WWEのスーパースター・中邑真輔は入念かつ慎重な人生設計を行う

中邑真輔は世界最高峰のスポーツエンターテインメント・WWE(米国)の第一線で活躍を続けている。1980年生まれの42歳はレスラーとして全盛期だが引退後のセカンドキャリアを含めた人生設計を常に考えているという。

「新しいものを受け入れつつ自分の人生を楽しむためには計画性が必要です」

WWEスーパースターには試合内容に加え、多くの要素が求められる。

中邑は2016年1月限りで新日本プロレスを退団してWWEに入り、4月1日の「NXT Takeover Dallas」(ダラス)でデビューした。その後も着実に進化を続け、2018年1月18日のロイヤルランブル戦(フィラデルフィア)を制す。その後4月8日の年間最大イベント「レッスルマニア34」(ニューオリンズ)では、敗れはしたもののAJスタイルズとのWWE王座戦にも挑んだ。

「WWEには世界中から素晴らしい選手が集まります。その中で中心選手として居続けるためには、日々の勝負の積み重ねが大事。試合内容はもちろん、見た目、言葉、表現力など多くのものが必要になります。そのためには普段の生活が充実していることが大事です」

「セカンドキャリアの計画をしっかり立てることが大事」と語る(手にするのはABEMAオリジナルステッカー)。

~視聴率を取れるのが人気選手

WWEで生き残るための1つの指針が視聴率だ。毎週月曜日に行われるテレビショー(=テレビ放映のある大会)『WWE・ロー』の視聴率推移によって起用方法も変化する。

「視聴率での評価はすぐに興行に反映され、出場時間帯に影響します。団体上層部は常に気にしているはず。団体側が視聴率を稼ぎたい時間帯のポジションで出場するのが人気選手ということです」

アメフトシーズン中ならばNFL『マンデーナイト・フットボール』とバッティングする時間帯、過酷な視聴率競争が行われる。人気選手を大事な時間帯で起用して勝負する。

「(出場時間帯は)多少は気になりますけど、基本は自分の試合を完璧にこなすことが重要。他の選手も同じだと思います。もちろんアメフト好きが多いので単純に試合結果を気にするのはあります。例えば、(NPB)日本シリーズの結果を気にするのと同じです(笑)」

リング内外の全ての所作を駆使して視聴率を稼げる選手を目指す。

~大谷翔平や中邑真輔の名前を知らない人はたくさんいる

WWE視聴者は米国内のみならず、世界中で10億人以上にまで上る。所属選手はスーパースターと呼ばれ、注目度や影響力は 米国四大スポーツの野球(MLB)、アメフト(NFL)、バスケ(NBA)、アイスホッケー(NHL)にも引けを取らないと言われている。

「いやいや(苦笑)、米国内では他競技より知名度等は下だと思います。でも比較対象が異なります。例えば、野球は米国や日本、アジアなどでは大人気ですが欧州、アフリカではそこまでではない。WWEは全世界へ向けて発信を行いマーケティングをして広く市場開拓をしている。もちろん地域によっては浸透度の浅いところもあります」

「米国内でも野球がそこまで根付いていない地域もあります。もちろん野球は誰もが知っていますが、北部の方ではアイスホッケーやアメフトが人気だったりする。米国はスポーツの選択肢が多いので一概に括れないと思います。その中の1つにWWEがあるという感じですね」

「米国は本当に多様性の国だと痛感します。例えば、野球が大好きな人は大谷翔平(ドジャース)はすごいと思って何でも知っています。でもアメフトやプロレスしか見ない人からすると、名前すら知らなかったりする。中邑真輔に関してもそうです。米国って広いなと思います」

WWEは世界中をマーケティングして各国ツアーも行う。スポーツエンターテインメントとしての強みや凄さを感じさせる。

「米国事情を熟知した上で早くから世界戦略をしてきた。WWEのビジネスセンスはすごいと痛感します」と付け加えてくれた。

米国本土だけでなく世界中へ伝わるパフォーマンスを目指す。

~危険性があることを踏まえて人生設計を怠らない

スーパースターの中にはお金絡みのトラブルに陥る選手も多く、自己破産や犯罪に走るケースも見かける。「(人の失敗から)何も学ばねえなぁ…」と感じざるを得ないという。

「WWEの選手だけでなく、他競技の元スター選手でもそういう人は多い。根本的には人間性の問題でしょうが、自分の人生をしっかり考えないといけない。失敗したケースはたくさんあるから、そういう風には絶対なりたくない」

「WWEでは若い選手に対して定期的にファイナンスに関する勉強会があります。会社が用意してくれますが、お金がある選手は自分で勉強している人もいるし専門家を雇う場合もある。選手個人が自分の生活、人生設計についてどう考えているかが大事です」

「米国は容赦ない解雇、戦力外通告があるので計画通りにいかない部分も多い。自己破産に陥る選手がいるのもわかりますが、そういった危険性が常にあることだけは頭にないといけません」

日本国内でもかつての有名アスリートがセカンドキャリアで苦労している例は多い。中邑は新日本プロレス在籍中から将来のことを常に考えていたという。

「僕ら世代はサッカーの中田英寿さんや野球のイチローさんなど、セカンドキャリアをしっかりしていらっしゃる方々を見てきました。ジャンルやシステムは違うけど、『考え方や準備次第ではそういう先輩方のように引退後も過ごせるのでは』と以前から思っていました」

ベビーフェイス、ヒールのどちらへも対応できる表現力は大きな武器。

~オーランド、メディア出演、アート製作…

渡米後はフロリダ州オーランドに拠点を構え、全米のみならず世界中を転戦する日々が続く。

「(オーランドは)1時間ほどのドライブは必要ですが、海へ行ける場所にあるので趣味のサーフィンができるのも魅力です。またファイナンスの関係や環境が優れているのも大きい。暖かくて快適なので、大都市や寒い場所や引っ越そうとは思わない」

「日本へ飛行機の直行便がないのはきついですが、日本食レストランもできたりして環境は良くなっています。のんびりした雰囲気の観光地でもあるので、普段はTシャツ、短パン、草履みたいな格好で出歩いています。周囲の人もカジュアルで住みやすいです」

WWEを代表する選手でありキャリア真っ只中ではあるが、今後の人生設計についてどう考えているのか。

「WWEでどこまで行けるかを考えつつ、メディアや番組出演の機会をいただけるなら積極的に出たい。ぼんやりとしか考えていないですが、演技も含めて日米、どこでもチャンスをもらえれば挑戦したいです」

青山学院大時代にはレスリングと並行して美術部にも所属した。個展を開いたこともあるアートに関しての興味は変わらず持っている。

「アートで食っていくのは厳しいでしょう(笑)。好きでやっていて何かにつながれば良いなとは思っています。でも米国では良いと思ったものにお金を出す人が多い。『こいつの作品は面白い』と評価してバーンとお金を出してくれるかもしれないですから(笑)」

「まあ色々考えますが、まずはWWEで挑戦し続けます。行き着いた先にどんな景色が見えるのか、自分自身が楽しみです」

入場から試合、退場までのすべての瞬間で観るものを魅了する。

WWEスーパースター・中邑真輔は同団体でのタイトル戦線に絡むなど、信じられないことを実現してきた。今後も何をやってくれるのか目が離せない。

最後に日本のプロレス・ファン、そしてスポーツ好きな人々にメッセージをくれた。

「WWEは日本ではABEMAで見られます。またいつの日か米国へ足を運んで体感してもらっても良いのではないでしょうか。可能ならばパンデミック(コロナ禍)で流れて以来の日本公演で帰国もしたい。多くの人にWWEの世界観を味わって欲しい。その時まで全力で進化し続けたいと思います」

(取材/文・山岡則夫、取材協力・ABEMA、(C)2023 WWE, Inc. All Rights Reserved.)

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