氷都・八戸からの熱がスポーツにおける本拠地の概念を変える。最新鋭多目的アリーナ「FLAT HACHINOHE」の大きな可能性

青森県八戸市にできたFLAT HACHINOHE。

氷都に誕生した多目的アリーナはスポーツにおける本拠地の重要性を加速させる。FLAT HACHINOHEを管理するクロススポーツマーケティング社・青山英治氏、ホームリンクとして使用するアイスホッケー・東北フリーブレイズ(以下ブレイズ)総監督・若林クリス氏に話を伺った。

~「FLAT HACHINOHE」の理念は地域共生

ブレイズが20年から本拠地とするFLAT HACHINOHEとは、20年4月に開業した八戸駅西口のアリーナを中心とした地域共生型多目的エリア総称のことを指す。ブレイズを保有するゼビオグループの一員であるクロススポーツマーケティング社が八戸市から無償貸付された市保有地に建築、施設運営を行なっている敷地一帯のことだ。他競技を含め従来は使用施設単体の名称を本拠地登録するのが通例である。しかし地域共生という大きな理念があるからこそ本拠地はFLAT HACHINOHEとなった。

「行政がつくって運営する『体育施設』、スポーツ観戦を楽しみたいというニーズに応える『スポーツアリーナ』に続く、日本のスポーツ施設の第3の柱となるべきコンセプトがこうした『地域共生型多目的エリア』だ」(17年12月/クロススポーツマーケティング社・中村考昭社長)

「八戸のすべての人々がフラットに(分け隔てなく )集まる場所になって欲しいという願いがあります。プロ選手、学生、アマチュア選手、子ども、そしてスポーツに限らず文化・芸術やビジネスまで、カテゴリーや立場は違ってもフラットに楽しめるような場所にしていきたいと考えております」(青山氏)

『FLAT ARENA(フラットアリーナ)』、屋外公共空間『FLAT SPACE(フラットスペース)』、多目的スペース『FLAT-X(フラットクロス)』、公園『FLAT PARK(フラットパーク)』の4つのスペースで構成される。

地域共生を大事するFLAT HACHINOHEはプロスポーツ興行や展示会などの営利目的だけで使用されるわけではない。八戸市が20年度から30年間にわたり年間1億円(消費税別)の利用料を支払うことで年2500時間の利用枠を得られる契約となっている。学校の体育授業の他、合唱コンクール、地域の集いなどにも使用されている。

「多目的アリーナには通年型アイスリンクをベースに移動式フロアを設置できます。アイスホッケーでは3500人、バスケットボールでは5000人の観客収容が可能です。開場初年度はコロナ禍が重なりイベント開催できない時もありましたが少しずつできるようになりました。実際に氷の上にフロアを設置した状態も見てもらえるようになったことで多方面での使用ができることを理解いただき始めています」(青山氏)

昨年開催予定で中止となったアイスショーが4月28-30日に無事行われ平昌冬季五輪金メダリストの羽生結弦などが登場した。10月9-10日にはバスケットボールB2・青森ワッツの今季開幕シリーズを開催。その他にもコンベンションや地域イベントも続々と行われている。その中でもメインとなるのはブレイズのアイスホッケーだ。

東京五輪で大きな盛り上がりを見せた3人制バスケ『3×3』でも使用。
氷上にフロアを設置してバスケットボールや展示会、コンベンションなどに使用可能。

~ホームアドバンテージを生み出すアイスホッケー専門といえる構造

「観客席から選手やベンチまでが近いホッケー専門とも言える構造です。それまでの新井田も伝統を感じる良いリンクでしたがやはり違います。観客数上限なしでびっしり入ったら大変なホームアドバンテージが生まれるはずです。そういう環境でホッケーできるアリーナは日本にはないので活用して行きたいですね」(若林クリス氏)

以前は同市内・新井田地区にあるテクノルアイスパーク八戸を本拠地としていた。84年開場、約1500人収容の聖地とも言えるリンクだが老朽化も進み立地場所も市内から少し離れていた。FLAT HACHINOHEは新幹線も停まる八戸駅から徒歩3分という絶好のロケーションでアイスホッケーに特化した造りであるのも大きな特徴だ。

「開場1年目はコロナと重なり上限900人程度を想定しました。コロナの影響も少なく無事に1年目を終えられましたが今年に入り感染者も出始めました。地域全体の警戒レベルも上がり観客動員が平均600人台になっています。まずは上限900人の中での満員御礼にすることです。来年以降は政府や地方自治体のガイドラインに沿ってですが3500人のフルで満員までいきたいですね」(若林クリス氏)

アリーナ開業と時を同じくしてコロナ禍が世界中を直撃、アジアリーグにも多大な影響を及ぼした。観客数の上限制限を設けることになったほか試合自体が中止になることもあった。建設段階から注目を集めていたこともあり、初年度は全試合フルハウス(満員)を目論んでいたブレイズは出鼻をくじかれた。しかしコロナ禍が落ち着きつつある中、少しずつだが先行きも見え始めている。

~フラッと足を運べ安心して楽しめる八戸のシンボル的な場所

「絶好のロケーションで気軽に足を運べるのが強みです。今後、駅とFLAT HACHINOHEの動線途中に商業施設を建設する計画などもあります。試合がない日でも人が集まり賑わいも出るはずです。ブレイズはその中のコンテンツの1つとなってアイスホッケーが文化になって欲しいですね。アリーナ内はビジョンなどの設備も充実しているので演出などプレー以外でも楽しめるはずです。アイスホッケーを知らない人がきても満足できる場所にしたいですね」(若林クリス氏)

ビジョン、プロジェクションマッピングなどを活用して効果的な演出を生み出せる。

人口約22万人の八戸市は青森市、弘前市と共に青森県主要3市とされる中核市に指定されている。しかし他の地方都市同様、過疎化問題などに悩まされている。FLAT HACHINOHEの多目的での使用頻度が上がっていくことが地域活性化に直結する。

「誰もがフラッと足を運んだ時に楽しめて安心できる場所が理想です。周辺住宅地もどんどん開発され人口も増えている。八戸市で唯一、地価が下がっていないエリアと聞いております。また地域の盛り上がりも生まれており、近隣住民の有志の方々を中心とした『駅西盛り上がり隊』という活動もある。FLAT HACHINOHEの敷地でラジオ体操なども始まっています。すぐ近くの八戸西高が春の選抜高校野球で21世紀枠で出場するなど良い流れもあります。FLAT HACHINOHEのみならず、八戸駅周辺がどんどん盛り上がって欲しいですね」(青山氏)

八戸のランドマーク的存在としてさらなる盛り上がりが期待される。

サッカー・Jリーグ元年、93年の第1ステージを制したのは鹿島アントラーズだった。大きな力となったのは地元サポーターの熱烈な声援でありカシマサッカースタジアムの存在だった。「スタジアムがあったから優勝できた」と口にするサッカー関係者は少なくない。その後のチームはJリーグ屈指の強豪チームとなり、鹿島は全国的にサッカーの街として知られるようになった。スタジアム=本拠地の力は大きい。FLAT HACHINOHEの存在は八戸市と青森県を大きく変える可能性を秘めている。氷を溶かすような熱いムーブに期待したい。

2021/12/06 写真の説明に誤りがあったため、修正して更新しました。

(取材/文・山岡則夫、取材/写真協力・クロススポーツマーケティング社、東北フリーブレイズ)

関連記事