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「選手と意見交換」「競争意識を生む」新監督とともに戦った桜美林大の春季リーグ戦(後編)

 4月1日から行われていた首都大学野球春季リーグ戦。桜美林大は、4勝7敗 勝率0.36 勝ち点2で4位という成績で終えた。 

 前編では、開幕前の3月にコーチから新監督となった藤原悠太郎氏の方向性、森田拓斗主将(4年・真颯館)の取り組み、そして副主将の揚野公匠内野手(4年・二松学舎)を中心とした野手について振り返った。

 後編では投手について振り返る。

防御率改善が秋、優勝のカギ

 チーム防御率4.50は、リーグ最下位の数字だ。自身も防御率4.73と満足のいく結果ではなかった大坪誠之助投手(3年・土浦湖北)は「自分たちがパッとしなくて、本当に野手に申し訳ないです」と口にしたが、新チームの投手陣を再構築していくにあたり、数字以上に意味のあるシーズンだったように思えた。

昨秋登板のなかった大坪が復活

 開幕2戦目の武蔵大2回戦で先発した大坪は6回2失点と好投し、チームの今季初勝利を演出。そこから7試合に登板し2勝1敗と、腕を振り続けた。昨年の春に活躍した大坪だが、秋は登板がなかった。「ストライクも入らない、球も遅い、B戦(二軍の試合)でも打たれて、何をやっても悪くなるので、自分でもどうしていいかわからない時期でした」。大坪は、そう当時を振り返った。悶々とした日々を送っていた大坪に、藤原監督が「春には先発登板があると思うよ」と前向きな言葉をかけてくれた。

「11月か12月だったと思いますが、藤原さんと4月のリーグ戦に向けてやっていこうという話し合いをして、精神面が変わりました。目標のない日々を送っていた中で、目標が見えた。球に力が戻ってきて、オープン戦で結果も出せました」

 藤原監督はそんな大坪を信頼し、マウンドに送り出す。大坪に「中心選手としての責任は感じますか」と質問すると、おっとりとした口調ながらも「責任しか感じていないです」とはっきり答えた。この春デビューの投手が多かった中、大坪のような経験のある投手がいることは大きかったように思う。

 また、その「この春デビュー」の投手たちもよく投げた。中でも、リーグ戦終盤の日体大1回戦で中継ぎから先発へと配置換えされた布施蒼生投手(1年・日大豊山)は、7回1/3 2失点と力投を見せた。

マウンド度胸は人一倍の1年生・布施

 布施を先発させた理由について、藤原監督は「先週は球数、フォアボールがすごく多いゲームになっていました。今週は、オープン戦とここまで3カードのデータから、球数にポイントを置いて投手たちに練習をさせたんですけど、それに準じてコントロールがいいピッチャーを先発に抜擢しました」と話した。さらに「うちでは一番調子も良くて、オープン戦の先発はさせていたので、公式戦の経験は全然ないのですが思い切りました。相手も強く、普通にやってもダメだと思ったので。球数もかなり抑えてくれて、想像の何倍も期待に応えてくれました」と、試合は0-3で負けたが、布施の頑張りに笑顔を見せた。

 マウンド度胸があるところも、布施の評価できるところのひとつだという。2死満塁のピンチで藤原監督がマウンドに行ったときも「次の打者が前の打席で打たれていた選手だったので、初球の入り方について言おうと思ったら『さっき初球のストレートをレフト前に打たれています』と自分から言ってきたんです」と、布施は冷静だった。さらには「キャッチャーにも『もうちょっとインコース(のサインを)出して欲しいです』と言ったりしていて、1年生だけど自分の意思をしっかり伝えられるんだなということを今日知りました」と、藤原監督も感心するような強さを持っていた。

 荒田奏斗投手(4年・都立大島)は、4年生でリーグ戦初登板となった。東京都・伊豆諸島のひとつ伊豆大島で生まれ育った荒田は、独特な投球フォームの右腕だ。9試合15回2/3を投げ、防御率は0.57。チームに大きく貢献する投球をした。

 都立大島高校時代、荒田の学年は3クラス40人の生徒がいた。ほぼ全員が伊豆大島で生まれ育った地元の子だ。荒田が3年生のときの野球部は9人、そのうち2人は入ってきたばかりの1年生だった。広いグラウンドに室内練習場という充実した施設で普段の練習はしっかりできていたが、人数が足りないため、豊島区にある都立文京高校から選手を派遣してもらって大会に出場した。

都立大島のエースだった荒田は、桜美林大の柱に

 いとこが通っていた桜美林大に興味を持ち、AO受験で入学。野球部に一般入部した。約150人もいる野球部の部員になった荒田は「最初はみんなの名前が覚えられなかったです」と笑う。高校時代に顧問と作り上げてきた独特な投球フォームは、野村弘樹特別コーチと改良を重ねて今の形になった。「テイクバックは小さく、縦振りでちょっとでも上から叩きつけるようなイメージ。左足が早く地面につかないように、右足でプレートを蹴ってジャンプするような感じです」と、投げる途中で一瞬左足が止まるようなフォームを説明する。

 荒田について藤原監督は「一般で入ってきて、1年生のときから本当に練習も学業もしっかりやっていて、しっかりやっていればこうやってリーグ戦で活躍できるという模範の選手ですね」と森田と同じように、まず取り組みを評価した。さらに「この春デビューなので、本人には重荷かもしれないですが、うちのピッチャー陣の柱だと思いますし、ピッチングで流れを持ってきてくれることを期待してしまう、実際期待に応えてくれるピッチャーです」と、投球についても高く評価した。

 布施や荒田の他にも、何人もの投手がリーグ戦初のマウンドを経験できたことは、秋に向けてプラスになったことだろう。「基本的には、取り組みのいい選手が出てきてくれているので、スタンドにもいい影響が出ているのではないかなと思いますね。ちゃんとやって結果を出してくれればリーグ戦で投げられるんだという循環は、今チーム内で起きていると思います」。藤原監督の言葉通り、秋にはスタンドからマウンドへ活躍の場を変える選手が出てくるのか、期待したいところだ。

秋は首都を制す

 4勝7敗 勝率0.36 勝ち点2の4位。監督として初めてのシーズンを終えた藤原監督は、この結果について最後にこう言った。

「勝ち点2に関しては、3月からしか監督をやっていない私(のおかげ)ではなく、選手たちの取り組みが良くてとれたものです。自分の経験不足のせいだと思う負けもあったので、私がもっとしっかり頑張って私の力でも(勝ち点を)プラス1にできればと思います」

 開幕週はベンチスタートだった主将の森田は、その後スタメンで起用されてプレーでもチームを引っ張った。「監督の思いとしては、ヒットを打つ以上に、試合に向かう姿勢とかワンスイング、ワンプレーでチームを勢いづけるという意味もあって、スタメンに置いてくださったのだと思います。もちろん結果が出れば一番いいのですが、結果が出なかったときに打席でどう立ち振る舞うか、ということなどを意識しています」。

 そして、藤原監督と同じように、いつどんな質問をしても明快に答えてくれる森田は、この春最後の取材をこんな言葉で締めくくった。

「この春で、負けも重ねながら自分たちのやることが明確になってきたので、明日からそこに向かって藤原監督や自分たち幹部がどう動いていくかが、秋に首都を制すカギになると思います。そこを一生懸命頑張っていきます」

 秋、首都を制すのは、桜美林大となるか。

好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいと思い、OLを辞め北海道から上京。 「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦。気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターとしても活動している。 大学野球、社会人野球を中心に、記者が少なく情報が届かない大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信する役割も担う。 面白いのに日の当たりづらいリーグや選手を太陽の下に引っ張り出すことを目標とする。

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