日井市)戦は9安打したものの、得点につながったのは江越啓太内野手(5年目・神奈川大)が1回裏に放った1点本塁打のみ。1-6で敗戦となった。チームを優勝に導くことはできなかったが、小栁は3試合で12打数7安打1本塁打3打点 打率.583という成績を残し、大会の優秀選手に選ばれた。

 プレーでチームを引っ張れる選手だということはよくわかったが、普段の小柳はどのように「しっかりした姿」を見せているのだろうか。大学時代から小栁を知る平野は「もともと物事をはっきりと言う性格で、大学時代はただ正論を言って、周りとぶつかることもありました」と言うが、再び同じチームとなったときには「チームの模範となる動きをする選手」になっていたそうだ。

「最初は自分から(チームメイトに)何かを言うことはなかったのですが、誰もが認める結果を出していますし、今は自分から働きかけていったり、厳しくいかなければいけないところは厳しくいったり、厳しすぎたらダメなところはバランスをとったり、人に合わせて言い方を変えたり。そういうことをしてくれるのですごく大きな存在です」

 社会人として10年過ごす中で、どんな経験が今の小栁を作ったのか。改めて取材したいと思った平野の言葉だった。

主将がいらないチームに

 今年の都市対抗野球大会、平野の出番は準々決勝・王子戦の6回裏にやってきた。それまでマスクを被っていた対馬和樹捕手(10年目・九州共立大)の代打で出場。7回裏からは守備にもついた。「1-3で負けていたので、攻撃的にいかないといけない、流れを変えたい、ということでの交代でした」。

王子戦、終盤に代打で出場し守備にもついた

 2点を追いかける展開で、これ以上の失点は避けなければならない。マウンドに立つのは、6回途中から登板の本間大暉投手(7年目・専大)だ。平野は「今日(の王子)は、速い球に対応できているので、ちょっと緩い球を入れてそのあとどうするか、という感じでやりました」と、本間がいつもは多投しないチェンジアップを多めに要求し、7回、8回は無失点で切り抜けた。

 点差が変わらぬまま迎えた9回表、王子の攻撃。先頭に安打をゆるすと犠打と四球で1死一、二塁とされた。四番・指名打者の吉岡郁哉外野手(5年目・法大)が初球を打ち上げ、捕邪飛に。2死一、二塁となって迎えた打者は主将の宝島史貴内野手(6年目・愛知学院大)、2ボールからの3球目は左越3点本塁打となった。

「打たれたのはツーシームです。宝島選手もいいバッターなので厳しくいこうとは思っていたんですけど、その前の吉岡選手がいいバッターなので、そこを抑えられたことで『よし! いけるぞ』というのはありました。油断したつもりはないですが、どこかに打ち取れるだろうという気持ちがあったのかもしれないですね」

 点差は5に広がり、結局9回裏は得点できないまま試合が終了。三菱重工Eastの夏は、準々決勝で終わった。試合後、平野は「悔しさが勝って冷静になれていないですけど……」と言いながら試合を振り返ってくれた。

「チャンスで1本出せたら、守備では最後1-3のまま9回裏の攻撃を迎えられたら、ですね。全部『たられば』になるんですけど、そういう『たられば』をクリアできるようになることが大事ですね」

 ベスト8より上に行くためには、具体的にどんなことが必要なのだろうか。平野は「技術的にレベルアップします、と言うだけじゃ済まされない何かがあると思います。自分のことで言うと、最後打たれた本間のツーシーム、果たしてその前の球はどんな球種を選択しておけば良かったのかなど、技術プラスそういう細かいところももうちょっと勉強していく必要がありますね。やっぱり対馬はすごくうまいので、そういう感じでできたらいいなと思います」と、同い年の対馬の名を出して語った。

捕手として主将としてチームをまとめる平野

 対馬がスタメンマスクを被っているとき、平野はブルペンで投手たちの球を捕っている。昨年から主将を務める平野だが、自分がベンチにいないこともあることから、今年はチームのまとめ方を変えたという。

「去年は逐一自分がトップに出ていろいろと言っていたのですが、今年はそれを変えてみようと思ったんです。僕はほとんどブルペンにいるので、今までのように全部言っていると、僕がいなくなると試合のゲーム運びなどがダメになると思ったので。今まで自分が言っていたところを副キャプテンに任せたりして、他から見たら今年は平野は何も言わない、あいつさぼっているよねと言われるくらいです」

 練習のときは平野が中心になるが、試合のときは副主将の久木田雄介内野手(8年目・第一工大)が輪の真ん中で指示を出す。「そうした方が戦況が見えてくるので。想像以上に働いてくれています」。そう言った平野は「自分のいないところで形になってきている。キャプテンがいらないチームになりつつあると思います。嬉しいことです」と続けた。

 2013年、当時日体大4年で主将も務めていた平野は首都大学野球春季リーグ戦で最高殊勲選手賞とベストナインを、小栁もベストナインを受賞した。リーグ戦を制した日体大は、全日本大学野球選手権大会でも躍進しベスト4という成績を残した。その後、何人もの同期が社会人野球の道に進み、平野と小栁も別のチームで野球をやってきた。それぞれの7年を過ごして再びチームメイトとなったふたりは、今主将と四番という立場でチームを支えている。

2013年の大学選手権1回戦(吉備国際大戦)、三番に平野、五番に小栁

 チームの打撃が昨年より良くなった要因について平野に尋ねると「去年、都市対抗予選で負けて、僕は東芝の補強で都市対抗に行っていたんですけど、帰ってきたら練習量と意識が格段に変わっていました。個人個人が悔しさから、もっとレベルを高くするためにはどうしたらいいかと、向上心を持って取り組んできた結果だと思います」という答えが返ってきた。

 平野や小栁がいなくても、三菱重工Eastはそういうチームなのかもしれない。それでも、これからも平野と小栁がチームに何かをもたらしていくことを期待せずにはいられない。「明日から出社です」そう言って去っていった平野の背中に、社会人野球での10年を見た。

好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいと思い、OLを辞め北海道から上京。 「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦する生活を経て、気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターに。 大学野球、社会人野球を中心に、記者が少なく情報を手に入れづらい大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信することを目標とする。

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