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「合宿のテーマは”チームワーク”」身体障害者野球日本代表合宿 雨や猛暑に負けない3日間 ”もうひとつのWBC”で目指す4度目の世界一

7/15(土)〜17(祝)の3日間、福島県信夫ヶ丘球場で身体障害者野球の第二回日本代表合宿が行われた。

9月に行われる「第5回 世界身体障害者野球大会 (World Dream Baseball 以下、WDB)」での世界一連覇に向け、雨や猛暑に負けず汗を流した。

1月に行われて以来の再会、そして大会前最後の合宿に

今回は、9/9(土)〜10(日)の2日間、バンテリンドーム ナゴヤで行われるWDBに向けた合宿。

日本と韓国・台湾・アメリカ・プエルトリコの5チームが参加し、日本は4回目の世界一を目指す。

WDB日本代表選手は、日本身体障害者野球連盟に加盟している全国38チーム・約900人を超える登録選手の中から15名、そして山内啓一郎監督をはじめコーチ4名を加えた計20名が選ばれている。

代表として集まるのは、今年1/28(土)に愛媛県松山市で行われた第1回合宿以来。翌29(日)には坊っちゃんスタジアムで行われたイベント「野球伝来150周年in松山」にて結団式、新田高校女子野球部とのエキシビジョンマッチを行っていた。

1月に松山で結団式とエキシビジョンマッチが行われた

今回の第二回合宿は、本戦前にチームで顔を合わせる最後の機会。選手・監督・コーチそしてスタッフの計25名が寝食を共にし結束力を高めた。

合宿前には名球会・井口資仁さんの野球教室に参加

初日の午前には同球場で名球会主催の野球教室が開催され、前日に表敬訪問した代表メンバーも参加した。

前ロッテ監督の井口資仁さんが講師を務めたこの野球教室は、地元の身体障害者野球チーム「福島アクロス」や小学生・中学生チームとともに行われた。

キャッチボールやノックの際には近くで見守ってもらいながら、途中から井口さん自らバットを握り、直接ノックも受けた。

守備練習時には井口さんノッカーを務め、球を受けた

打撃練習では一球一球マンツーマンでアドバイスを受け、日米通算2254安打の大打者から指導を受ける貴重な機会になった。

井口さんも約1時間半、共に過ごした中で

「みなさん本当に野球が好きなんだというのが伝わってきましたし、野球が生きがいであることを改めて野球教室で感じてくれたらいいなと思いました」

と終了後に語った。

ロングティーの際は個別指導の機会もあった

合宿のテーマは「チームワーク」

午後からは全員が集まり、いよいよ合宿が始まる。ロッカールームでのミーティングでは山内監督が全体に向けて3日間の流れを説明。ミーティングの最後にはナインを鼓舞し練習がスタートした。

主将の松元剛(名古屋ビクトリー)を先頭に、太く大きな掛け声とともに全員走り足を揃えた。

松元は今大会の選手で最年長の49歳。日本代表入りは第二回大会の2010年以来14年ぶりである。

日本代表主将の松元剛選手(名古屋ビクトリー)

山内監督は指揮を執ることになり、メンバーを選ぶ際に松元の選出と主将任命は即決していた。

「松元選手は当時から元気いっぱいでハツラツとしたプレーで盛り上げてくれていましたし、その印象が強く残っていました。今回も年齢を感じさせない元気いっぱいのプレーは健在ですし、選手を引っ張ってチームをまとめてくれていると思います」

と指揮官としても頼もしい存在になっている。

山内監督とは選手としても日の丸を共に背負った

ウォーミングアップからキャッチボールまで約30分かけて行い、じっくりと動ける状態に持っていく。この日は朝から雨が降り、気温は28度台と暑さはあるものの少し抑えられたコンディションだった。

最初のメニューは内外野に分かれてのノック。山内監督そして名古屋ビクトリーでは指揮官を務める荻巣守正コーチが打ち込んだ。

本合宿で重点的に行われたのは連携プレー。山内監督はこの合宿の一番のテーマを「チームワーク」に設定した。

国際大会では守備でのミスが命取りになる。そのため、練習ではダブルプレーのケースを多く取り入れた。途中からは投手陣も加わり投内連携、そして外野の個別ノックが終わるとシートノックで全体の連携を深めていった。

ノックではケース別で行い連携を深めた

片手の選手が捕球とともにグラブを舞上げボール持ち替えて送球する「ワンハンドキャッチ・ワンハンドスロー」は身体障害者野球ならではの技術。

片手でプレーする代表選手も素早い送球で正確な動きを見せた。

ワンハンドキャッチ・ワンハンドスロー

雨も途中で完全に止み、続いては打撃練習。一人一人がしっかりと強い振りを見せ、快音を響かせた。打球は右中間・左中間と外野の間を抜け、投打で主軸が期待される早嶋健太(岡山桃太郎)は両翼100mある球場のフェンスを超えた。

打撃練習ではそれぞれが快音を響かせた

今大会最年少メンバーの24歳で、東日本唯一の日本代表選手である土屋来夢(千葉ドリームスター)は広角に鋭い打球を打ち分け、守っている選手たちからも「ナイスバッティング!」という声が何度も聞かれた。

鋭い打球を各方面に打ち分け好調をアピールした土屋来夢

最後は再びノック。3塁走者を刺すことを想定し、本塁への送球練習で締めた。冒頭の通り半年ぶりに集まったが、個々の選手の動きは軽快そのもの。

山内監督も「選手の皆”JAPAN”の選手らしくいい表情になっていた」と充実感を表した。

2日目は2試合後に練習の猛特訓

合宿2日目は練習試合のダブルヘッダーが行われた。前日の雨から一転し快晴、そして35℃を超える暑さに。

朝9時前からグラウンド入りし、体の状態をこまめにチェックしながら試合への準備を行った。

試合前に方針が伝えられた

アップが終わると第一試合が始まる前に山内監督は全員を集め、

「今日の試合もそうだけれども、大会でも全員どこかで出場するから準備するように」

と伝え、全選手起用する旨を伝えた。

この日行われた2試合は、地元福島県の身体障害者野球チーム「福島アクロス」と中学生を含めた連合チーム、そして東邦銀行軟式野球部との対戦になった。

東邦銀行は大学硬式野球部出身者を中心に構成され、東北福祉大や六大学など名門大学でプレーした選手も多い。山内監督も「より高いレベルを自分たちの目、そしてグラウンドで感じてほしい」と試合前に強豪チームと対戦する意義を語っていた。

ポジションも複数本職以外の守備位置でも起用し、外野以外のポジションは1試合で最低2人が守った。打順も組み替えるなど、あらゆる可能性を2試合の中で模索した。

全員が出場し、投打共にパターンを試した

結果は福島アクロス・中学生の連合チームでは快勝したが、東邦銀行では相手の力強い打球と巧みな投球に翻弄され敗戦を喫した。

終了後も特訓は続き、居残りで前日同様フリー打撃・ノックを2時間ほど行い17時前まで時間をフルに活用した。

山内監督はこの1日を「試合を通じて各選手が良いところ悪いところが再確認できましたし、その後の練習でも大会に向けてギアが上がったように感じました」

と更なる手応えを感じていた。

「我々のプレーで観ている方達の心を動かす」

最終日は、疲労と前日に続く猛暑を考慮して福島市内の屋内運動場で軽めの調整を行った。約2時間のうちウォーミングアップとキャッチボールで体をほぐすことに1時間ほど使い、残りはノックで汗を流した。

ノッカーを務めたのは荻巣コーチ。72歳という年齢を感じさせない強い打球も混ぜながら選手たちを鍛えた。

合宿ではノックを打ち続けた荻巣コーチ

最終調整を終え、怪我人を一人も出さずに全員が完走した。終了後には円陣が組まれ、槇原淳幹(じゅんき:岡山桃太郎)が副主将に任命された。

副主将を務める槇原

「障害者野球に長く関わり理解が深いですし、真面目で冷静な判断ができる選手なので、松元主将の補佐に加えてチームをまとめてくれることを期待し、任命しました」(山内監督)

松元はナインに「結団式でも話した、我々のプレー・スポーツの力で観てくださる方々の心を動かすことができると思っている。それを胸に大会まで過ごそう」と呼びかけ終了。福島駅でお互いを讃え合いながら解散した。

山内監督は本戦前最後の合宿から本戦に向けて、

「この合宿で大会4試合の守備位置・打順をどうするかを意識して見たかったですが、代表選手は当然ながら全員レベルが高いので、大会直前まで悩むと思います」

と”贅沢な悩み”を最後に語った。

いよいよ大会が間近に迫った。WBCに続き、世界一を勝ち取る戦いはすぐそこまで来ている。

(おわり)

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