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「ナックル姫」吉田えりの兄・勇介氏が仲間と作り上げる横浜の野球秘密基地

tsuzuki BASE株式会社が作ったベースボールジム「BAY SIDE LINE」(新横浜)と「glowing field」(鶴見)。

「ナックル姫」吉田えり(エイジェック)の兄・勇介氏が幼馴染みと共に作り上げた空間には、野球への想いやこだわりが込めらている。

「BAY SIDE LINE」(新横浜)と「glowing field」(鶴見)は、各々が異なった個性を持つベースボールジム(写真は新横浜)。

「所ジョージさんの世田谷ベースのような場所を野球で作りたい」とtsuzuki BASE株式会社の共同経営者である吉田勇介氏は笑顔を見せた。

「僕は山梨・帝京第三高、会社代表の高橋悠太は栃木・佐野日大高へ。その他の仲間も各地の高校で3年間野球に没頭しました。高校卒業後は地元に戻り、再び定期的に会うようになりました」

横浜市都筑区の幼馴染み達は高校進学時に各地域へ野球留学。高校卒業後に地元に帰ってからは草野球をプレー、そして夢の話をするようになった。

「僕は建築関連、高橋はIT系の自営業をやっています。20代中盤で独立、30歳くらいの時から『野球関連、まずはオリジナルのグラブやギアを作ろう』と動き始めました」

幼馴染みの高橋悠太氏(写真左)と吉田勇介氏(同右)。

~「glowing」ブランドのグラブからスタート

「グラブ製作のノウハウがなかったので『中国の工場へ行こう』と仲間数人で行った。その時は仕事にならなかったが多くの人と関係ができ、その後はビジネスに詳しい人に助けてもらい形になりました」

当時はNPB有名選手が使うことで国内製グラブへの評価が高まっていた時期だったが、敢えて中国製グラブを選択した。

「価格重視です。野球人口が減っている理由の1つは用具が高いこと。中国で安くて品質良いグラブが製造できれば誰もが喜ぶと思いました。使い勝手の良いグラブを自信を持って発表したかったです」

自分たちが野球をやってきた中で感じたことを形にしたかった。「これなら高校野球で使える」という品質を追い求め低コストで形にすることができた。

低価格高品質にこだわった「glowing」ブランドのギア。

~野球ができる環境を作りだす責任を感じる

次に考えたのは実際に野球ができる場所作り。野球人口減少の原因には、気軽にキャチボールすら行えない状況もあるからだ。

「軟式ボールでさえ使ってはいけない公園ばかりになりました。実際にボールを投げたり打ったりしなければ野球の楽しさがわかるはずはありません」

「環境が限られているなら場所を作れば良い。しっかり野球をできる場所があれば使ってくれるはずです。また自分たちも使用者がいない時に思い切り野球をすることができます(笑)」

「それを作れば、彼はやって来る」という映画「フィールド・オブ・ドリームス」同様の発想だった。

「自営業なのでビジネス的に赤字を出さないノウハウも多少はある。即決に近い形で前進を決めました。当初は地元・都筑区で探していましたが良い物件が出ず、新横浜で見つかりました」

データ分析機器「ラプソード」完備の「BAY SIDE LINE」(新横浜)は24時間使用可能。

~人と人との繋がりが作りだす快適な野球環境

2021年末に横浜市営地下鉄・北新横浜駅から徒歩3分の場所に最適物件が出た。2022年オープンの最初の秘密基地「BAY SIDE LINE」(以下新横浜)が生まれることになった。

「元々は宅配業者のベースだった場所で、スペースを十分確保できるので契約した。『野球ができる秘密基地が欲しい』という仲間達と手分けして作り上げました」

「約2ヶ月かけ、ほぼ手作りしました。防音などの工事は職人さんに頼みましたが、芝張りとかは友達を呼んでやりました。ネットやワイヤー等の知識も勉強しました」

続いて2023年に開場した「glowing field」(以下鶴見)も偶然の積み重ねがあり夢の実現に漕ぎつけた。

「新横浜での経験を活かし鶴見はよりレベルアップできた施設になったと思います。もちろん前回同様、こっちも仲間達と手弁当での手作りに変わりありません」

施設を一緒に作り上げてくれる人、コーチとして運営を手伝ってくれる人…。野球好き達の繋がりにより着実に前進を続けている。

「glowing field」(鶴見)には、打撃ゲージ5ヶ所、ブルペン3つ、トレーニングルームが完備されている。

~24時間使用可能な新横浜、豊富な練習スペースがある鶴見

新横浜の「BAY SIDE LINE」と鶴見の「glowing field」には各々の用途や個性が存在する。

新横浜は会員制で24時間使用可能なことが強み。そしてデータ分析機器「ラプソード」が常備してありパフォーマンスを科学的に探求することができる。

「パーソナルジムのような感じで全部入口のICで管理しています。夜中2-3時にバンバンやっている人は少ないですがいつでも使えます。僕らは野球をやりたくなったら夜中に使っています(笑)」

「ラプソードが投球、打撃用で3台あります。まだ使用方法等が浸透していない部分もありますが、新横浜へ来れば自由に使えて分析を行うこともできます」

鶴見はスケールの大きさがウリだ。打撃ゲージ、ブルペン、トレーニングルームの規模感はプロの室内練習場と比較しても遜色はない。また会員制ではなく時間貸しで手軽な価格設定なのも喜ばれている。

「打撃ゲージ5ヶ所、ブルペン3つ、トレーニングルームが完備。打撃ゲージ1ヶ所から使用できます。イベント等にも対応可能で、提携している隣の業務スーパーと合わせ30台程度の駐車場もあります」

「時間貸し制で営業時間も決まっています。『新横浜のような会員制だと値段が高い』という声もあり、学生さん等が気軽に使用してくれます。新横浜使用者の声を反映した部分も多く、清潔感に溢れています」

「glowing field」(鶴見)では、和田毅(ソフトバンク)が中心となったチャリティ・イベントも開催された。

~元プロ選手や各分野スペシャリストによる指導

新横浜と鶴見、個性の異なる2ヶ所が存在することで相乗効果が生まれ更なる進化を遂げている。

「本業が建設関係なので、電気系統などを含め可能な限り全部自分達で対応します。新横浜でやって不具合が出た場所は改善し鶴見に活かしました。逆に鶴見の良いところを新横浜にフィードバックしています」

試行錯誤を続けながら使用者にとって少しでも快適な環境作りを目指す。そして指導者として有能な人材も増えつつあり、ハードとソフトの両方が充実し続けている。

「アカデミーでは元プロの大嶺祐太氏(元ロッテ)、木村一喜氏(元広島)、坂本一将氏(元オリックス育成)が指導します。また土日の練習会には侍ジャパン社会人主将経験を持つ渡辺貴美男氏(元ENEOS)も顔を出します」

「新横浜にはトレーナー・滝原一正氏が常駐。鶴見は近くで弊社整骨院も任されている柔道整復師・小山涼太氏が管理します。広報活動は植田一気氏がSNS等で精力的に発信してくれています。各分野のエクスパートが適切な指導やアドバイスをしてくれます」

各分野エクスパートの指導も受けられるなど、野球選手たちに欠かせない施設となっている。

~野球を好きになる人が増えて欲しい

プロジェクトを始めたのはコロナ禍の余韻も残っている時期。多業な本業の傍らで「勝負」に打って出たのは「野球が好き」だったからに他ならない。

「野球があるから本業が頑張れるし、本業の売り上げが上がればこっちに投資できる。野球を諦めずにやる人、好きになる人がもっと増えて欲しいです」

野球人口が減っている中、tsuzuki BASEは安価なギアと野球ができる場所を提供することに全力を注ぐ。

「好きなことをやっているだけです」と謙遜するが、野球のために行動を起こしてくれることには尊敬と感謝しかない。

「野球界では有名な妹の名前も出してください(笑)。tsuzuki BASEを知って多くの人にプレーしに来て欲しい。本人も絶対に喜びます」

吉田えりは実家へ帰ると、「お兄ちゃん、キャッチボール付き合ってよ」と言いながら顔を出すという。何歳になっても変わらない野球好き同士の関係性が羨ましい。

大谷翔平(ドジャース)の登場などで、野球に再び注目が集まりつつある。1人でも多くが野球をもっと好きになり実際のプレーも楽しんで欲しいと感じる。

「野球やろうぜ」を形にするtsuzuki BASEの活動。今は小さなものかもしれないが、未来へ向け必ず好影響を及ぼしていくはずだ。

(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力・tsuzuki BASE株式会社)

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